白む空見て(6)
傭兵のアームドスキン二百四十機に対し、アデ・トブラの本隊四百機が向かい激突する。そうなると件の青い要注意機も彼らスナイパー部隊だけにかまけていられない。
(狙撃シチュエーションとしては難しくなるが機能しなくなるわけでもない)
ムザはあきらめなどしていない。
そのためにダミープレートの配置を円筒状に広げて内部を戦場に設定した。傭兵部隊に側面から圧力を強めていく。そうすることで注意を逸らし、本隊が攻めやすくしている。
「弾液を惜しむな。連合の部隊が来る前にソルジャーズだけでも崩しておくんだ」
立て直しが利かないほどに。
「砲身壊れても気にするんじゃない。そのためにプレートの裏に予備のランチャー置いてあるんだから」
「弾液の換装はダミープレートの物を先に使うように。どうせ使い捨て兵装なんだから無駄にしない」
ムザ隊メンバーでスナイパー部隊全体の指揮を執る。実績もあり、手慣れた彼らの状況判断が正確だからだ。
(牽制としては悪くないはずだ。だのに、持ちこたえているな。あの青いやつが先頭に立って受け止めているか)
戦列の様子を観察する。
メトソールというネームの機体が半ば無双している。危険と察して数機掛かりで攻撃しているというのに、その全てを撃破にまで持っていく活躍具合だ。戦局を考えれば狙いたくもなるが、周囲に敵味方とも多数抱えていて難しい位置である。
「ソルジャーズの戦列が持ちこたえているだけに後ろも崩れんか」
「少し絞らない、ムザ? この距離じゃ限界ある」
「近づけばそれだけこちらもリスクを負わねばならん。自重しろよ、イルメア」
回避が難しくなるほど詰めていない分、撃破率もよくない。牽制には十分というレベルに留まっている。
「たった八隻分の部隊にこれでは先が厳しいですよ?」
臆病なナッシュでさえ焦れている。
「連合の部隊が来ても状況的には変わらん。ソルジャーズを救援しなくてはならないんだから、こちらの罠の中に入り込んでくるしかないのだ」
「あれは本隊に任せて連合部隊に仕掛けるんだね?」
「当然だ。確かに優勢とは言えんが本隊は容易に崩れはせん。ソルジャーズを孤立したままにすればいずれ力尽きる」
イルメアを諌める。
注意すべきは連合部隊を簡単に合流させないこと。稼いだ時間の分だけ傭兵は疲弊する。そうなれば連合軍にとって、連れ帰らねばならないお荷物にもできる。
(それまではこの戦型を維持する)
中継子機経由でダミープレートを操作している。それだけの数の子機を使っているのでレーザーを用いた通信網も確立できている。スナイパー部隊は今の状態が最も作戦展開能力が優れているのだ。
「来ました。連合の部隊です」
ナッシュが真っ先に気づく。
「よし、第三段階だ。迎撃態勢に移行する」
「いよいよだね」
筒状に配置したダミープレートをゆっくりと進来側にずらしていく。傘状に広げて、奥に行くほど狭まる形状にする。これで連合部隊を受け止めて足留めする。
その間に本隊が傭兵を崩してくれればよし。手間取るようなら後詰めの部隊も投入されて結局はすり潰されていくしかないだろう。
「後ろは気にせんでいい。本隊が上手くやってくれた」
あいもかわらず、傭兵部隊は突撃一辺倒である。本来であれば、彼らスナイパー部隊は連合に対するために背中を見せる形になってしまう。見越して、本隊が敵を押し包むように半球状に展開してくれたので、後背を突かれる心配もなくなった。
「愚かですよね」
ナッシュがほくそ笑んでいる。
「敵地に乗り込むというのは極めてリスクの高い作戦なのに、いつもどおりの戦い方をする。それなら、こちらの思う壺というものです」
「連合軍は連携に失敗しているのかもしれんな。この時間差に意味を感じられん」
「これまでもそんな感じでしたよ。ソルジャーズは突出気味でした。功を奏していたのは今日まで。手柄を欲しがりすぎた者の末路です」
正面にはモンテゾルネのアームドスキン隊。見るからにダミープレートの意味を察している様子である。イオン駆動機搭載でパワーに優れたスフォルカントを前面に押し立ててスナイピングビームを受け止める陣形である。
特殊だと感じるのは、後詰めのマロ・バロッタとメーザードの部隊が上下二弾重ねに見える点。その意図が読めない。
(やはり難しいな。さすがのデヴォー・ナチカというところか。油断ならん)
敵司令官は策士で名高い女性。侮っていいものではない。少し柔軟な対応が可能な状態にしておく必要性を感じる。
「イルメア、上端に移動して近場の隊員の指揮を。ナッシュ、お前は下だ。敵の動きに合わせて独断で動かしていい。任せるぞ」
不気味な陣形に対する配置を取る。
「やるよ、ムザ。ツワラドの仇はいないけど憂さ晴らしくらいはさせてもらう」
「無茶はしないでくださいよ、イルメア。隊長の負担にならない程度に」
「小うるさいね、あんたは。いつもいつも説教じみて」
苛立たしいのか彼女の声音は険悪だ。宥めて送り出さねばならなかった。それでも、きちんと仕事はしてくれると仲間を信じている。
(ここで大損害を与えれば今後の戦局は俄然有利になる。正念場だ)
可能ならガンゴスリとライジングサンだけと対峙する状態にしたいムザであった。
次回『思いしは(1)』 「そのまま行く?」




