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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
油断するとつけ込まれる
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レジットの民と(4)

 もちろん十分な地上探査を行ったうえで宇宙服を使用してまで警戒していたようだ。それなのに、上陸したラギータ種の身体を未知の病原体がゆっくりと蝕み死に追いやっていく。


「病気を克服する技術力はあったものの、原因究明するまでにバタバタと倒れてしまった感じですね」

 先にマンパワーを奪われてしまうと厳しい。

「せっかく長い旅して到着したのにぃ」

『かなり危機感抱いたみたいー』

「待望の大地が自分たちを拒んだみたいでショックだったでしょう」


 それから苦闘の日々が始まる。病原体の特定とワクチンの作成はもちろん、並行して生活基盤の設置や食料確保も考えなくてはならない。


「きっと、全員が力を合わせないと生き延びられないような状況だったと思います。幾ら好戦的な血を引いていたとしても、種の保存本能はそれを超えていくはずです」

 あくまで想像だが。

「そんな環境下でラギータの名を忘れるほど懸命に生き抜いた。星間銀河圏のコンタクトを受けるほど増えるまで耐え抜いた。それが、彼らが変わった証拠だとは思いませんか、ティムニ?」

『打ち勝つことじゃなく、助け合うことが人類として本来の在り方だと思えたのかなー。元々はネローメ種と同じ血が流れてるんだし、基本に立ち返って生きる道を選んだんだったらー』

「認めるべきだと思います。別に完璧に許せだなんて言いませんから、観察するに留めておけません?」

 勧めることしかできない。

『わかったー。猶予を与えるくらいはするー』

「ありがとうございます」

『なんでルオーが感謝するのよー』


 仕方ないと言わんばかりの反応だ。それでも、寛容でいられない彼女を見ていられない気分だった。信頼に値する相手でいてほしい。


(状況から類推することはできる。もし間違っていたのなら、僕はティムニの言うままに戦うのも厭わない)

 それくらいの覚悟だった。


「んで、ティムニのことはどうすんだ? これ、相当ヤバい案件じゃね?」

 パトリックが指差すとアバターが噛み付いている。

「八千年前の超文明の遺産なのぉ」

「せっかく落とし所に持っていったのにほじくり返すんですね、パット?」

「でもさ」

 ルオーは知らんぷりを決め込むつもりだったのだ。

「高く売れるぅ?」

『やっぱりこいつ許さないなんてこと言い出すのー』

「まくし立てなくとも冗談ですって。君は僕の友人のままでいいじゃないですか」


 耳をパタパタさせながら笑えるくらい回復したクーファ。ティムニとまるで額をぶつけ合って喧嘩しているようなパトリック。賑やかながら落ち着きを取り戻したような空気だった。


「パトリックにも少しは慣れましたか? こんな感じではありますが、それほど悪い男ではないのですよ」

「いや、いい男だろ?」

 自分のことには耳聡い。

「ルオより嫌だけど、少しは大丈夫そう。パッキーが嫌なことしなかったら一緒にいてもいぃ?」

「パッキー? オレをそんな変な呼び方しないでくれ。んで、最後だけ自信なさげなのもやめてくれ。女性には無害だよ?」

「でも、パッキーはパッキーだしぃ。オスの匂いプンプンしてるしぃ」

 彼女のペースに巻き込まれつつある。

「駄目みたいですね。では、接触禁止です」

「マジでマジで? いやいや、そんな気ないからさ。許してちょうだいよ」

「せっかくの協力者を危険にさらすわけにはまいりませんので」


 いつも厄介事を持ち込んでくる相方をやり込めるチャンスだった。ここぞと攻め立てる。


「女性には優しいじゃん」

「ええ、優しいけど貞操の危機は変わりません」

 おののくパトリックを一致団結して弾劾する。

『少しは相手を選ぶ分別があればここまで言わないしー。仕事相手に手出されるとトラブルの元だって、いつまで経っても理解しようとしないんだもん』

「いや、だって、美しい花を愛でないのは罪じゃん」

「内心までは咎めません。態度に表さなければいいと言っているんです」

 相方は信じられないと目を丸くしている。

「態度に出さないでどうするのさ。口説くのが女性賛美の最たるものだろ?」

「だから、そこに下心がなければですね」

「フェロモン出してると説得力ないしぃ」


 クーファは完全にルオーを盾にして言葉責めしている。密着されても意識されないのは、男と認められていない気がしてちょっとだけ悲しかった。


(かなり感情の振れ幅大きいタイプだなぁ。子どもっていうより、外を知らない家猫が新しい景色を興味津々で嗅ぎ回っているのを見てる感じがする)


 親御さんには社会勉強を申し付けられているようで、クーファの精神世界を理解しているからのことだろう。その一助となるならば本意でもある。


「パッキーが発情してるときは近づかない一択なのぉ」

「誰が発情だって? オレはちゃんと合意を得ないとなにもしないって」

 強硬に主張する。

「ええ、口説き落とすという強引な合意を得ないかぎりですけどね」

「お前、なんつー表現を」

「女の敵なのぉ。デンジャラスパッキーなのぉ」

「余計な代名詞付けるな!」


 どうやらパトリックはクーファが苦手なタイプらしく、ルオーは胸を撫で下ろした。

次回『真相に触れ(1)』 「一人一人。遊んじゃうかーい?」

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