出会っては(1)
ライジングサンが時空間復帰したのはホーコラ星系。イエローグリーンの船体は群青色の戦闘艦五隻に随伴する形である。それはマロ・バロッタの艦隊で、ルオーたちは顔つなぎにやってきている。
「準備できてるぞ」
「正気です?」
思わずきつい表現になったのは信じられないことを言われたからである。通信可能になるのを待って、すぐに繋げた相手はパネル内で怪訝な顔をしている。
「ザロさん、作業従事者に以前みたいな無茶させてませんよね?」
「させるかって。どんだけしんどいのか、俺が一番知ってるんだぞ」
「それは心得ているつもりなのですが、スピード感に真実味がなくって」
なぜマロ・バロッタ艦隊を連れてホーコラ星系に戻ってきたかというと、更新機体の受取が必要だったからである。前にミアンドラにした頼み事というのは、マロ・バロッタで開発中だった新型機の基礎設計図をホーコラに渡す繋ぎをしてほしいというものだった。
「完成形じゃなかったはずですけど」
ザロは「だったな」と答える。
「それを量産ベースに乗るものに仕上げて生産ラインを立ち上げたと?」
「基礎技術はできあがってるから組み込むだけだろ?」
「試作もせずにですか?」
それだけで数ヶ月は掛かる気がする。
「イオン駆動機や重力波フィン制御システムもパーツの組み合わせは標準化されてるんだよ。設計思想と外身だけ決まってりゃスペースもわかるだろ? そこに入るように配置するだけじゃん」
「簡単に聞こえてきました」
「難しくはないんだって。むしろ、そっちに慣れた設計者をホーコラは抱えてんだ。仕様だけ寄越されて作れって言われたら手間だが、おおよそ決まっててデザインに合わせるのは自動化もできる」
「そういうもんですか」
プロの言うことだ。納得せざるを得ない。ただし、ホーコラの従事者が請け負っていたのはマロ・バロッタの仕事だけではない。ガンゴスリの新型『ルイーゾン』の生産切り替えも急務なのだから。
「ミアンドラ様は了承してくださったんです?」
「なんのことだ?」
心配になってきた。
「ですから、一部ルイーゾンの生産を休んでマロ・バロッタ新型機に割り振ったんでしょう?」
「ルイーゾンならもう引き渡した。今は換装部品の生産やってるぜ?」
「どこにそんな余力があるんです」
素人考えでも理屈が合わない。
「で、何機くらいです? 六十くらいあると楽になります。まあ、三十でも……」
「百五十、きっちり揃えたって」
「僕の常識がおかしいんでしょうか」
五隻分百五十機のアームドスキンを渡せるという。ここまでくると驚きを通り越して呆れのほうが強くなってきた。
「正直な」
ザロが前置きしてくる。
「戦闘艦も準備してくれって言われたら無理だった。でもよ、艦は自前でいいってんだったら、その分の部品生産リソースをアームドスキンにまわせるんだ」
「なるほど。そういわれると確かに」
「アームドスキンとは比べものにならないデカブツはその分パーツも多い。それをアームドスキンに使えるんだったら生産力は跳ね上がるって寸法だ」
組立ラインまでは転用できないが、パーツ生産だけ間に合えば自動化されたラインに送り込む段取りだけすればフル稼働体制が適うという。人の手が必要なのは準備と収納手配でいいらしい。
「そりゃあ、作業員たちだって頑張ったぜ」
当然、配慮はあったらしい。
「でも、政府契約分をやってのけて信頼を勝ち得たら次は民間契約分に移れる。ここからが本格的な儲けだからな。上手くやればギャラも上がって贅沢ができる」
「家電製品ですか」
「軍需品に比べて、生産コストを抑えられるから儲けも大きいんだ」
軍需品の生産で評価を得られれば民間受注も入ってきやすくなるという。つまり、軍用に耐えられる精度の生産ができるという証明になる。それは信頼の証以外のなにものでもない。
「それはお疲れさまでした。ラウ司令も喜んでくださるでしょう」
いい報告ができる。
「そういうもんなのか。ミア嬢にも滅茶苦茶感謝されたんだけどよ」
「当然です。機体更新が円滑に進むとパイロットはかなり楽になります」
「見分けがつきやすくなるってやつだろ?」
戦場においては重要なことだ。
「敵味方の識別が簡単になるということは瞬間的な判断に直結します。これほど有効に働く要因はありません。特に今回の場合、敵味方ともにカラマイダタイプが存在して困惑する場面もちらほらと見受けられましたし」
「塗り分けしてもやっぱりな」
「性能面での利点もあります。系統が揃えられた機体は乗りやすいので」
国軍機は特に仕様にもカラーがあったりする。戦術面から必要だったり戦闘に関する伝統からきたものだったりと様々な要因があるが、やはり設計思想は各国で微妙に異なっていたりする。
「では、マロ・バロッタ側には伝えておきますね」
色々と段取りもあるだろう。
「おう。到着次第引き渡せる。収納プラントに誘導させるから」
「ありがとうございます」
「お前らは別だ。ミア嬢が寂しそうにしてるから早く迎えに行ってやれよ」
異なことを言う。
「いや、僕は彼女の保護者でもなんでもないです」
「背中押したのはお前なんだろ? 最後まで責任取れって」
「僕から自由を奪わないでもらえません?」
ニヤニヤ笑うザロ首相にルオーは仏頂面で応じた。
次回『出会っては(2)』 「お帰り、ルオー」




