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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
油断するとつけ込まれる
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真相に触れ(3)

「パッキーはぁ?」

「まだ帰ってきません。珍しいことではないので心配無用です」


 相方は趣味と実益を兼ねた行為に勤しんだのだろう。そこまではルオーの関知するところではない。


「メッセージのとおり、依頼の品らしきものが手に入ったので確認していただこうと思いまして」

「はーい、するするぅ」

 なぜか上機嫌になった。


 今日もウサ耳追加モードだった。ただし、色が違う。こだわりが有りそうだが尋ねるのが怖い。宙港までそれでやってくる度胸に感服するのみである。


「メディカルルームにお願いします」

「ここぉ?」

 前を歩いてもらい、着いたところで肩越しに示した。


 どうにも女性を従えて歩くというのが苦手である。横を占めるほど親密でもない。消去法で後ろを歩くことになる。見上げたクーファの横髪が跳ね、ウサ耳が胸に当たる。


「君が望んだ機器があるそうです」

「そうなんだぁ」


 見上げる金の大きな瞳が怖ろしく可愛い。胸元も余計に大きく見えてルオーを刺激する。思わず抱きしめたくなるのを自制しなくてはならなかった。


(無防備なんだよね。パットが対象外じゃなかったら絶対にライジングサンに入れたくないな)


 パトリックは成熟する間際から上がストライクゾーンだという。クーファはそれ以前の少女にしか見えなくて勘弁だと勝手なことを言っていた。


「邪魔じゃないですか?」

 中に入りながらウサ耳をツンツンする。

「ルオのお声をよく聞くためなのぉ」

「それは狼の台詞でしょう。ウサちゃんじゃないのですか?」

「ん、じゃあ、次は狼の耳にするぅ」

 おとぎ話に例えると乗ってきた。

「そういう問題じゃないです」

「おおかみみみみ……、違うの。おおかみみみみ……、言いにくいのぉ」

「無理して狼しなくていいですから」


 なかなか真面目な話にならない。クーファみたいなタイプにとって彼のような人は格好のからかい相手でしかないと感じた。


「わお、びっくりぃ」

「そうです?」


 航宙船の中なので診療台以外は機器しか置いてない。それでなくともスペースを取る機材が多いので最小限にしてあると聞いた。その機器類にクーファは釘付けになっていた。


「先端機器が勢揃いぃ」

「僕には無縁なものなのでお好きに使ってください。わからなければティムニに手伝ってもらいましょう」

「手伝ってもらったほうが早いかもぉ」


 待ってましたとばかりに二頭身アバターが飛び出す。今まで彼と対するときは投影パネル内のバストアップが多かったのに、直近は3Dアバターが多めになった。


(彼女の中でもブームがあるのかもしれないな)

 ルオーはコミュニケーションに困らなければどちらでもいい。


『遅いから始めようと思ったのにルオーが止めるしー』

「だって、二度手間になるじゃないですか。一緒のほうが早いです。ティムニだって全銀河の薬物組成を網羅してるわけではないでしょう?」

『あたしにできないことはないー』

 豪語する。

「じゃあ、真っ先にパットの『妙齢の女性を口説かなければ気が済まない病』を治療してください」

『あれは無理ー』

「クゥも無理ぃ」


(二人に匙を投げられるとは不治の病認定かな?)

 憐れな相方に心の中で合掌する。


 トレーの上に置いたプラ製の小袋の中に入れられた錠剤を見せる。ティムニは渋い顔で見ているだけだが、クーファは躊躇いもなく一つを手にし中身をつぶさに観察した。


「やっぱり見るだけじゃわかんなぃ」

 プラプラさせている。

「ですよね」

「でも、天然系じゃなく合成系の薬かもしれないのぉ」

「違いが見分けられるものなんですね」

 小袋を受け取る。

「砕いたほうがいいですか?」

「うん、粉末にしてそっちのビーカーの精製水に溶いてぇ」

『それからねー』


 指示されつつ作業を進めていく。初めて使う機材ばかりで、手ほどきを受けながら必要な状態にしていった。やはり猫耳娘に協力を仰いだのは正解だったようだ。


「分析に時間掛かります?」

 撹拌されたり、軽く加熱されたりしているビーカーの中身を見ながら訊く。

「計測できる状態になったらすぐぅ」

『検出そのものは機器がやるから問題なし。あとは検出データをどう読むかだけの話だしー』

「そうなんですね。そこは僕が全く立ち入れない領域みたいです」

 微塵も知識がない。

「一番癖の出るところだから気を付けないとぉ」

『知ってる範囲で決着つけたがるもんね。実際は違うかもしれないのにー』

「先入観も危ないのぉ。どういう薬だって思い込んでたら判断間違えちゃってぇ」


 溶液化してからはできることがほとんどなくなった。二人の言われるがままにセンサーを浸すのみである。数多くの投影パネルが検出データを表示させて浮かび、その前でクーファとティムニが唸るのみ。


「溶解を早くする成分と吸収を良くする成分は除外ぃ」

『これも段階遅効化成分だから要らなーい』


 線グラフから一つひとつ成分が抜かれていく。そうすることで山の中に隠れていた本来の成分が徐々に露わになっていく。


『こんなもんかなー』

「も少し削れるぅ。これは免疫効果を抑えて効きを良くする成分ねぇ」


 ルオーの手の届かないところでハイプの正体が明らかになった。

次回『真相に触れ(4)』 「タチが悪いですね」

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