深き逢瀬の(3)
『σ・ルーンにエンチャント。機体同調成功』
ルオーはクアン・ザと同期を行う。
「戦闘出力。アームキャッチにデコイランチャーを」
『出力120%に設定。両アームキャッチ、ランチャーに接触接続を行います』
「デコイカートリッジをフルロード。ナンバリングをセレクタースイッチへ」
『ナンバリング1から換装設定にしました』
特殊兵装の搭載モードにする。通常の戦闘であれば使いにくい兵装なのだが、今回は有効に作用する。望遠パネルには衛星軌道上に無数のダミープレートが配置されて、今や遅しと待ち構えている様子。
(主力も裏に入れてるかぁ。あくまで狙撃戦法を踏襲する気だとこっちも予測していると思わない?)
あえての受け身なのだろう。それだけの自信があるとみえる。不用意に接近できないのも確かではある。
「オレもフルロードするのか?」
パトリックが兵装を訊いてくる。
「弾液に困らない程度で構いません。使いやすいようだったら補給に戻るくらいの心持ちで大丈夫です」
「んじゃ、そうさせてもらう」
「わたしはフルロードで出る。面白そう」
ゼフィーリアの声音は軽い。
「ありゃ、迷っちゃうね。足りないようなら分けてもらっちゃうよん」
「あげない。そんなこと言ってお尻触ってきそうだもの」
「アームドスキン越しも駄目とかガード固すぎじゃね?」
腰回りにマグネットキャッチさせるのが普通である。融通し合える場所なのだが、お触り禁止らしい。
「しゃーないな。危ない立ち位置はオレちゃん担当で」
「それがいいかしら」
「はいはい、いくらでも頑張りますよーっと」
兵装が済んだら順次発進する。ライジングサンは側面スロット方式なので真横に飛び出た。下のほうに位置しているマロ・バロッタ艦隊もアームドスキンの放出を進めている。
ミアンドラにまわしてもらったカラマイダが二十機ほど前面に展開できるものの大多数がパンテニールである。彼らだけでダミープレート攻略をする作戦なのだが、あまり意気は上がっていない感じだった。
(半信半疑なんだろうねぇ、僕が保証したところで)
ダミープレートは自航能力のある金属盾にすぎないのは分析済み。力場盾を展開する機能もなく、ビームで簡単に貫ける。裏に予備のスナイパーランチャーを仕込まれている程度。
ただし、機能面で高くないだけ量産が利く。今もアームドスキン保有数を遥かに上まわる数千枚が配置されていた。そのどこに敵アームドスキンがひそんでいるかわからないので攻めにくい。
(電波レーダーが通らないのはもちろん、レーザースキャンも阻まれるもんねぇ)
重力場レーダーでは分解能が足りなくて、向こう側にも質量が散在しているくらいの認識しかできない。無闇に近づけば、どこから狙撃が飛んでくればわからない状態にされている。
スナイピングビームが来ればどう足掻いても回避できない距離まで詰めないと勝負にならない。接近する部隊は崩されるのを覚悟で行くしかない。
「壁立てられたようなもんだぜ」
パトリックが例えている。
「通常のビームランチャーだと、近づかないと一発じゃ抜けないくらい分厚いと来たもんだ」
「重さもあるから直撃させただけでは弾き飛ばせもできないものね」
「だからって、オレたちが不慣れなスナイパーランチャー持ったって大して役に立たないし。ルオー、あれ使えね?」
狙えと指さしている。
「スクイーズブレイザーです? 無理ですよ。見せちゃいました。対策打たれてます。やってみます?」
「ものは試しだ」
「まあ、意味がないわけでもありませんからね」
クアン・ザにスクイーズブレイザーキャノンを構えさせる。途端に二十機ほどアームドスキンが飛び出てきた。
『ラジエータギル展開。スクイーズブレイザー、チャージアップ』
狙いは甘めで即座に放つ。
ダミープレートの壁を焼き払うかと見えたが、アデ・トブラのゾフリータがリフレクタを前に突き出し集団で射線に入ってきた。直撃すると弾き飛ばされているが、スクイーズブレイザーもそこで拡散されている。
「ありゃ、防いじまうか」
「リフレクタは防御フィールドより単位面積あたりの防御力が高いんです。艦艇相手には有効でも、アームドスキン相手となると油断させてないと効果が半減以下になります」
「意外ね、何機か束になると防げるなんて」
ホーコラ会戦では戦闘艦を撃沈しているが、阻止しようとした直掩機は弾かれただけで無事だった。その戦闘情報は同盟内で共有されていて、対策されていると思っていたのだ。
「大きくて防御力はそこそこの目標には使えるんですけど、アームドスキンには反動の大きいだけの兵器なんです。しかも、連射も利かなければ装弾数にも制限がある。予備動作も大きいですから使える局面を選ぶんですよ」
「アームドスキン相手ならスナイプフランカーのほうがよほど使いやすいか」
「そういうことです」
スクイーズブレイザーキャノンが使えるなら特殊兵装など不要だった。敵はスナイパー部隊を揃えるほど察知能力が高い。使用する以前から防御を打たれるのも当然だ。
「というわけで、あれの出番です。その前に撃っちゃっときましょう」
「おいおい、無駄弾違うんかい」
「果たしてそうです?」
ルオーは一定間隔でスクイーズブレイザーを撃ち込んだ。
次回『深き逢瀬の(4)』 「一人でもいいから撃ち殺したくてウズウズしてるのに」




