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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
朱に交われば赤くなる
336/345

君が待ちしは(3)

 作戦会議を終えてルオーがライジングサンに戻ろうとしているとエスメリア・カーデルが嬉々としてやってくる。見るからに覇気みなぎる顔つきだ。


「ルオー、今日は私も勝利の道へと導いてくれるんだな?」

 鼻息も荒い。

「少し難しいことをします。あなたがミアンドラ様の指揮を信じられるなら悪くない結果になるはずです」

「ミアだな。もちろん信じてるぞ。あの、覚悟を決めるしかなかった撤退戦を見事に切り抜けた指揮官なんだからな」

「だったら安心です」

 突き出した拳にグータッチを返す。

「ルイーゾンを任せてもらったのだ。しっかり働いて見せる」

「みたいですね。きっと使えると思います。ただし、夢中になりすぎないようにしてください」

「気をつける。私もあの戦いで本物の怖さを知った」


 三十機ほどロールアウトが間に合ったガンゴスリ設計の新型『ルイーゾン』は各艦の隊長クラスに与えられる。他の優秀なパイロットが『カラマイダ』に乗る中で、余り枠のルイーゾンをミアンドラはエスメリアに任せる。


(間違ってもここで死なせるわけにはいかないと思ってるんだろう)

 心中が想像できる。

(カラマイダは設計思想が少しガンゴスリ製と違ってる。でも、ザイーデンの発展形のルイーゾンなら似た特性をしていて操縦しやすいはず。スペック的には大差ないから、名誉な配分をしたうえで彼女への配慮をしたんだろうなぁ)


 表情を見れば、慣熟訓練での手応えがよかったのは予想できる。全体で機能する遠征部隊に仕上がっていると思った。


「後ろには僕がいます。安心なさってください」

「前に出ないのか? 貴殿なら十分に主軸となって戦えると思うのだが」

「スナイパーの本職に徹しますよ。今回はそのほうがいいはずですから」


 意気揚々と機体格納庫(ハンガー)に向かうエスメリアを見送って、ルオーは直結(ダイレクト)通路(パスウェイ)をくぐって船内に戻る。そこにはメンバー全員が集まっていた。


「どうしたんです?」

 腕に絡みついてきたクーファを見る。

「待ってたぁ。お見送りぃ」

「ありがとうございます」

「パスウェイの切り離しすんだぞ。ゲムデクスの隊についてけばいいんだな」

 作戦は操舵室(ステアハウス)で同時共有していた。

「前に出てかまいません。これだけ数がいれば僕のところまでもれては来ないでしょうから」

「この艦の部隊に合わせるのでいいかしら?」

「はい、位置取りだけ気にしておいてくれれば問題ありません」


 パトリックとゼフィーリアはパイロットシートへと向かう。ルオーもヘルメットを被るとシールドバイザーをフルオープンにした。


「では、クゥはステアハウスにいてくださいね。ライジングサンは艦隊と一緒で動かす予定はありません」

「わかったぁ。いい子にしてるぅ」

「お昼寝でもしていれば終わってますから」


 猫耳娘にもきちんとヘルメットを被せてから気密チェックをする。下がるように合図するとワンステップで距離を取った。行ってくると伝えてからパイロットシートをクアン・ザに格納させる。


σ(シグマ)・ルーンにエンチャント。機体同調成功シンクロンコンプリート

 同期が完了すると作戦に合わせた設定をしていく。

「戦闘出力に設定。弾液(リキッド)カートリッジをフルエントリ」

『出力120%。弾液(リキッド)カートリッジをウエストキャッチにフルエントリしました』


 腰裏のキャッチに専用弾倉(カートリッジ)を満載にする。機体ステータス画面のキャッチ枠が確実に埋まっていくのをチェックした。モニタをチラ見してゲムデクスの部隊が離艦(エントリ)していくのを確認する。


「先行くぞ、ルオー?」

 ベルトルデも左舷スロットに吸い込まれていく。

「わたしもお先。好きにしていいかしら?」

「はい? まあ、いいですけど」

「バラけないほうがいい気がするのよ」


 白いヘヴィーファングはクアン・ザがエントリするのを待って横に付く。ディープリンクをして相対位置固定までしてきた。


「そんなに僕を一人にするの、不安です?」

「これだけの大規模会戦よ。なにがあるかわからない。それこそ、傭兵(ソルジャーズ)がどう動くのかも」

「杞憂ですよ」

「そう? 軍監に入れ知恵したのが誰かも気づいてるでしょう?」


 ゼフィーリアは()が主導権を欲しがっていると推測しているようだ。本来なら実であるギャランティを求めるはずの傭兵(ソルジャーズ)がこうも前面に出てくるのは、それ以外の目標があるのだと思えるのは否めない。


(邪魔だからどさくさ紛れに始末するかも?)

 危険なのは敵だけではないと感じているらしい。

(そこまでするかな。でも、切れ者エージェントの勘をないがしろにしないほうがいいかぁ。僕の行動監視も兼ねてるんだろうし)


「ゼフィちゃんが行かないんだったらオレも残るぜ」

 パトリックまでディープリンクしてくる。

「活躍したほうがいいんじゃないです?」

「そうそう。君は頑張ってらっしゃい」

「そうはいかないさ。二人っきりになんてさせて堪るか」

「僕をなんだと思ってるんです?」


 そんな暇ではない。全体のバランスが重要になる作戦である。へレニア副司令やミアンドラの指揮に任せてもいいが、ポイントでフォローを入れておけば展開は楽になる。


(今回は目立つのが大事。スナイパーとしては本意とは程遠いんだけどねぇ)


 ルオーはゲムデクスの隊の後ろにクアン・ザを向けた。

次回『君が待ちしは(4)』 「どこかに奴がいるぞ」

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