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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
油断するとつけ込まれる
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真相に触れ(4)

 組成データの読み取りはクーファを始め、専門に携わる者にとってもデリケートな作業。主観が入りやすい場面である。元素レベルまで分解能を上げれば誰にとっても同じものになるが薬物はそうはいかない。分子配合が全てといって過言ではないからだ。


『麻薬にしては身体機能阻害効果が小さめになってるかもー』

 毒とはいかないまでも、身体機能を害する成分が含まれている場合も多い。

「主に精神面の覚醒効果を強めてあるのぉ。でも、興奮物質を過剰に分泌させる効果もあるから連続使用すれば壊れちゃう」

『どちらかといえば軽め? 常習性を高めてある時点で悪意のほうが強いけどー』

「合成麻薬の特徴じゃないかなぁ」


 急速に人を死に至らしめる効果はない。しかし、逃れられなくして最終的には壊してしまうだけの力はあるように見えた。


「危険性は低いほうなんですか?」

『意外と分泌系に作用する成分のほうが人体への影響は大。極微量だから良い影響を引き出すだけで、だいたいの各種ホルモンって量が多ければ劇物でしかないからー』

 ティムニがわかりやすい説明を加える。

「軽い、けど深い感じがするぅ。この山だけ分子配合まで解析できるぅ?」

『わかるわかる。やってみましょー』

「幾つかパターン出ちゃうかなぁ」


 彼女の言ったとおり分子配合パターンは複数の可能性を示す。そこから絞っていって正解を導き出すしかない。


(うそ。もしかしてぇ)

 ピンとくるものがあった。


 身体の奥深くに食い込み、いつの間にか蝕んでいく成分。今回はハイプを使用しなければ不調に感じる形で用いられている。だが、彼女を始めとしたレジット人には恐怖の対象としか思えない効果を示す。


「この成分と、他の成分混合とで分解してみてぇ」

 クーファは分子配列を直接インプットする。

『実行してみるー』

「これは?」

『合致した。この構成だと常習性誘引効果と麻痺と高揚効果がある配合になってる感じー?』

 予想が的中してしまう。

「どういうことです?」

『使ってないときは気分が悪くて、服用すると途端に調子が良くなったかのように感じさせちゃうかなー』

「タチが悪いですね」

「最後には肝心な部分を壊してしまうのぉ」


 ルオーの灰色の瞳が彼女を見つめる。それはまるで責められているような感覚を与えてきた。


「本来は悪性変異細胞にのみ作用するよう調整して配合する成分なのにぃ」

 汚物を吐き捨てるように言う。

「君が知っている、いや君だから知っているものですか?」

「……うん」

「わかりました。本件は意外と根深いのかもしれませんね。犯罪組織がどうこうできるほど単純ではないような気がします」

 言葉は柔らかく、単なる被害妄想に過ぎないと知れる。

『あのサイズの大型輸送船を仕立てる時点でバックが大きいのもバレバレじゃないー?』

「確かに。小規模なら僕もここまでこだわって調べるつもりにはなりませんでしたからね」

『チェックマークも頷けるー』


 最後のほうは耳に入ってこない。理解できないほどに混乱している。薬効と危険は隣り合わせだとわかっていても使ってはいけない成分だったのかもしれない。


(クゥたち、ティムニが言うみたいに人類に害をなすしかできない種族なのかなぁ? 信じたくないけど、現実がそう言ってるぅ)

 悲しくなってきた。


「ねえ、ルオ」

 最後の砦にすがりつく。

「通報しないのぉ? どうしてもこの仕事請けちゃうのぉ? だって、これぇ……」

「そうですね。犯罪どころか星間法にも明白に触れる薬物です。ですが、僕の仕事は対象の護衛なのですよ。荷物がなんであろうが知ったことではありません。受領した以上は完遂しなければ信用問題になってしまいます」

「そんなぁ。お願いだからやめてぇ」

 背中に額を押し付けて懇願する。

「それに、僕は顧客の情報を勝手に知ってはいけない立場なのです。もし、今回の調査を知られると問題化してしまいますね。だから、黙っていてもらえます?」

「でもぉ」

「積み荷がどう扱われるか、それは僕にも君にも関係のないことです。罪に問われることはありませんので安心してください」


 そんなのは全く慰めにもならない。レジットの薬で誰かが危害を被ろうとしている。自分たちと同じ苦難を与えようとしているのだ。


(星間銀河は楽園だと思ったけど勘違いだったかもぉ。クゥ、誰かを苦しめてまで外にいたくない。こんなことになるんだったら、あの惑星(ほし)に閉じこもっていればよかったぁ)

 絶望に溺れそうに感じる。

(レジットの民にとってどこもかしこも残酷なんだぁ。そんなにクゥたちの罪は重いのかなぁ)


 心配そうに見つめてくる金髪の青年だとてクーファたちの苦しい心情を本当に理解してはくれない。経済という逃れようもない毒で締め付けてくる星間銀河人類の一員でしかない。それがとても悲しかった。


(苦しいよぉ。つらいよぉ。これが世間を知るってことなのぉ? そうなら、クゥはどこかに閉じこもっていたい)


 クーファはライジングサンから送り出されてもルオーの顔をまともに見られなかった。

次回『朝日に照らされる(1)』 (初めて心から好きって思える人だったのにぃ)

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― 新着の感想 ―
クーファちゃん、優しい子ですね……! そして、そんな優しい娘を、ルオー君は絶対に悲しませない!ということを、私は知っている!!(誰)
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