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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
朱に交われば赤くなる

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歪ませる(2)

「それよりも自分の心配をすべきですよ。損失はかなりのものでしょう?」

 青年はデヴォーの心配をしてくれる。

「政府はこれで思い知ったはず」

「同盟の怖さです?」

「片手で対処しようとする怖さのほう。アデ・トブラ紛争のときも君に加わってもらう前までの苦戦のこと。パイロット含め全体的に命令の理解度が低くて損害出してるって話したでしょ?」

 厳しかった前半戦の話である。

「でしたね」

「政府の連中、本国が狙われるのを怖れて主力を防衛に張り付きにしたのよ」

「じゃあ、七隻は二軍相当だったんです?」


 再び扱いかねる苦労を課せられていた。とにかく、一筋縄では機能してくれないのである。


「それが結構勝っちゃったものだから、この体たらく。増長だけは一人前なんだから」

 秘匿回線でなければ言えない愚痴だ。

「だったら、今度は主力を預けてくれるはずです」

「ええ、目に余る損失が出てしまった。それも命令違反という形で。これ以上負けると国民の目が怖い。怖いから撤退すると宣言したところで同盟が許してくれるはずもない。結果、もう勝つしかなくなってしまったのね」

「保身に走れば政権が倒れるでしょうし」

 今の情報社会、国民の目は甘くない。

「主力が使えるのならもっと制御が効くわ。命令の意味の理解度も違うから、次にどう行動すれば有利に働くかもわかってくれる」

「成績が優秀なのは地頭のいい兵士が多いからです」

「数は減るかもしれない。でも、よほど戦いやすいわ。ただし、本国防衛も捨てていいものではないから国軍幹部は編成に頭を悩ますでしょう。時間も掛かっちゃう」


 それまでは彼女も衛星軌道での防衛に専念しつつ、再戦へと向けて戦略を練る。少しは気も休まるだろう。


「メーザード軍の補給と機材修理もお願いできます?」

 本星へ随伴させている。

「もちろん。一部機材更新もするらしくてこっちに届く話になってるわ。パイロットにはたっぷり慣熟訓練してもらって、整備士(メカニック)にも整備指導をさせるつもりよ」

「ありがとうございます。キトレイア大統領も気にしてらっしゃったんで」

「人の心配してる場合? 君も大変になるでしょう?」

 主戦場が変わる。

「ガンゴスリは軍事強国だけあって規律もしっかりしてます。そうそう緩むことなんてないですよ」

「層も厚いものね。うらやましい」

傭兵(ソルジャーズ)部隊の動きも気になりますが、こちらに加わるとしてもそうそう食い込んだりはできないはずです」


 傭兵(ソルジャーズ)艦隊は離脱後に独自行動をすると言って移動した。残した哨戒艇からの情報では、ゼオルダイゼ艦隊に追随してアデ・トブラ艦隊も動き出している。警戒に残ったウェンディロフ艦隊を狙いにいったものと考えられていた。


「アデ・トブラは狙いを君に定めたと思う。ゼオルダイゼも本格的に腰を上げておかしくない。楽ではないんじゃない?」

 やられっ放しではすまされまい。

「一番の懸念が解消されたんでどうにでもしますよ。先ほど、ガンゴスリから次期主力の試作機と設計図が第一便として届いたみたいです。ザロさんが気合い入れて建造するって張り切ってます」

「最新型?」

「もちろんです。重力波(グラビティ)フィンタイプのイオン駆動機搭載型。一年半前に主力機が僕とパットに一蹴されてから開発に心血注いでたようです。あとは建造技術を整えるところまで来てたんですが、ここには既設の建造ラインがありますので」


 現行のアームドスキン建造ラインは汎用型になっている。設計図と細かい仕様があれば、サイズ別に汎用工作機が部品を生み出し自動組立ラインで形にする。完成品の整備と違って一定のルーチンで組み立てるだけなら最低限しか人の手を煩わせない。


「ガンゴスリにホーコラを組ませるとかWinWinもいいとこ」

 末恐ろしい。

「両国が交流を深めてくれればパルミット、オイナッセン宙区ともにゼオルダイゼのような専横を許さない抑止力になってくれると思うんです」

「夢ではないわね」

「とりあえずはホーコラの景気上昇の契機になってくれれば言うこと無しです」

 四方丸く収めたいと考えている様子だ。

「うちの政府ももうちょっと機転が利けば一枚噛みに行けるんでしょうに」

「あまり拡大するのも考えものです。人は力を得ると増長してしまうもののようですし」

「君みたいに謙虚なのは稀なほうよね」


 ルオーのように使い勝手のいい人間はそうはいない。しかし、どうにも彼は心に翼を生やして気の向くままに飛んでいってしまう。繋ぎ止めるにはとんでもない器量を要求される。


「僕は、ともかくのんびり美味しいものを探して自由に飛びまわれる宇宙になってくれるのを切に願ってるだけです」

 小さいが簡単ではない望みである。

「そのために命懸けられるなんて幸せなことなのかもしれないわね」

「代わりに、普通の人が夢見るような富や名誉は逃げ去ってしまいますよ?」

「それでも。人の幸せなんて千差万別。自分の望みが明確にわかっているほうが珍しい部類なのかもね」

 今の地位が煩わしく思うときもある。

「引退後の楽しみにでも取っておいては如何です?」

「そうね、結婚でもしてみようかしら。子供だけでも育ててみたいわ」

「そのあたりは望めばなんとでもなる世の中です。いい夢だと思いますよ」


(まだ死ぬなって言ってくれてるようなもの。ほんとにこの子は優しいんだから)


 デヴォーは心が和むひと時を楽しんでいた。

次回『歪ませる(3)』 「律儀に口を開けて待っておいてです?」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 ⋯⋯本国は進む(勝利)しか生き残る道が⋯⋯。
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