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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
油断するとつけ込まれる
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真相に触れ(1)

 その白い空間は珍しく騒々しい。激論を戦わせるなど彼らには滅多にないことだった。報告者のティムニは沈黙する。


「動乱をもたらすものであるのに変わりないと思いますわ」

「どんな裏があるのかわかんないもんね」

「放置すべきじゃないんな」


 レジット人否定派はシシル、マチュア、ノルデ。いずれもヴァラージおよびタンタルに苦しめられた協定者を持つグループである。


「本当になにか画策してるんだったら手遅れなん。十分に拡散してるのん」

「ええ、今は攻勢を掛けるより、万が一の対処に備えるべきですわね」

「ましてやすでに星間銀河圏内。無闇に一点集中を目論めば要らぬ注目を集めてしまかねません」


 静観派はリュセル、エルシ、マシュリ。予防よりは、事が起きてからの措置に留めるべきだと主張する。表沙汰になるのは避けたいと考えいている様子。


「それでなくたって、タンタルの仕掛けた罠を解除するのに何年掛かってると思う? もう五年以上よ、五年。これ以上手が割けなくない?」

「では、わたくしたちが表に立ち、星間管理局と対立する可能性を慮外にしてまで動くのが正解だとおっしゃるのですか。あまりにも短慮でしょう」

「う……、まあ。お姉様の言う事態になるのは遠慮したいとこだけど、でもっ!」


 マチュアとマシュリの姉妹喧嘩にも発展しかねない雰囲気。物理的衝突はなくとも、意見の不一致は深刻な機能不全を誘発してしまう。


「移民船デルデヒムはどうなったん?」

 リュセルが尋ねる。

「一応、破壊は確認されてるー。記録にあった映像は共有するー」

「ありがとう、ティムニ。確かに破壊されている。記述にもヴァラージの種ごと消去するとある」

「でしょ、ファトラ。そのまま信じろとは言わないけどー」


 ジュネという絶対的な力を擁するファトラの意見は重要視される。彼女は中立の姿勢のようだ。


「貴殿の子はどう主張している?」

 意見を求められる。

「ルオーは今を見るべきだってー。過去の因縁を捨てろってまで言わないけど、現在のほうが大事だと思ってるみたいー」

「わたくしも軽挙妄動は控えるべきだと思ってる」

「軽挙じゃないんな。未来への保険なー」

 ノルデは嫌な顔をした。

「それが銀河の大乱を招く懸念があるなら事実確認ができるまで待ってもいい。差し迫った事態とは思わない。いざとなればわたくしも最先方に立つ」

「ファトラがそこまで言うなら引くのな」

「あたしもルオーの判断を尊重したいー。だって、人は人の視点で見定めるべきー」


 彼女らの感性で判断してはならないと考える。最も被害をこうむるのは人類なのだから。


「信じよう。我らが主を焦がれるほどに、苦難を知ったラギータ種が平和を恋うると考えられなくもない」

 ファトラが断を下す。

「今後の監視はティムニに一任しよう」

「あたしなのー?」

「接触者たるものの責任を求める」

「あちゃー」


 貧乏くじを引いたとティムニは消沈した。


   ◇      ◇      ◇


「ハイ、お兄さん! 一人? あたしたちと遊ぼー」

「一人一人。遊んじゃうかーい?」


 パトリックは首都デ・リオンの歓楽街に繰り出していた。幾度となく声を掛けられていたが、特に派手めの遊んでいそうな女の子たちのお誘いに笑顔を向ける。


「もしかしてアームドスキン乗り? お金持ち?」

 彼のσ(シグマ)・ルーンに注目する。

「そんなでもないさ。でも、君たちを満足させるくらいは持ってるかもね」

「やりぃ。飲みに行こー」

「どこかいいとこ知ってる? オレ、外の人なのよ」


 彼女たちに引っ張られるがままにバーに入る。若者が集まる場所で、非常に騒がしい店だった。パトリックは顔色一つ変えず空気に乗って騒ぐ。


「パット、さいこー! ねえねえ、今夜暇ー?」

「特に予定はないね。こうして仕事の憂さ晴らしに遊びに来るくらいさ」

「それじゃ、さいこーの夜にしない?」


 口説くまでもなく、女の子のほうから誘ってきた。肩に手を置き、最上の笑顔を向ける。


「びっくりだよ。君みたいな可愛い娘からなんてさ」

「もー、上手いんだから」

「じゃあ、出ようか」


 阿吽の呼吸なのか、もう一人の女の子は別の輪に混じっていった。誘ってきた娘の腰を抱いてバーを出る。すでに夜が深い。投影サインパネルばかりが眩しい街角を歩く。


「ねえ、アレ持ってる?」

「ん、アレってなにかな? オレ、ここの流行りに疎くてね」

「アレよ、アレ、『ハイプ』。アレ決めたらほんと忘れられないくらい熱い夜になっちゃうんだから」

 聞き慣れない単語が飛び出す。

「へえ、そんな最高な物があるんだ。教えてくれる?」

「もちもち。売ってるとこ知ってる。手放せなくなっちゃっても知らなーい」

「手放せなくなるのはその『ハイプ』かな? それとも君かな?」

「ああん、パットったら。あたし、言葉だけで堕ちちゃう」


 導かれたのは路地裏の薄暗い場所。そこにはひっそりと佇む男の影。女の子が声を掛けると合図を寄越してくる。


(簡単に引っ掛かるところを見ると蔓延してるのかもな)


 パトリックは女の子の腰を抱いたまま男に近づいた。

次回『真相に触れ(2)』 「それはデフォなので言わなくていいですよ」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 おぉ!? 絵に描いたような逆ナン!?
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