表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
朱に交われば赤くなる
342/350

暁差すとき(4)

 エスメリアはルイーゾンに力場盾(リフレクタ)を立てさせたまま突進する。フィードペダルは床まで踏んだまま。受ける反動で機体はブレるし、そのときに腕や脚を失うとしても構わない。接近して叩いておかねばならない敵だ。


「わあああー!」


 光に染まりそうな視界に覚悟を決めつつ吠える。ところが、青白いビームがいつしか全面の紫色に染まっていた。


「なにぃ!」

「ヤバい! 来ちゃったよ!」


 ビームが全てプラズマボールに変わっている。こんなことをできるのは一人しかいない。


「ルオー!」

「そのまま行ってください」

「ってやるう!」


 モニタが曇る。ビームコートが一気に蒸発して湯気になったのだ。機体表面温度が跳ね上がってアラームが鳴る。しかし、彼女は気にせず突っきった。

 開けた視界には至近に敵スナイパー機。紫色のスパークに視界を埋められたうえにルオーの狙撃もあって動けないでいる。ブレードを掴む左腕を一直線に伸ばしたまま目の前のアームドスキン『ゾフリータ』に体当たりにいった。


「ひゃあぁ!」

「イルメア!」


 隣りにいたもう一機のスナイパーが助けに入る。スナイパーランチャーを向けられる前に接触した。ブレードは燃房(チャンバー)を貫き、誘爆してモニタが真っ白に。

 見えないが、エスメリアはフィットバーに手応えを感じている。戻った視界には腹にブレードが突き立ったゾフリータの姿があった。


「逃げろ、イルメア……」

「ツワラドぉ!」


 腕は誘爆の影響で装甲が溶けているし、関節各所からなにかが吹き出している。左腕はもう使い物になりそうにない。

 ブレードが刺さった場所からプラズマ炎が噴出しつつある。誰かを殺したであろう感触が妙に生々しく伝わってきた。


「はいはい、メリアちゃーん。引くとこですよ」

「パトリック?」

「ゼフィちゃん、彼女よろ」

「了解よ」


 引き離されたところで爆炎が広がる。彼女のルイーゾンは白いヘヴィーファングに渡され遠ざかっていった。


「そんな、ツワラド……」

「貴様、よくもぉー!」

 台詞が交錯する。

「なにやってるんです? スナイパーがこんな奥深く入って無事に帰れるとでも?」

「ルオー・ニックル、貴様だけはぁー!」

「生きて帰れたのに、のこのこと戦場に戻ってくるからです。今度は確実にいきますよ」


 ムザ隊と呼ばれるアデ・トブラの有名なスナイパー部隊の一員であろう。すると、今彼女が墜としたのはエース級の敵のはず。まだ感覚が曖昧だった。


「丸腰で来るものか」

 直掩に囲まれている。

「パット、出番です」

「はいよ。任された」

「僕はちょっと撃ちすぎました」


 ルオーはクアン・ザの固定武装のスナイパーランチャーからグリップを外し、そこに弾液(リキッド)カートリッジを再装填して戻す作業をしている。その間をパトリックのベルトルデが白兵戦で埋めていた。

 彼女に迫る光刃も白いヘヴィーファングのパイロット、ゼフィーリアが退けてくれている。それどころか一機の胴を撫で斬りにして爆散させた。


「ほどほどになさいな、パトリック」

「あいあいよ、ゼフィちゃーん」


 彼女たちの部隊は突き抜けて本隊に合流する途中であった。深追いすべきところではない。スピードを殺さないようキープしている。ライジングサンのメンバーに腕を引かれていく。


「私は……」

「大戦果よ。でも、中破してるから無理しないほうがいいかしら」

「ありがとう」


 追いすがろうとするムザ隊はクアン・ザが狙撃で遠ざけている。彼らがいるということはここは最後尾なのであろう。


(ああ、私は自分の役割を十分に果たせたのか?)


 エスメリアはひどく疲れているのに改めて気づいた。


   ◇      ◇      ◇


 混戦をまだ抜けられない。ただし、今度は友軍本隊とゼオルダイゼ部隊が戦闘しているあたりまで下がってきている。比較的安全なところまでライジングサンメンバーはやってきていた。


(さすがにかなりやられてるな)

 ルオーはゼオルダイゼ部隊の損耗具合を見る。


 動揺著しい状態で後背から本隊の突撃を受けたのだ。原因を作ったのは彼だとはいえ、派手に破損パーツが飛び交う戦闘宙域を見れば憐れに感じてしまう。


(退路は残してあるんだから退いてくれないかなぁ)


 戦闘艦の撃沈数をセーブしたのは考慮してのこと。あまり多くを失えば退くに退けなくなる。心情的にも物理的にもだ。手負いの敵は命を顧みず味方に噛み付いてくるので遠慮したい。


「ティムニ、ミアンドラ様に手心を加えて退きどころを作ってあげるように伝えてください」

『もうやってるー。あっちが粘ってるだけー』

「勘弁してほしいです」


 もう一押し、なにかきっかけを作らなねばならないかと考えたところで射線に貫かれる。反射的に機体を引くとビームが通過していった。


「お前かぁー、ライジングサン!」

「げ!」


 そこにはものすごいスピードで迫ってくるアームドスキンの姿があった。資料データで見た白銀のスルクトリである。


(たしか、『一閃のビクトル』とかいう……)

 敵のトップエースだと思い出した。


「このままでは帰れんぞ!」

「いや、帰りなよ」

 パトリックが迎撃に出る。


 しかし、スピードに乗った突進を受け止めるにはベルトルデの慣性力が足りない。弾かれて進路を逸らせるのが精一杯で、即座にクアン・ザに目標を定めたスルクトリが鋭いなんてものではない一撃を振り下ろしてくる。


(本気です?)


 ルオーは弧を描くブレードに目を瞠った。

次回エピソード『朱に交われば赤くなる』最終回『暁差すとき(5)』 「それほどの敵ならば!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 しつこいし、視野が狭くなってるな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ