表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
朱に交われば赤くなる
338/347

君が待ちしは(5)

 両軍はそのまま激突する。同盟軍に先ほどまでの勢いはなく、なし崩しに攻撃に移るような格好になってしまった。なにより、トップエースのビクトルが弾き飛ばされたのが精神的にダメージ大だろう。


「命令変わったぞ。我ら右翼は迂回部隊の突入を阻止しろ、だ」

 ムザは当然の帰結だと思う。


 精神的ダメージは戦術部にも直撃した。初手はもらったと確信したところで横っ面を叩かれた気分だろう。無論、ライジングサンの危険性も熟知しているはずである。


(何度も煮え湯を飲まされた。敵愾心も半端ではないはず)


 彼がルオーを相手にしたのはモンテゾルネ紛争の一件だけだが、同盟としてはかなり大きな損失を被っている。メーザードに続き、ホーコラまでも敵にまわったのがその証明である。ライジングサンは意図してかどうか、同盟を外堀から埋めてきている。


「撃ち合いできますか? 狙点は迂回部隊の最後尾付近でしたよ?」

 ナッシュが言及する。

「本隊が引っ張られている。背後に入れると厄介だ」

「とりあえずルオー・ニックルとの直接対決はなしですか」

「連中を止めねばならん」


 先頭の気は逸れてしまったが、本隊は全体に前掛かりになっている。迂回部隊が後方にまわり込んで挟撃態勢を取りやすい状態だ。まずは移動を阻止しないといけない。


「先頭付近を狙え」

「徹底して固めてきてますけどね!」


 ガンゴスリ部隊は明らかに態勢作りを重視している。リフレクタを掲げて移動し、無闇に突っ込んでこない。迂回部隊が側面、もしくは後背を脅かす陣形に移行するまで控える姿勢だった。


(ビクトルを止めたのは迂闊だったな、ライジングサン)

 それだけが悪手だったとムザは感じる。

(あの速度は危険だと思ったのだろうが、ルオーが迂回部隊にいると教えてしまった形になる。当然、同盟は対処してくる。これが、後背を取られてからだったら友軍のダメージは計り知れなかっただろう)


 いきなり背中からとてつもなく精密なスナイピングビームが襲ってくるのだ。そのショックは友軍部隊全体を動揺させるに十分すぎる。

 しかし、危険視した味方が対処に動いた今は事情が違う。突然の攻撃ではなくなった。驚くべきパワーのスナイピングビームではあるが、正面からなら受け止められないほどではない。


「この勝負、優勢になったぞ。敵の目論見は崩れた」

「配置がわかれば対処は難しくない。だったら数の多い当方が一歩勝りますね」


 彼らの右翼からの攻撃に対して応射もある。互いにあまり接近もせずにチクチクと突っ付きあう状態で相対位置を固定したまま移動している。それならば側面だろうが背面だろうが、どこに位置しても怖ろしくはない。


「逆に反転して迂回部隊を一掃する作戦がなくもないが、そこまでする度胸は戦術班にもあるまいな」

「敵本隊に薄い背中を見せるのも好手とは思えませんし」


 迂回部隊は撃ち合いを続けつつも、じりじりと移動している。そのまま本隊の背中を取るにしても無策に思えてしまう。ガンゴスリの司令官は頭が固いのかもしれない。最初の作戦が崩れていても、次手が打てないほど無能に思えてきた。


(決して新興の軍事国家じゃない。実戦もこの世代は知らないだろう)

 新陳代謝に欠けるところがありそうな気がしてきた。

(実戦的な演習や兵士の養成強化が聞こえてくるがそれだけかもしれん。内実は軍閥争いにかまけ、頭の固い指揮官ばかりが軍の中枢を担っているとすれば)


 ホーコラの式典では年端もいかない少女が指揮官として紹介されていたが、それも兵士のモチベーションを高める方便だった可能性もある。裏では老練な参謀に操られているだけな気もしてきた。


「地味ですが削られてますよ、隊長。このままでいいんですか?」

「奴が如何に名手でも、この状態で崩せる範囲は知れている。命令に従っていればいいだろう」


 ルオーのものらしいスナイピングビームは明らかだ。味方のアームドスキンのリフレクタを叩いては姿勢を崩させ、隙間を縫って直撃を狙っている。しかし、奪えるのは大破までで、大きなダメージは喰らっていない。


(なにが目的だ? ルオーは諾々と命令だけに従っているような男だったか?)


 なにか引っ掛かる。元は右翼だった対処部隊を引っ張りまわすだけが目的か。本隊の数減らしだとしても運用がもったいないように思える。

 アデ・トブラ本国で生身での狙撃合戦になったとき、かの青年はわざわざ話し掛けてきた。気を逸らすための作戦ではなく、純粋にムザ隊の在り方を問い質してきたように思う。なにか一本、筋のようなものを感じたと思い出した。


(なにが言いたかった? アームドスキンも操るスナイパーは、ただの暗殺者ではないと諭してきたみたいだった。そんなポリシーを持つ男がこの局面で無策か?)


 ゆっくりと移動してきた迂回部隊はようやく友軍本隊の背中を狙えるところ。しかし、正面には彼らの対処部隊がいる。容易に抜けるものではない。


(なんなら、艦隊から援護射撃が飛んでくるような位置取りだぞ。そこで狙撃に集中するなど命を縮める……、まさか?)


 そこまで考えたムザの背筋に電撃が走った。

次回『暁差すとき(1)』 「エグすぎないかしら?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 暗殺って犯人が分からないのが前提ですから!? (⋯⋯あれ? じゃあ眉間を撃ち抜くあの人は!?)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ