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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
縁なき衆生は度し難し

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思いしは(2)

 ムザは、イルメアが少し焦れてきたかと感じる。


 前に出てきては狙撃の砲火を受けて下がるマロ・バロッタのアームドスキン『パンテニール』の部隊。何度もくり返されているうちに、若干引き出されてきている。ダミープレートの傘の上端が倒れてきているのだ。


(だが、気になるほどではない。効かないからといって追撃してしまうのはスナイパーの行動ではない。それをしないだけでも自制心が働いている)

 精神がささくれ立っているのに耐えていると思う。


 戦況は変わっていない。彼のいる傘の中ほどはモンテゾルネ部隊の前進を阻んでいるし、ナッシュの下端付近もよく牽制してくれている。このまま時間を稼げば傭兵(ソルジャーズ)はいずれ崩壊するだろう。そうなったとき連合部隊がどう動くか。そこの対処が重要である。


「抜けられまい」


 三百以上のアームドスキンを百機で完全に足留めできているのである。痛快であった。一時は揺らいだアデ・トブラの狙撃戦術であったが復活しつつあると思える。それこそが彼らの地位を保証してくれる。


「数を増やせばいいというものでもない」


 マロ・バロッタの部隊に引っ張られるようにメーザードのアームドスキン隊も上がってきた。波状攻撃をされれば厄介だがスナイパー部隊にはまだ余裕がある。

 メーザードの機種も前世代のもの。スナイピングビームの集中砲火を喰らえばパワーと緩衝力が足らずに弾かれる。同じことだ。


(ソルジャーズは今に逃走するしかなくなる。連合の部隊は大ダメージを負った奴らを収容して撤退するだろう。我らの勝利だ)

 ダミープレート戦術を用いているかぎり、何度来ても同じ結果を出せる。


「来るぞ、イルメア」

「見えてる!」

 何気なく忠告した。

「変わったって同じこと!」

「そうだ。押し返せ」

「撃て……、え?」


 メーザードの部隊は下がるマロ・バロッタ部隊と交代せず、その場から大量のビームを叩きつけてきた。しかも、隊員がひそむダミープレートに集中しており、穴だらけにしてしまう。無論、後ろにいた機体を巻き込んでだ。爆散の光が前後して複数起こる。


「なん……で?」

「移動してなかったのか?」

「移動……? あ!」


 ムザは数射するごとに移動するよう命じていた。マロ・バロッタ部隊が仕掛けてきたばかりの頃は忠実に守っていたように思う。それも確認していた。

 ところが、ろくに応射もせずに下がってく進撃がくり返されているうちに移動する手間を省きはじめていたようだ。どうせ撃ち返してこないなら押し返すだけでいいという心理が働いてしまったのだ。


(動けなかった。いや、動かないように持っていかれた)


 そのためにマロ・バロッタの部隊は小さい損害を出しつつも同じ行動を反復していたのである。隊員たちの感覚が鈍るほどに。

 そして、満を持してメーザード部隊が動いた。百二十機を有する部隊は狙点解析を行いつつ前進し集中攻撃を敢行したのである。


「してやられた! 逃がせ、イルメア!」

「やってる! けど、十機以上やられちゃった」


(やってくれたな、デヴォー・ナチカ!)


 前世代機の弱点を逆利用した、心理の隙を突く戦術だとムザは歯噛みした。


   ◇      ◇      ◇


「タイミングばっちりじゃねえか。あの司令官、本物だな」

 マロ・バロッタ司令官のラウネスト・ラウダはニヤリとする。


 気づいてくれることを祈りながら機動戦を仕掛けていたが、思いどおりメーザードの部隊を動かしてくれた。きっちりタイミングも合わせて集中攻撃も仕掛けてくれる。


「さて、どうする? 薄くなった分、突破しやすくはなった。モンテゾルネの手札を動かすか、それとも俺たちに動けって命じてくるか。それ次第でこれからの対応を考えさせてもらうぜ」


 艦橋(ブリッジ)要員は彼のやり方に慣れている。読み合いからの変化は、敵も味方も意表を突くものだ。どんな指示が下されてくるか予想はしているだろう。


(動けって言ってくるならやってやるさ。ただし、まともにじゃないぜ。時間を掛けて裏にまわるようにする)

 引き続きの機動戦だ。

(ソルジャーズの連中が弱っていようが知ったことじゃねえ。悪いが、俺は自分の手下が可愛いんだよ。無理させるか)


 そのうえで、以後はもっと自由に戦術を駆使するように変える。モンテゾルネを主力と考え、彼らを囮に使う司令官には従えない。幅広く動かせてもらうと考えていた。


「っと、マシなほうの司令官だったか。よーし、合わせて動くぞ」


 モンテゾルネの後詰めが動きはじめている。反り返るように上端を狙う構えだ。彼らはその攻撃をサポートするよう牽制をすればいい。


「道開ける準備しとけよ。それまでは、たっぷりビーム浴びせとけ」


 当てる攻撃ではない。傘の中段から下のスナイパーが上に来られないようにするだけの砲撃である。


「もうひと押し足りないようですね。手を貸します?」

「ラウ教官、あんたの仕事のわりに詰め甘いじゃん。耄碌したのかい?」

「お前ら!?」


 レモンイエローとモスグリーンのアームドスキンが彼の部隊の上を抜けていく。白い機体も続いていた。


「やれんのか?」

「難しいです?」


 軍学校時代は目立たなかった青年からの心強い返事にラウネストは眉を上げた。

次回『思いしは(3)』 「じゃあ、今日から彼氏彼女でいい?」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 慢心はいけませんよね。
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