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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
朱に交われば赤くなる

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宇宙曇らせ(6)

(俺は……、俺たちは取り返しのつかないことをしてしまったのか?)

 若いパイロットは愕然とした。


 どこを見回しても分厚い壁のようにしか見えない敵アームドスキン。背後からは襲いくるムザ隊の精密狙撃。次々と撃ち抜かれて死んでいく戦友たち。自分の蒔いた種で展開されていく地獄絵図。


(同盟軍は消耗してるんじゃなかったのかよ? ZACOF(ゼイコフ)の中心戦力の俺たちと、英雄バロムが組めば怖いもんなんてないんじゃなかったのか? 型に嵌められてんじゃん)

 見るからに数が多く元気な敵だ。

(デヴォー司令はわかってたのか。流れが悪いから一旦退いただけで同盟艦隊にはまだ余力があるって。しっかりと体制を整えてから再戦を挑まなきゃいけないんだって)


 もう逃げ場所もない。指揮系統も分断され、まとまった行動もできなくなっている。罪悪感だけが胸に募っていく。死んでいく戦友を見ると身体がどんどんと言うことを聞かなくなっていった。


(父ちゃん、母ちゃん、ごめんよ。偉い人が口を酸っぱくして言ってくることには意味があるって本当だったよ。俺が馬鹿だった)


 機体が直撃を受けた瞬間、ここで死ねるほうが楽なんだと彼は思った。


   ◇      ◇      ◇


(もう組織的な抵抗さえできなくなってるわね)

 デヴォーは額を押さえる。


 内側の部隊と連携できれば、まだ挟撃態勢を作る余地がある。しかし、この期に及んで先行艦隊は応答を拒否しており連動する術もない。


(情けない。自分がやらかしてしまったことの責任が怖ろしくて逃げ惑ってるだけなのね。おぞましいほど愚かだわ)


 アデ・トブラ紛争のときに受けた栄誉と賛辞が彼らを酔わせてしまったか。さらにゼオルダイゼ同盟軍とも五分に戦えたから余計に目がくらんでしまったのだろう。勝てそうな空気があるだけで暴走してしまうようになってしまった。


(どこを狙う? ウェンディロフの側面? アデ・トブラの背後? 前者のほうが攻めやすいけど奥に控えてるゼオルダイゼ軍が届く位置。仕掛けにくい)

 デヴォーは迷う。

(アデ・トブラを突っ付くしかなさそう。反撃危ういけどモンテゾルネ部隊(うち)にやられてる経験を重ねてるだけに崩せる可能性はある)


 計算はできるが、いかんせん動かせる戦力が少ない。消耗を覚悟しなければ救出もできない。間違いなく、今度は追撃を受ける側に落ちてしまう。


「あ!」

 メッセージアイコンが点滅をしている。

「ルオーが……」


『近くタイミングあります。見逃さないように』

 そう書いてある。


 時空界面動揺が満足に収まっていない状況で確実に伝わるであろう短いメッセージを送ってくれていた。彼女はそこに活路を見出す。


(タイミング? いったいどこに? なにをするつもり?)

 青年のことだから間違いはないが、どこでなにが起こるかわかないではつらい。


 細心の注意を払って戦況マップを見つめる。不用意に攻撃できないアームドスキン部隊には待ったを掛けて見守った。


「来た!」


 戦闘宙域の向こうで控えていたゼオルダイゼ部隊が帰投する動きを見せはじめた。怖れていた予備戦力が後退しているのである。


「全機、ウェンディロフ軍の側面から突撃! 穴を開けなさい!」

「了解!」

 通信士(ナビオペ)から一斉に返事が来る。


「なんであんな動きをしたの? ルオーはどうしてそんなの予想できたの?」

 なにがなんだかわからないが好機である。

「おそらくこれです」

「なに?」

「ハイパーネットでライブ配信されております。ガンゴスリが旧ゼオルダイゼ同盟のホーコラと技術提携契約を交わし、現在保有する最新型アームドスキンを売却するとともに、新型開発計画までも受け継ぐと宣言しサインが交わされています」

 艦長が配信パネルを滑らせてきた。


 つまり、ゼオルダイゼが建造させていた最新型アームドスキン『カラマイダ』をガンゴスリが使うことになったという話だ。しかも、相当数に及ぶと語られている。

 それに危険を感じたゼオルダイゼ本星は戦力の温存、およびガンゴスリ遠征艦隊への対処を行うために同盟艦隊に派遣している戦力を引き戻すことしたのである。


「とてつもなく遠いところから援護のビームが飛んできたわ。彼ってば、どんな射程をしているの?」

「つくづく凄まじいスナイパーですね」

 艦長の表情も明るい。

「ゼオルダイゼ部隊の撤退にウェンディロフもアデ・トブラも浮足立つわ。容赦なんていらないからぶち当てなさい」

「全機、突撃命令!」

「助けられるだけ助け出すのよ」


 連携は取れていないが、お椀状に形成されているウェンディロフ部隊は器の外と内から攻められる形になる。堪らず決壊した側面から追い込まれていた友軍があふれるように飛び出してきた。

 お椀の底、向こう側にも飛び出す一団が現れる。内から攻めていた傭兵(ソルジャーズ)部隊が乱れを機に抜け出てきたのだ。


「救出ができ次第、全機を帰投させなさい。傭兵(ソルジャーズ)の連中だってさすがに言うこと聞くでしょ」

「聞かせます。聞かなくとも我が軍もメーザード軍も退かせればついてくるしかないでしょう」

「はあ、最悪。とてもじゃないけど戦える状態ではないわ。収容したら超光速航法(フィールドドライブ)加速に入って」


 ゼオルダイゼ部隊が退いたことで同盟部隊の追撃の心配もない。さっさと逃げ出すにかぎる。


 デヴォーは九死に一生を得た感覚で長い長いため息をはき出した。

次回『歪ませる(1)』 「人の希望になる君とは真逆ね」

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更新有り難うございます。 狙撃(概念)
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