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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
縁なき衆生は度し難し

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温もり恋し(4)

「あなたは意固地になってるんです」

「勝手に他人を語るな!」

「そこまで認めたくありません?」


 スナイピングビームが近くのダミープレートを一つひとつ貫いていく。ムザがひそんでいるプレートに当たってないのは偶然でしかない。


「権威を欲しがってスナイパー部隊を編成したところまではよかった。あまり聞かない珍しいものですから戦果もそれなりについてきたでしょう」

「名を高めるに適した方法なのは間違いない」

「でも、あなたは自身がリーダーとして権威を一身に集める手段を使い、それで成功してしまった。だから、弱い姿も見せられなくなってしまったんです。それが、この戦法を編み出す一因にもなった」


 リフレクタの光を認める。彼は意識することもなくスナイパーランチャーを向けてトリガーを絞ってしまう。


「く!」


 それはやはりルオーの使う仕掛けであった。ムザは即座に加速してその場を離れ別のダミープレートに移動する。彼がいたプレートは一拍の間もなく貫かれていた。

 彼も狙点に応射するが手応えはない。ルオーのアームドスキンは基本に忠実に、一撃のあとには間髪入れず移動している様子だ。


「隠れて狙うはずのスナイパーたちを正面に据える戦法です。上手くいけば機能しますが、弱点を知る者からするとリスクばかりが目立ちます」

「リスクを負わねば手に入るものも入るまい」

「破られれば、立て直しも利かない場所に友軍をさらす羽目になってもです?」


 事実、ダミープレートの裏に入られた今は、彼のスナイパー隊は蹂躙されているに等しい。抵抗するのも適わないのだ。


「彼らはあなたの見栄のために死んでいくんです」

「言うな!」

「引き返すタイミングはあったのに突き進んでしまった。それが、あなたが作り上げたムザ隊が欠けていく原因でもあったのにそこから目を逸らしています。なにがあなたを衝き動かしているんです? 手に入れた名誉を手放すのが怖いだけなんじゃないです?」


 再び光が認められ彼は撃つ。今度はスナイピングビームの筋に赤熱する様子が見えた。しかし、爆発することもなく溶けたのみ。ルオーの使う仕掛けはそうも単純な構造しか持っていない証明である。そして、ムザはまた慌てて加速する羽目になる。


(自らの場所を相手に知らせ動かされる。こんなことをくり返せば消耗していくばかりではないか)

 緊張感は比べものにならない。


 しかし、それは彼が敵する部隊のアームドスキンにも与えていたものだと思い直す。スナイパーがどこかにいて、いつ撃たれるかわからない恐怖。心底味わっていた。


「さっき、僕を卑怯と言いましたけど、あなたに狙われていた機体のパイロットもそう思っていたんですよ」

 まるで心理を読んだかのように告げてくる。

「自分からは見えない位置から急に撃たれる。戦場でそんな怖ろしいものはありません。あなたにとって当たり前の戦法が、相手には脅威でしかないんです。なじられても仕方ないんじゃないです?」

「しかし、それが戦場というものだ」

「それは、あなたの主観でしかないです。狙われる側に立って考えてたのは回避方向くらいで、気持ちなんてどうでもよかったんじゃないです? まあ、それも命懸けの戦場での姿勢としては致し方ないでしょう」

 頭から否定はしてこない。

「かくも特殊なスナイパーという存在。味方としてなら心強かったでしょう。ですが、被撃墜率が前衛より極端に低いのも事実。それが非難に繋がるのも心理というものです」

「だから、自分はスナイパーの特殊性を知らしめなくてはならなかったのだ」

「主義主張の類なんで、それをとやかく言うつもりもないです」


 ルオーは次々とダミープレートを焼き切っていき、ムザの居場所は少なくなっていく。あと少しで、プラズマブラストの光を見せずに移動するのは困難になりそうだった。


「ただ、やり方に問題はなかったんです?」

 質問は終わらない。

「仲間を集めるのに自らが権威を持つ必要はあった。主張を広めるのには耳目を集めるのが重要ですから。でも、いつからかあなたは権威を持つことが一番に変わってしまった。手段が目的になってしまったんです」

「誰かが先頭に立たねば上に掛け合うこともできまいが」

「そう自分に言い訳してです。肥大化した自我を抑えようともせずに突き進んだ。その結果がこれです」


 一つのミスが全てを終わらせる戦術だった。それは否めない。すでに彼のスナイパー部隊は残りを数えるほうが早いだろう。


(認める。が、せめて奴だけでもここで討たねば仲間の命が浮かばれない。自分の全身全霊を懸けて貫いてみせよう)

 集中力を最大限に高める。

(耐えるのだ。光に反応するな。あれはまやかし)


 耐えることさえできれば正確な位置を知られることはない。これ以上、陽動に引っ掛からねばルオーが動くしかなくなるはずであった。

 そして、またリフレクタに見える光が至近距離で瞬く。彼はトリガーを絞りたくなる衝動を全力で留めた。ところが、光は消えてくれない。


「貴様はぁ!」

「ここまでです」


 ムザが見たのはモスグリーンのアームドスキンのリフレクタ光だった。

次回『温もり恋し(5)』 「意気地なしらしい引き際だ」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 なんというダブルスタンダード⋯⋯。 権力者の言い訳って何時もそうですよね?
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