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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
縁なき衆生は度し難し

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温もり恋し(3)

 本格的にダミーシールド群の攻略を進めたいタイミングなのだが、裏には敵の本隊もいる。不用意に抜こうものなら集中攻撃されるだろう。


(主任務とは別に、ライジングサンの社員としても働きを見せなきゃいけないんだろうけど)

 ゼフィーリアの立ち位置は難しい。


 戦死は論外である。情報部のエージェントとしての存在意義が間違っている。戦場に在りながら戦死を否定するのは驕りだともいえようが避けねばならない事態だ。


(もちろん死にたくないわけじゃない。エージェントである以上、危険とは背中合わせだって自覚はある)

 星間銀河圏の秩序を守るためにならば、必要とあれば命を投げ出す誓いも立てた。

(死に場所がどこかなんて直面しないとわからない。でも、今じゃないのは間違いない)


 手控えしたい。が、すればカラマイダ隊は厳しい衝突を避けられない。犠牲が出たときにルオーはどう考えるだろうか。彼女が任務を優先して、他の犠牲を見逃したとして遠ざけようとする可能性も高い。避けねばならない。


「おっさきー」

 刹那の躊躇の間にパトリックが飛び込んでしまう。

「掻きまわしとくからゆっくりおいで」

「独り占めなんてさせないんだから」

「おやおや、そんなにオレちゃんのこと心配? 結婚しちゃう?」

「ばーか」


 このバディは思いきりが半端なさすぎる。考える暇もなく身体が動いて飛び込んでしまった。

 咄嗟に見まわして、慌てているスナイパーにビームを浴びせて撃破する。しかし、それでどうにかなるものでもない。敵本隊が力場刃(ブレード)を抜いて殺到してきている。


「く……」

「お疲れさま。ありがとうございます」


 耳にふわりと飛び込んでくる声。それと同時に、正確無比なスナイピングショットが通過していって、突撃してきたアデ・トブラのアームドスキンを薙ぎ払ってしまう。


「カラマイダも突入します。先導してあげてもらえます?」

「了解よ」


(ルオーはわたしも守る対象だと思ってる)

 幾度も感じてきたこと。

(パットもそう。今も前で奮闘してくれてる)


 まさに獅子奮迅といった戦い方だ。我が身を顧みることなく敵中で暴れていた。全ては彼女のために。


(わたしは死にたくないんじゃなかった)

 改めて自覚する。

(この温かな場所が恋しくなってる。ずっといたいって思っちゃったから、どうすればいいのか迷うのね。ある意味、エージェント失格かしら。でも、悪くない)

 ベルトルデをフォローすべくフィードペダルを踏んだ。


 ゼフィーリアは自分の中に残っていた人間臭さが愛おしくもあった。


   ◇      ◇      ◇


 強固なはずであったダミープレートの壁は今や崩壊の危機に瀕している。スナイピングビームで敵部隊に圧を掛けそこねたムザの部隊は、間合いの内に入られた少数の突撃隊に脆さを露呈していた。


(あんなものを)

 彼は悔しさに歯ぎしりする。


 よく観察していると、なにをされたのか理解できる。ルオーは特殊な兵器とも呼べないような仕掛けを放り込んできた。それは一秒かそこいら、円盤状の光を発するだけの物理弾。


(だが、無視できん。特に我らは)


 今現在スナイパー隊の身に起きているように、彼らは狙撃間合いの内側に入られると極端に弱い。なので、敵が近距離に入ってくるのに神経質になる。自身の命に直結するからだ。

 身近でリフレクタの光に類するものが見えると反射的に撃ってしまう。そうしないと生き残れないからである。特に、目の端に映るような状態だと、ほぼ条件反射で撃つ。


(しかし、そこに本当に敵の姿がなかったら)

 当然、敵に向けるべき砲口は見当違いの場所を向く。


 白兵戦を得意とする部隊であればそんなことはない。周囲にリフレクタの光が瞬いているのなど当たり前のことだから。ある程度、意識から切り離しているだろう。

 しかし、スナイパーは絶対にそれができない。してはいけないし、身体に染み込んでしまっている。それを逆手に取る作戦を仕掛けられてしまった。


(あれは我らを狙い撃ちにする狙撃者殺し(スナイパーキラー)だ)

 怒りがふつふつと沸いてくる。


「ルオー・ニックル、貴様、同じスナイパーでありながら、よくもこんな卑怯な手を!」

「あなたがダミーシールドなんて使うからです」


 レーザー通信が飛んできた。つまり、かの青年は彼の居場所さえおおよそ把握しているという意味である。


「相手が優位に立てる環境を用意するなら、それを攻略する手段を講じるのは当然じゃないです?」

 至極真っ当な意見だ。

「だからと言って!」

「スナイパーの弱点を突くなって言うんです? それこそ押し付けですよ。僕はあなたみたいに同業者に共感を求めるタイプじゃないです」

「苦しみを知っているのにか!?」

 苛立ちをそのままぶつける。

「僕たちって本来、こっそりひそんで一発で仕留める小狡い戦法が得意なんです。完全に日陰者であるべきです。それなのに、あなたは日向で活躍するのを望んだ。間違ってるって前にも言ったでしょう?」

「ならば、誰がスナイパーの苦しみを汲んでくれるという?」

「見てる人は見てるもんです。実際に、あなたがスナイパー隊を編成するのを指揮官は強く否定しなかったはずです。つまり、きちんと評価はされてたんです。それで満足できなかったんです?」


(周りが見えてなかったと言うか?)


 ムザはその指摘があながち間違いではないと知りながらも認めるわけにはいかなかった。

次回『温もり恋し(4)』 「彼らはあなたの見栄のために死んでいくんです」

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更新有り難うございます。 [他人の嫌がることは進んでやりなさい] 日常と戦場で使える言葉。
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