歪ませる(4)
カテゴリⅡと思われる時空間復帰反応が観測される。旗艦ゲムデクスで捉えられたものは当然ホーコラ本国も察知している。緊急に回線が開かれて協議の場が持たれた。
「カテゴリⅡというのがどうかと。敵襲にしては小さいですし」
「そうですね。そんな規模では来ないと思います」
ルオーも呼ばれて三者回線となっている。
「ホーコラ嘗めてるゼオルダイゼならそれで上等って考えかねなくないか?」
「四隻規模ですよ、ザロさん? ちょっと考えにくいです」
「こちらの反応を見る威力偵察っていうのも考慮してみたのですが」
ミアンドラの予想は教本どおりともいえる。
「あり得ません」
「そうよね、ルオー。遠征艦隊の規模はあのライブ中継のときにしっかり見せてるもの。あれからも一日に一回は報道の中継船が慣熟訓練の様子を撮影に来てますし」
「すまん。国民が不安がってるって説得されると反論できなくてな。ヤバかったらやめさせる」
ミアンドラが構わないと答える。今さらという情報でしかないのだ。訓練の邪魔さえしなければ不安解消効果のほうが大きい。これからの局面、厭戦気分のほうが邪魔になる。
『識別信号受信しました。傭兵艦隊です』
ゲムデクスのシステム音声が挟まる。
「やっぱりそっち?」
「でしたね」
「例のZACOFに加わってる奴らか。なにしに来たんだ?」
ザロは不審がる。
「まさか、自分たちにもカラマイダを寄越せとか言わないだろ? 順次、『ルイーゾン』の建造に切り替えてんぞ」
「突っぱねればいいです」
「ええ、配慮の必要はありません」
ガンゴスリの新型はコードネーム『ルイーゾン』である。これは観兵試合のときのルイン・ザの駆動と機動を分析して反映された機体だからだそうだ。かなり汎用的な使用を基準とした設計思想で仕上げられているとルオーも思っている。
「到達時間までに訓練は中断して一応の迎撃態勢は取ります」
ミアンドラも万が一の備えはする。
「コンタクトがなければ警告、停船指示でいいです」
「だな、ルオー。航宙管制にやらせる」
「無理を言ってくるようならミアンドラ様と僕も手伝いますから」
このときはまだ楽観視していた。そこまでおかしなことは言ってこないだろうと。行き場をなくして仕方なく合流を要請してくると考えている。
訓練での指導をしていたルオーは中断と同時にゲムデクスに詰める。ミアンドラのサポートをするつもりである。
「すまんが頼む。わけわからんぞ、こいつら」
コンタクトがあった旨のメッセージのあと、しばらくしてザロが泣きついてきた。
「わかりました。繋げてください」
「悪いな」
「どうぞ」
ミアンドラに譲る。
「こちら、ガンゴスリ遠征艦隊司令官ミアンドラです・ロワウスです。政府間協約により惑星ホーコラの防衛を任されています。不用意な接近はやめて停船指示に従ってください」
「こちらは傭兵艦ソートレスのダリミル・グラーゼだ。ウクエリの軍監をやっている」
「私はカシュバル・ゴントノザ。同じくデトロ・ゴースの軍監だ」
並んで映っている男は二人とも傭兵協会に依頼した国の軍監だという。対外的な顔としてコンタクトしてきたのだろう。
「傭兵艦隊四隻の停泊および補給、機材の修理をホーコラにさせるために来た。なにか問題か?」
いきなり道理の通らない話をしてくる。
「寄港地としての事前の契約等がお有りですか? そんな話は聞いておりませんが」
「ない。が、ガンゴスリと契約したということはホーコラも我らZACOFの一員ということだろう? ならば、所属艦への各種サービスの提供は義務と考えていいはずだ」
「わたしにはなにをおっしゃっているのか理解できません」
ミアンドラは苦言を呈する。
「では、もっと機転の利く者に代わりたまえ。話にならん」
「違います。貴殿の言っていることは道理に合わないと言っているのです」
「道理? どこがだね」
心底理解できないという感じで眉をひそめている。少女も失望を隠す気がなさそうに相手していた。
「我が国はホーコラと協約を結んで互いに補完し合う関係になったまでです。貴殿らの国とは関係はございません」
噛んで含めるように言う。
「ガンゴスリはZACOFへの協力を約束したはずだ。ならば、我々にもホーコラを利用する権利がある。指示に従うよう言ってくれたまえ」
「そんな義務はありません。ホーコラはZACOFとも関係がないのです」
「つまらない問答をするつもりはない。通らせてもらう」
無理を通す気満々である。
「そもそも我らガンゴスリ遠征艦隊はZACOFとの協力関係を公表しておりません。それなのに、おかしな主張をして接近してくるとはなにごとです? 逆にホーコラへの疑いを増す行為だとは考えなかったのですか?」
「なんの話だね?」
「我が国が戦端を開いているのは表向きゼオルダイゼのみだという意味です。そこへZACOF所属の傭兵艦隊を呼び込んだとなれば、アデ・トブラやウェンディロフに攻撃の口実を与えるようなものだとお考えにならなかったのですか?」
「う……」
絶句する軍監をミアンドラは冷たい目で睨む。
ルオーは悩ましく思いながら静観していた。
次回『歪ませる(5)』 「なんの文句がある?」




