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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
縁なき衆生は度し難し

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白む空見て(3)

 白い背中が震えている。彼女はまた泣いているのだろうか。


「イルメア?」

「…………」


 悲壮な表情で求められたので彼も応えたが、イルメア・ホーシーが本当に欲しかったのは情愛ではなかったのかもしれない。ムザ・オーベントにはそのあたりの機微がわからなかった。


「ねえ、なんでツワラドは死んじゃったの?」

 振り向いた顔は涙に濡れている。

「敵が上手(うわて)だったとしか言えんな」

「でも、あたしを庇ったりしなければ!」

「挟撃された時点で厳しかった。あいつが踏ん張っていなければ、お前はここにはいない。どちらが良かったのか、自分は答えを持たない」


(嘘でもお前が生きていてくれてよかったと言うべきか? それも違う気がする)

 誤魔化しなど通用しないだろう。


「仇を討ってよ、ムザ。あの女を殺して。原因を作ったライジングサンのスナイパーを殺して。じゃないとツワラドが浮かばれない」

「無論、狙う」


 とは言ったものの、彼女の論法がおかしいのは間違いない。お互いに戦場にいるのだ。彼らも数えきれないほどの敵を屠ってきたし、敵は彼らを屠ろうと狙ってくる。その中で起こったことなのだから、一方的に相手を責めるなど変だ。


「だがな、イルメア。お前が無茶をすれば余計にツワラドは報われん。自重しろよ」

「でも……」


 濡れた頬を指で拭う。その程度が精一杯だ。ムザは彼女を慰める術を持たない。努めて冷静に、イルメアが無理をして死に近づかないよう見守るしかない。


(しかし、だ。ルオー・ニックル、あの男だけは討たねばならん。この戦争、勝ちたければ奴を消すしかあるまい)


 ホーコラ討伐戦でやはりキーになったのは青年である。あの恐るべきスナイパーが、とてつもないアームドスキンを用いて艦隊の直接攻撃など仕出かさなければ戦局は友軍優勢のまま進んでいたはず。


「危険すぎる。罠を張ってでもルオーを墜とすしかあるまい」

「やって、ムザ。そのためならあたし、なんでもするから」

「周到な準備が不可欠だ。だから、先走るなよ?」


 イルメアは真剣に頷いているが、感情的になりやすい彼女を信用はできないと思うムザであった。


   ◇      ◇      ◇


「で、アデ・トブラを攻めるって?」


 デヴォーが受けたのは傭兵(ソルジャーズ)艦隊の増軍の報。さらに共闘を持ち掛けてきた。両国の軍監はZACOF(ゼイコフ)としての義務のように言ってくる。


「簡単じゃないでしょ。わたくしはメーザードばかりか、マロ・バロッタにも指揮を託されているのよ。軽々しく言わないでちょうだい」

「でありますな」

 副官も同意する。


 ようやく兵員の入れ替えも完了し、モンテゾルネ艦隊は機能しそうな状態にできた。ただし、総数は五隻に減っている。それ以上は出せないと本国が言っているのだ。


(悠長に防衛ばかりにかまけていたらアドバンテージを奪われてお終いよ。攻める姿勢を常に見せてないといけない)

 それは確かだ。

(でも、勇猛なだけがペースを奪う手段じゃないの。傭兵(ソルジャーズ)の連中みたいに突っ込んでいくばかりではいつか破綻するわ。どうせ、ガンゴスリのお株を奪いたいとか思ってるんでしょうけど)


 弱っているところを叩くつもりなのだ。ただし、向かうのはゼオルダイゼではない。あそこには脅威の五十隻艦隊がいる。倍増したとはいえ八隻で突貫など自滅行為。なので、アデ・トブラを狙うのだ。


「手の焼けること」


 アデ・トブラが易しい相手なのではない。同盟を強化するための軍拡を求められて、財政的にも厳しい編成をしている。彼女が調べたかぎり、総数で三十は下らない艦隊戦力を保有しているはずである。


「見殺しにはできないわ。連合軍形成を公表している以上、放置すれば約定を守らない国と誹りを免れないもの」

「もう少し有利な局面で運用開始といきたいものです」

「許してくれないみたい。悪いけど、頑張ってもらうしかなさそう」


 口振りからしてガンゴスリ艦隊には共闘を持ち掛けていなさそうだ。ウクエリとデトロ・ゴースの両国は手柄を欲するあまりに目が曇っているとしか思えない。デヴォーから持ち掛けるのもありだろうが、傭兵(ソルジャーズ)部隊が意固地になるのも困る。


(ルオーにだけは教えておいたほうがいいかしら。わざわざ伝えなくても掴んでるような気がしなくもないけど)

 なにせ情報戦において、どの国も彼らには勝てまい。


「データリンクで情報流して共有しましょう。アデ・トブラ星系のデータを持ってるのはうちくらいでしょうから」

 出し惜しみしている場合ではない。

「仕方ありませんね。メーザードはともかく、マロ・バロッタは怖ろしいところなんですが」

「構わないわ。どうせ下すしかない相手。どこかで手打ちなんてゼオルダイゼが許しておかないし」

「確かに」


 情報共有は副長に任せて、彼女は現有戦力でのアデ・トブラ攻略戦術を練りはじめる。彼女の五隻にメーザードの四隻、マロ・バロッタの三隻で十二になる。どうにか勝負できよう。


「さあ、ここからは本腰入れていかないとね」

 気合を入れる。

「まずはアデ・トブラとウェンディロフという両翼をもぎ取る。それでもゼオルダイゼ本体は十分に強力なんだから」


 デヴォーは艦橋(ブリッジ)要員に喝を入れた。

次回『白む空見て(4)』 「言い得て妙なのも本当」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 逆恨みがまた増えた⋯⋯。(ある意味サガですかね?)
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