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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
縁なき衆生は度し難し

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思いしは(6)

 モンテゾルネ旗艦クーデベルネの作戦室に先に到着していたのは当然ながら司令官のデヴォー・ナチカに、メーザード艦隊司令官メラ・オード、そして傭兵(ソルジャーズ)艦隊の軍監二人にリーダー。そのバロム・ラクファカルは取り巻きのコレット・クラニーとバッチナ・ドルマンを従えている。


「これはラウネスト司令、いいところを譲っていただき感謝いたします」

 メラは素直に礼を口にする。

「いいってことよ。うちだけでどうにかなる相手じゃなかったかんな」

「我が軍はなかなかに戦果があげられておらず、苦労させているので。兵も快勝を喜んでおりまする。モンテゾルネに技術指導いただいた新型機がいずれ到着はするのですが、それまでは我慢のときと言い聞かせていたところですので」

「そりゃお互い様さ。まだ、うちのパンテニールじゃアデ・トブラのゾフリータとまともに当たれんからな」


 機体更新が間に合っていない部隊同士、用兵で補い合う状況を作るしかない。今回は綺麗に噛み合った。


「両部隊とも見事でした。粘った甲斐があるというもの」

「そっちでタイミング調整してくれたからだぜ、デヴォー」


 全体の指揮をしていたのは彼女だ。モンテゾルネ部隊がダミープレートの傘の大部分を釘付けにしてくれていたから崩せた部分もある。


「物量的にも技術的にも一歩先を行っている同盟だけれど、戦い方次第でどうにかなるのよ。今後も協力をお願い」

 仕切るのも上手い。

「こちらこそ」

「大変かもしれんが任すぜ」

「ええ。協力し合ってこそ勝機があるというもの。そういう意味で自省していただきたいわね?」

 ウクエリとデトロ・ゴースの軍監を窺い見る。

「足並みが揃わないからと言って好機を逃してよいものか?」

「その言われようは遺憾ですな」

「好機であれば他の意見を無視していいとお思いであれば勘違いも甚だしいわ。救援行動で戦死した兵士もいるのをお忘れなきよう」


 非難も当然のこと。多くはないが、傭兵(ソルジャーズ)以外にも戦死者がいるのは事実である。


「結果的に勝ったじゃない。言いたい放題とかムカつく」

 傭兵のコレットが毒づく。

「アデ・トブラを引っ張りだして大ダメージを喰らわせられたのは傭兵部隊(うち)の勇気ある行動からだろうが」

「勇気と無謀を履き違えては困りますわね、バッチナさん?」

「なんだと?」

 傭兵勢は不満たらたらである。

「文句言うくらいなら来なくてもよかったのにさ」

「だよな、コレット。俺らだけでも勝てたってもんだ」

「立派な大口だ」


 ラウネストが皮肉るとバッチナが柳眉を逆立て腰を浮かす。しかし、バロムが手で制していた。


「救援を当てにしていたのは本当だ」

 傭兵リーダーは認める。

「俺の勘が勝負どころを感じただけで説得できるだけの材料がなかった。だから、強引にいかせてもらった。負担を掛けたのは謝ろう。しかし、アデ・トブラを劣勢に追い込めたのも悪くない結果のはず。配下を辱めないでくれ」

「そちらの流儀は知らない。でも、組織というものは相談なしで動かないもの。今後は遠慮してくださらない?」

「わかった。協力を願うことにする」


 バロムが仲立ちしたことで取り巻きの二人は自制することにしたようだ。ぶつぶつと文句は口にしているがその場は収まる。


「勝つつもりだったんですね」

 ルオーが引っ掛かりを覚えた点に言及する。

「では、どうして本気で勝ちにいかなかったんです?」

「なんのことだ?」

「あなたには見えていたはずですよ? どのダミープレートに敵がひそんでいるかが。それを共有もせずに勝利を目指すと言われても説得力がないんですが、そのあたりはどうなんです?」

 ディープリンクだけで事足りる。

「見えてる、か」

「ええ、そのはずです」

「…………」

 今度はバロムの表情が険しくなる。


 彼がおそらく新しき子(ネオス)であることまでは言わない。だが、本気で勝とうとしていたとは思えない点が不審だった。


「勝つべきときだと言うなら急ぐべきです。なにせ敵は同盟。いつ、他国の艦隊が出現してくるかわからない状況」

 誰にでもわかることだ。

「今回は僕が頼んでガンゴスリ艦隊に、ゼオルダイゼ領宙ギリギリのとこを遊弋していてくれるようにしてありました。救援艦隊を出させないようにするためです。それだって決して安全な作戦行動ではないのですよ?」


 意図的に時空間復帰(タッチダウン)をくり返したり、付かず離れずの航行をしていたりしている。いつ急襲を受けるかわからない神経をすり減らす作業なのだ。


「こちらは努力を払っているのにです。怠慢じゃないです?」

 鋭く指摘する。

「もしかして、あなたは自分一人が手柄を立てられれば十分とでもお考えなんじゃないです?」

「なに言い出すのよ、こいつ、偉そうに」

「そうだ。俺たちのリーダーの勝負勘はそんじょそこいらの奴とは違うんだ。バロムが勝てると言ったら勝てる。そうやって戦ってきた」

「あとから来てなにがわかるってのよ」

 弁が立つのは二人の中の不安の表れに思える。

「ルオー・ニックル、なんの勘違いか知らないが、俺だって誰もが見えるものしか見えない。見えるのは戦闘の流れだけだ」

「根拠のある話ではないので引きましょう。ですが、誰かの犠牲のうえでもぎ取った名誉など認めたくないものです」

「勝手にするがいい」


 ルオーは射線に近いバロムの殺気の視線に閉口した。

次回『深き逢瀬の(1)』 「でも、あの男だけは道連れにしてやるから」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 まぁ、傭兵ってあくまで個人(グループ単位)ですから。
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