出会っては(2)
ライジングサンとマロ・バロッタ艦隊がホーコラ衛星軌道に到着すると実に賑わっている。まるで軌道封鎖でもしているかのようにガンゴスリの国章を付けた大艦隊が占めているが、その実防衛の任に就いているのだ。
(全部で十八隻。駐留防衛艦隊に六隻も出したんだ)
太っ腹ぶりにルオーは少し引く。
有事に自国防衛をそっちのけにしているかのように見える。実際には十分に考慮された数なのだろう。ガンゴスリの戦力の厚さが事情を許している。
(まあ、雰囲気は有事そのものなんだけどねぇ)
大艦隊の周囲では盛んに重力波フィンの光が行き交っている。全てが完熟訓練中のアームドスキンだろう。
パイロット心理としてはとにかく長く乗って身体を慣らしたい。しかし、敵襲の可能性を捨てきれない状況ではオーバーワークはご法度である。指揮官はスケジュール管理に追われる。
「駐留艦隊側にはカラマイダが行き渡ったみたいですね」
二機種が飛び交っている。
『今のところはー。そのうち、そっちもルイーゾンに切り替えるんじゃないー?』
「余ったカラマイダはまあ、ホーコラの地上防衛隊にでもまわせばいいでしょう」
『生活に余裕できはじめれば少しずつなら軍編成もできるようになるでしょー』
操舵室から動きをチェックしているとティムニのアバターが出てきた。身長20cmの彼女の手を取る感じのジェスチャーでクルクルと舞わせる。
「張り切ってますね。ゲムデクスにパスウェイ繋ぎに近づくのも難儀です」
ミアンドラのいる旗艦の傍も数多くの機体が飛んでいる。
『夢中になってたら怖いから防御フィールド張ってるー』
「無難です」
『けど、道開けてくれたー』
アームドスキンがビームランチャーを掲げて乗機敬礼を送ってくる。彼らはもう仲間扱いしてくれている。お返しに船体灯の点滅で「ご安全に」と伝える。
『直結通路接続完了ぉー』
「まいりますか」
依頼に適うとはいえ、依頼主を放り出して助勢に行っていたのはいただけない。自ら出向いてご機嫌伺いといかねばなるまい。
「お疲れさまです、ミアンドラ様。こちらを空けて申し訳ありませんでした」
素直に頭を下げる。
「お帰り、ルオー。アデ・トブラを離脱に追い込んでくれたんだから十分な働きと言いたいところだけど」
「本当はこっちの完熟訓練に参加するべきですよね。少し休んだら手伝います。指示ください」
「いいの。諸々打ち合わせあるし、デヴォー司令からも感謝いただいてる。落ち着いたら相談あるって」
何事かと首をかしげる。
「直接言ってくださればいいのにです?」
「たぶん、艦隊ごと動いてほしい類の要請じゃない?」
「手間を省きましたか。彼女、そういうとこありますもんね」
効率重視というのもあろう。この場合は、ミアンドラを通してライジングサンに要請するのが正規ルーチンでもある。一軍を預かる者としては、後者を大事にすべきだろうが。
「では、一休みしながら現状を聞きます」
手にしたクーラーボックスを掲げると少女の瞳が輝く。
「期待していい?」
「意外性という意味では」
「楽しみ」
中身はメーザードで以前見つけたバブルアイスである。味という面ならもっと美味しいものは幾つも知っているが、目新しさでは悪くない一品であった。
「あら、面白い」
ゼフィーリアも目元をほころばせる。
「プチプチする。変なのー」
「グルメというよりは工業製品に近いかもしれませんね。舌触りを楽しむスイーツです」
「十分楽しい。アクセスして本国に紹介してもらおう」
少女の顔になっている。
しばらく、オヤツ込みの休憩を楽しむ。ミアンドラは仲良しのクーファと隣合わせで、スプーンを口に運んでは朗らかに笑い合っていた。多少は息抜きになっただろう。
「慣熟のほうはどうです? 作戦行動に入れるくらいです?」
行動中となると派手に動かせない。
「だいたいは、って感じかな。放っとくといくらでも頑張っちゃうし」
「デヴォーさんの話を聞いてからにしますが、ほどほどで切り上げましょう。駐留艦隊は別に構いませんけど」
「管理はそっちの司令に任せる」
別の司令官が派遣されている。
「問題なさそうです?」
「最初はね、ちょっと心配でもあったの。長期駐留になりそうだし、おおよそ半年スパンで入れ替えする予定」
「頃合いでしょう」
「ところが、ね」
ザロの計らいで、駐留軌道に輸送船が一つ置かれているという。航行乗員以外は全員が調理担当で、三食都度作られた食事が皆に振る舞われる。恵まれた環境にパイロットや乗員からは交代無しで構わないという意見が出てきているらしい。
「特に若い要員はね。胃袋掴まれちゃって」
ミアンドラは微妙な笑いを浮かべている。
「理解できます。ホーコラのクオリティの高い食材で作られたメニューが無料で提供されるんだったら僕だって根が生えてしまうかもしれません」
「それ、ザロ総理に言ったら駄目。わたしが困っちゃう」
「わかってますよ。そういう気分になってしまうというだけの話です」
(どうやら、寂しがってくれてるというのは本当みたいだなぁ、うん。しばらくはミアンドラ様の兄でもやるかねぇ)
ルオーは穏やかな面持ちでアイスに夢中の少女と猫耳娘を見つめた。
次回『出会っては(3)』 「なるほど、座視はできないと」




