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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
朱に交われば赤くなる
339/345

暁差すとき(1)

『ラジエータギル展開完了。スクイーズブレイザー、チャージアップ』

 砲身が伸長し、クアン・ザのシステムが準備完了を告げてくれる。


 ルオーは背中から右手に取ったスクイーズブレイザーキャノンを後ろに向けて構えた。彼のσ(シグマ)・ルーンはセンサー連動望遠パネルを表示させている。そこには遠くで待機している戦闘艦の集団が映っていた。


(知ってるはずなのになぁ)

 彼は容赦なくトリガーを押し込んだ。


 長い砲身が光を吐き出す。グリップを握る右手と、砲身の跳ねを押さえるトップハンドルを握る左手が強く押される。機体ごと後ろに持っていかれそうな反動を推進用端子突起(ターミナルエッジ)が抑え込んでくれた。


『直撃します』

 射線を計測したシステムが宣言する。


 防御フィールドに噛みついたスクイーズショットが紫色の光輪を残して突き抜けた。艦首の真ん中に刺さったビームは高い収束度を保ったまま艦内を突き進み、半ばを過ぎたあたりでエネルギーを破壊力に変換する。機関部まで達した破壊は誘爆を起こさせ、艦尾からプラズマ炎に飲み込まれていった。


(正面からでも撃沈まで持っていけるかぁ。使えるね)

 どれくらい効果があるか彼も計りかねている。


 結果からすると、側面からの狙撃であれば機関部で撃沈、艦橋(ブリッジ)機体格納庫(ハンガー)ならば機能不全にできる計算だ。ただし、大抵は艦首を戦闘宙域側に向けているものなので、どうしても撃沈のほうが多くなるか。


「エグすぎないかしら?」

「仕方ありませんよ。ここで大敗させとかないと、またホーコラを狙ってくるんじゃありません?」

「ここを攻撃しようとすると君を本気にさせると思わせることはできたでしょうね」

 ゼフィーリアが苦笑している。


 スクイーズブレイザーキャノンが燃房(チャンバー)弾液(リキッド)を充填して専用カートリッジを排出する。ラジエータギルは高温を帯び、熱エネルギーを赤外線にして放出。周囲のターナ(ミスト)が熱エネルギーを浴びて粒子発光していた。


(一撃につき専用弾液(リキッド)カートリッジを一つ消費するから弾数制限があるのと、連続発射に限度があるのが注意点かな?)

 大事なことなので記憶に刻む。


「何隻いくんだ?」

 パトリックが訊いてくる。

「三隻くらいですかね。食って掛かってきてます?」

「まだだ。なにされてんだか理解してないんじゃね?」

「では、早めに済ませます」


 次の一隻は危険を感じた直掩機が阻もうと間に入ってくる。しかし、リフレクタごと弾き飛ばされただけで射線を変えることもできない。やや艦底近くに直撃すると機体格納庫(ハンガー)を突き抜けた様子。艦尾が派手に吹き飛んだかと思うと、一瞬の間を置いて爆散。艦体も爆炎に包まれていく。


「慌てて反転してるわよ?」

「わかりました。ありがとうございます」


 三射目を放つとさすがに砲身が悲鳴をあげてオーバーヒートアラームを喚き立てる。自動でパージされた弾倉(カートリッジ)を再装填して砲身を畳む。セレクターを操作して選択すると自動で背中に格納された。


「三隻撃沈か。奴ら、火が点いたみたいになってるぜ?」

 後ろがもうヤバそうだ。

「怒らせすぎましたか。ティムニ、ミアンドラ様にまともに受け止めないよう伝えてもらえます?」

『りょーかーい』

「あとはヘレン副司令が料理してくれるでしょう」


 ルオーは退きつつ敵を引き寄せるべく友軍機が通り過ぎるのを待った。


   ◇      ◇      ◇


 呆気に取られているのは敵ばかりではない。ミアンドラも唖然としてモンテゾルネ戦闘艦が撃沈してしまうのを眺めていた。


(こういうこと?)

 やっと理解する。


「反対側までなんとかまわり込みます」

「挟撃するの?」

「いいえ。そこまでたどり着ければ目処がつきます。お願いできます?」


 そんな会話をしたのは確かだ。まさか、ルオーが敵部隊でなく艦隊のほうを狙っているとは露知らず。中継子機(リレーユニット)が伝えてくる戦闘艦が派手に爆散する様を呆然と見送った。


『ミア、まともに受け止めないでってルオーが言ってるー』

「まともに……? まともに! そうよね!」


 動揺どころではない敵本隊が一斉に反転している。後ろでなにが起こったか気づいてない最前線の戦列だけが取り残されていた。


「ミア、こっちから押し込むから下がってなさい」

「はい、ヘレンおばさま。迂回部隊は引きますのでお任せします」

「ええ、浮き足立っちゃってろくに手応えもないわ」


 ここぞとばかりにへレニアが本隊を突撃させる。薄くなった敵戦列はひと揉みで蹂躙し、背中を見せるゼオルダイゼ部隊にビームの豪雨を浴びせている。取り残されたアデ・トブラの右翼がわずかに抵抗の色を見せるが、後続に襲い掛かられてそれどころではなくなっていた。


(どうしよ?)

 この先の展開を考えていない。

(どう見ても隙だらけなんだけど、左側をまわして戻してもいい? 普通なら来た道を戻したほうが開いているんだけど)


 敵左翼側は開いているが、追撃を受けている状態ではまわしにくい。頭の中に浮かんだのはリング状に追いかけっこする陣形。悪くはないが、味方の損耗が激しそうで選びたくない。


(それなら、もうひと当てしたほうがよさそう。迂回部隊はここまで疲れるほど稼働してないものね)


 左をまわすと押されている敵右翼の背中が見える。挟撃させれば確実に潰せると思ったのだ。


「ルオーは追撃を断ち切ってくれる?」

『いけるってー』


 承諾を得たミアンドラは戦況パネルで移動方向を指示した。

次回『暁差すとき(2)』 「行ってください。殿(しんがり)をやります」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 そう言えばしばらく前に 日本が実用レベルのレールガンを完成させた ってニュースになってた記憶が。
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