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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
朱に交われば赤くなる
337/352

君が待ちしは(4)

 アデ・トブラのスナイパー、ムザ・オーベントは厳しい視線を敵部隊に向ける。


 当初、ルオー・ニックルのいるライジングサンは再びモンテゾルネに雇われたかに見えた。モンテゾルネ会戦で介入してきたからだ。

 ところが、ZACOF(ゼイコフ)の連合軍の仕掛けてきた追撃戦には姿を見せず、ホーコラの式典で確認される。そのことからライジングサンを雇っているのはガンゴスリであるのが周知の事実となった。


「どこかに奴がいるぞ」

「見えませんね。あの黄色いのと一緒だから目立つのに」

 傍にいるナッシュ・テグメランタが答える。


 以上の事実からガンゴスリが水面下でZACOF(ゼイコフ)と接触を図っているのは間違いない。参入の密約が交わされたのかと思っていたら、ZACOFの傭兵(ソルジャーズ)艦隊がホーコラ宙域に姿を現している。公表もしないうちからの露骨な動きは同盟軍を迷わせる。


傭兵(ソルジャーズ)も来るだろう。警戒しておけ」

「当然です。連中がまた掻き混ぜにくると厄介ですから」

 今のところ接近してくる気配はない。


 同盟軍は主力のゼオルダイゼ部隊が中央に位置し、アデ・トブラ部隊が二分して両翼を形成する陣形を取った。彼らのいる左翼と他のムザ隊メンバー、イルメア・ホーシーとツワラド・グエンのいる右翼に分かれている。

 対するガンゴスリは十二隻艦隊。最近では流行らない大型戦闘艦が含まれているので擁するアームドスキンも三百八十機と多いが両翼を形成する様子はない。このことから傭兵(ソルジャーズ)も含めた戦術だと読んだのだ。


「怪しいですね」

「どこかのタイミングで来る。そうでないと、三隻分も戦力の多い我が部隊に正面から挑んでくる理由がない」


 同盟サイドは十六隻、総数四百八十ものアームドスキンが展開している。百機も多いのだから、まともにやりあえば耐えられるものではない。


「分隊を出すみたいです」

「動いたか。注意が必要だな。そこに連動して傭兵(ソルジャーズ)がくる公算が高いぞ」


 一部の部隊、機体システムによると七十機が分かれて彼らのいる左翼側にずれてくる。迂回戦術だろう。どこで突撃してくるかはわからないが、タイミング合わせで傭兵(ソルジャーズ)と合流するか、逆サイドから攻めてくるか、どちらかと思われた。


「命令は正面から叩け、だな」

「わざわざ数を減らしてくれたんだから押し切るつもりなんですかね」


 スナイピング攻撃を主体とした彼らムザ隊の存在も大きいだろう。接触以前に敵を崩しておけるのは白兵戦を圧倒的に有利にする。そのために両翼展開して陣形正面を狙いやすく配置されているのだ。


「迂回部隊を無視していいものか」

「ですが、主力が崩れれば少数の迂回部隊の攻撃による効果は薄れます。逆にいえば主力が早い段階で崩れたとき、迂回部隊は不用意に接近できなくなりますよ?」


 陽動の目的を果たさなくなる。敵の戦力を割けないのならば別働隊がいる意味はない。与えられるダメージは数なりに小さいのだから。

 そう考えて戦術班は敵主力撃破に全力を傾けるよう命令したのだと考えられる。1.5倍の戦力で当たればいくらも待たないであろうと。


「固いですね。やはりカラマイダのパワーは現行機と比べるべくもない」

「狙撃だけでは崩せんか。白兵戦に入ってからが勝負になるな」


 スナイピングビームで力場盾(リフレクタ)を叩いてもびくともしない。イオン駆動機搭載のアームドスキンは腕の衝撃吸収性もパワーも段違いである。遠距離からでは効果が薄かった。


「牽制くらいにはなりましたか。全体に進撃速度が落ちました」

「我が隊の戦法に耐性がないんだろう。この距離で狙ってくるとは予想していなかったのかもしれん」


 最前の戦列(ライン)を形成するアームドスキンはリフレクタを立てて防御を固めている。そのため撃破できてはいないが、行き足は落ちて全体に間隔を空けてきている。


「隙間を狙え。裏は油断しているぞ」

「パルミット最強といわれる軍事強国でも不慣れは不慣れですか」


 戦列(ライン)の裏へとスナイピングビームを忍び込ませる。が、手応えが薄い。前方に位置する数枚の戦列は一斉にリフレクタを使って明るく見えた。


「うちの情報は伝わってましたか」

「勢いだけは殺した。これなら友軍の突撃スピードのほうが勝る。効果としては最低限あっただろう」


 ZACOF(ゼイコフ)との接触でアデ・トブラの戦法は知られていたらしい。あるいは、あの青年が伝えたか。崩せたとはお世辞にもいえないが、友軍有利な状態での激突には持っていけた。


「速いですね」

 ガンゴスリ部隊がひるんだと見るや、ゼオルダイゼ部隊が速攻を掛ける。

「あれが『一閃のビクトル』か」

「一気に攻め込みます。あれでは堪らない」

「ガンゴスリは穴を開けられる」


 そのとき、ひと筋の光が戦場を横切った。先頭に立って敵軍を切り崩そうとするビクトル・サンセスカの白銀のスルクトリにスナイピングショットが襲い掛かる。咄嗟に出したリフレクタを叩いたビームはそこで拡散してしまうも、機体を弾き飛ばすほどの威力を秘めていた。


「ルオー・ニックル! そっちか!」

「まさか、迂回部隊のほうに!? しかも、横合いから。やられました」

「やはり、捨て置けんぞ、迂回部隊」


 ガンゴスリ主力部隊が速度を緩めてみせたのは迂回部隊を横手にまわすためだったと知らされる。友軍の突撃は完全に止められた。


(このタイミングを狙ってたな?)


 ムザは一撃で流れを変えてしまうルオーのスナイピングビームに下唇を噛んだ。

次回『君が待ちしは(5)』 「この勝負、優勢になったぞ。敵の目論見は崩れた」

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