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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
朱に交われば赤くなる
340/346

暁差すとき(2)

 ナビスフィアは敵に向かって右側への後退を示している。ルオーはバックウインドウに映る友軍部隊がそちらへと舵を切るのを確認しながらクアン・ザを後ろ向きに加速させた。


(大胆だなぁ。普通に戻るんじゃないんだ)


 真っ直ぐ下がれば同盟艦隊の方向。それはない。すでに回頭して逃げに掛かっている戦闘艦を追えば敵部隊は死に物狂いで止めに掛かる。少ない数でそれをやるのは危険極まりない。


(なら、開いてる側にって考えるのが順当だけど)


 ミアンドラは逆回りに一周して帰ってこいと言っている。そこにはまだ、敵右翼を形成していたアデ・トブラ部隊百二十機がいるはずだ。その背中を襲えと言っているに等しい。


「ということは……、と」

 追撃の速度(あし)を止めろと言われている。

「下がるぞ、ルオー」

「エスメリア様? するとだいたい退いた感じですね」

「ほとんどいない。アデ・トブラの左翼がすごいスピードで来てる。急げ」

 出し抜かれて焦っているだろう。

「行ってください。殿(しんがり)をやります」

「しかし」

「いいですか? このまま左回りに戻ると正面に敵の背中が見えてきます。指揮官候補のあなたならこの局面でなにをすべきかわかるはずです。できます?」


 逡巡する様子が伝わってくる。しかし、決断は早かった。


「わかった。後ろを考えなくていいのなら、わたしが友軍を導こう」

 理解が早くて助かる。

「ミアンドラ様も追って指示するでしょうが、そのつもりで友軍機に態勢を取らせておくと勝負が早いです」

「やる。ここは任せた」

「よろしくお願いしますね。僕たちが素通りできるくらいが望ましいです」


 エスメリアは一層ルイーゾンを加速させて味方をも抜き去っていく。先頭に立ってくれるなら安心だ。


「では、僕たちはもうひと頑張りいたしましょうか」

「ちょっと重いぞ、ルオー?」

「うじゃうじゃ追い掛けてきてるんだけど」

「狙撃は止めてみせますからどうにかできません?」


 ルオーはスナイプフランカーをフリーにして備えた。


   ◇      ◇      ◇


「してやられた」

 ムザ・オーベントの噛み締めた奥歯が鳴く。

「三隻撃沈。艦隊の被害は甚大です。それ以上に、帰る場所を失ったゼオルダイゼ部隊が形振りかまわず全力で追ってきてますよ」

「背中を脅かされてもか?」

「それどころか我らが尻を叩かれそうな勢いです」


 元は同盟軍左翼である。百二十機を倍の二百四十機が最大戦速で押し出しているようなもの。


(まんまと出し抜かれた我らなど気にもすまい。最悪、邪魔者扱いされる)

 行くも戻るもできない。


「あんな攻撃があるとは自分も知らないぞ」


 彼はライジングサンが突出して艦隊を狙いに行く可能性を考えただけだ。まさか、あの位置から撃沈させられるとは思ってない。


「ぼく、記録映像でガンゴスリ戦闘艦がランワサ撤退戦のときに都市型防御フィールドを貫くとこを見ましたよ」

 ナッシュが指摘する。

「戦闘艦より強力な都市型をか?」

「はい。ルオー・ニックルのあの新型がそれだけの出力の兵器を持っているとゼオルダイゼ戦術班は知っていたはずなんです。それなのに正面を取らせたのはあちらの無策じゃないですか?」

「そうかもしれんが連中は認めはすまい。このままでは責任をなすりつけられる」


 スケープゴートにされかねない。回避するには目の前の迂回部隊を殲滅するくらいの戦果が欲しい。


(しかし、奴がいる)

 敵はルオー、簡単にやらせてくれまい。


「厳しいが叩きに行くぞ、ナッシュ」

「了解です、隊長」


 追撃加速中なので照準は安定しない。ただし、目立つターゲットが殿(しんがり)付近にいる。レモンイエローのライジングサンのアームドスキンだ。横には白い機体もいて狙いやすくはある。


(が、無理だろうな)


 狙撃してもビームは途中で迎撃されてプラズマボールの群れができる。ルオーの仕業である。これがあるので追撃を無為に感じてしまう。


「奴がいるかぎり追撃もままならんか」

「仕方ありません。数で押すしかないでしょう」

「それほど甘くもないようだ」


 アデ・トブラ部隊が猛然とビームを浴びせても、殿(しんがり)を形成するガンゴスリのアームドスキンの列はそれを嘲笑うが如く広範囲リフレクタを立てて、反動を後退加速にも使っている。パワーゲインが現行機とは比較にならない。


「ゼオルダイゼが流出させたアームドスキンの所為で!」

「敵を利するだけになってますよ。どうします?」


 攻撃が効かない。むしろ、脱出を助ける形になってしまっている。後ろからはゼオルダイゼの本隊にあおられている。アデ・トブラの分隊は行き場所を見失っていた。


(危険な感じがする)

 戦場特有の匂いを嗅ぎ取ってた。

(このまま進めば敵の思うツボなのではないか? 動かされている気がしてならない)


 背中が嫌な汗に濡れている。地獄のような戦場から懸命に逃げ出したときを思い出した。倍近い多数で追撃している状況でだ。


「逃げられます。前衛に出てもらいましょう。牽制を入れますよ」

「いや、撃つな」

 前方に戦闘光が一斉に花開いた。

「あれは!?」

「味方だ」

「イルメアとツワラドがいる右翼ですか?」


 ムザたちは反対側にまでまわっていたのに気づかされた。

次回『暁差すとき(3)』 「小綺麗な理屈で飾ろうとするなよ」

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