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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
朱に交われば赤くなる

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329/399

歪ませる(1)

 命令無視をして離反した兵士はかなりの規模に及んでいた。デヴォー・ナチカ司令はその全ての将兵を私室での謹慎処分にする。

 本国までの長い道のり、まったく機能しない艦隊を抱えての帰還になってしまった。彼女の軍歴の中でも最も情けない帰国になる。


「まさか、あなたが処分されるなんてことにはなりませんよね?」

 通信相手はルオーである。

「ないわ。国軍上層部だってわたくしの預かり知らぬところで進んだ計画の責任まで問えないでしょう。監督責任だなんてわめき出す馬鹿がいたら見切りをつけて除隊してあげる」


 計画に関与したパイロットから艦橋(ブリッジ)要員、整備士(メカニック)に至るまで帰国と同時に拘束された。中でも最高位となるエルドッホリ艦長は刑罰に値するとされて警察に勾留されている。

 モンテゾルネ遠征艦隊はかなりの兵員を戦死で失うか、軍籍剥奪で失うかという状態になってしまう。再編しなくては使い物にならない。


「時間掛かっちゃうわ。ごめんなさい。せっかく、救い出してくれたのに」

 責任は痛感している。

「どちらにせよ、ガンゴスリ艦隊も動けません。攻めれば痛いでは済まないと思わせるくらいのダメージを同盟に与えるまではホーコラを離れられなくなりました」

「確かにね。戦力が整った分、縛られちゃうわよ」

「幸い、ガンゴスリ国軍が新たに編成する艦隊が防衛を担当する条件になっています。彼らにとっても重要拠点になりましたので」

 持ちつ持たれつの関係に落ち着くのだという。

「ライジングサンがホーコラにも関わってるのは知ってたけど、ものの見事にきれいに収まったものね」

「気前が良すぎるんですよ、みんな。ザロ総理が、ガンゴスリが開発中だったアームドスキンの建造まで請け負うって言い出したから失うわけにはいかなくなりました」

「君との繋がりが全部を繋げていってるのよ。自覚なさい」


 そう言うと、青年は苦い表情をする。さすがのルオーも素知らぬ顔はできまい。


「君にはそれだけの影響力があるの。モンテゾルネ兵士の心までも動かしてしまうほどの」

 嫌そうに仰け反っている。

「勘弁してくださいよ。僕のどこにそんな力があるっていうんです?」

「君がいれば勝てるって思わせてしまう力。それが今回はマイナスに働いてしまったけど」

「離反劇ですか」

 眉根を寄せている。

「英雄病よ。君に続いてバロム・ラクファカルが現れた。戦場ですごい能力を発揮するパイロットが味方にいる。その状態であれば負けるはずがないって思い込んでしまったのね」

「一人ひとりのできることなんて知れてるのにです?」

「そうだわ。でも、圧倒的に卓越したパイロットスキルが戦局を左右するのって不思議でもないの。周りが強くなったと勘違いしてしまうほどにモチベーションが上がってしまうから」


 察知できなかったのは彼女の過失といえよう。しかし、まさか勝利に貪欲になりすぎて暴走までするとは思いもよらなかった。


「バロムは歪んだ英雄像。人を戦いに駆り立てる空気をまとってる」

 ルオーとはタイプが違う。

「人の希望になる君とは真逆ね。興奮を掻き立て、思ってもいなかった方向に突き進ませてしまう種のカリスマだわ」

「ときに劇物に近いかもしれません。周囲の命を燃やし尽くしてしまうほどの」

「歴史を進ませる原動力になった英雄は彼みたいだったんでしょう。でも、その足跡は血に彩られていたのかもね」


 それでこそ変えられる現実もある。認めざるを得ない。しかし、今はそうではない。勝ち取るべきは傲慢な侵略者からの平穏なのだ。必要なのは世界を変える力ではない。


(まるで、バロムはゼオルダイゼ同盟のためにあつらえたような存在。彼を遠ざけてしまって、もし寝返るようなことになれば最悪の敵になる)

 そんなことまで考えてしまう。


「僕みたいな男は偉人に名を連ねるなんて夢のまた夢ですよ」

 ただの橋渡しだという。

「そう? 神みたいな存在に認められ導かれて、人の希望の星になるよう定められている君もいつかは英雄と呼ばれるんじゃない?」

「なにをおっしゃってるんです?」

「裏方に徹したがるのは君の悪い癖よ」

 含み笑いを送る。

「だからバロムみたいな人間に利用されてしまう」

「八つ当たりですよ」

「どうしてそんなに認めたくないんだか」


 カメラの端を指で突付く。相手からはそのあたりに秘匿回線のアイコンが表示されているはずだ。


『この人は無理だよ、ルオー。前の案件のときから疑ってたのー』

 ピンク髪のアバターをおびき出すのに成功する。

「困った方ですね。今度は自分が利用する番だとかおっしゃらないでほしいものです」

「しないわ。私が欲しいのは君の力だけ。うちのパイロットたちが勝利に酔わないよう、お手本になってくれない?」

「残念ながら、この案件が終わるまで僕はミアンドラ様の支配下です。妙な下心を発揮しないようお願いします」

 律儀なことだ。

「だったら、彼女を丸め込めばいいわけね。どうしてくれようかしら」

『ヤバいよヤバいよー、この人ぉー』

「処置なしですね。でも、飲まれるのはあなたのほうかもしれませんよ? 彼女は真っ正直に一直線ですから」


(助けて守りたくなるタイプなわけね。なるほど、変に突っ付かないほうが彼を本気にさせてくれそう)


 デヴォーは計算を働かせた。

次回『歪ませる(2)』 「人の心配してる場合?」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 ⋯⋯あぁ、強すぎる英雄(薬)は逆に毒かぁ⋯⋯。
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