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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
朱に交われば赤くなる

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宇宙曇らせ(4)

 デヴォーが到着した時点ですでに手遅れだった。傭兵(ソルジャーズ)艦隊と七隻のモンテゾルネ艦はアームドスキンを発進させて攻撃の布陣を整えつつある。ゼオルダイゼ同盟艦隊も迎撃態勢を終えて衝突寸前である。


(この距離だとファンファーレを流しながら登場したようなもの。接近するまでに敵も完璧に態勢を整えてる)


 カテゴリⅣ、十隻以上の戦闘艦が時空間復帰(タッチダウン)すれば激しい時空震が観測される。そのタッチダウン反応は、ほとんど誰が来たかも知らせているに等しい。


「レーザー通信で呼び掛けて。ターナ(ミスト)放出。先に中継子機(リレーユニット)も出して戦闘濃度に」

 こちらの事情を知らせるようなものなので電波通信は使えない。

「発進準備できた順にアームドスキンも出撃。ありったけの中継子機(リレーユニット)使って艦隊にも戦闘部隊にも指揮下に戻るよう伝えるの」


 無駄だと思いつつも全ての手は打たねばならない。離反艦隊の時空間復帰(タッチダウン)による時空界面動揺を避けて離れた位置に復帰するかとも考えたが、時間的に近傍への復帰のほうが早いと判断して安定を待った。その所為で二十分をロスしている。


(本来なら三十分は待たないと怪しいところを無理をしたわ。これは当分安定しないわね)


 ガンゴスリに緊急応援要請をできる通信状態になるまで待つとどうなっているかわからない。時空界面突入(ブレイクイン)前に応援を頼もうかとも思ったが、この状態が予想できたのであきらめたのだ。テキストメッセージだけ送ってある。


(当分はどこの艦艇も付近宙域にタッチダウンはできない。味方も呼べないけど、敵の増援がないだけ良しとするしかないわね)


 デヴォーは接近の指示を出しつつこの後の戦術を練りはじめた。


   ◇      ◇      ◇


 モンテゾルネ軍の若いパイロットは喜びに顔をほころばせてパイロットシートに背を預けていた。前方には傭兵(ソルジャーズ)部隊の一団。先頭のバロム・ラクファカルの駆る青いメトソールの姿も見えた。


(ああ、これで俺たちの無茶も評価される。要は勝てばいいんだ。この一戦で同盟艦隊を完膚なきまでに叩き潰してやればいい。英雄の仲間入りだ)


 パイロット同士のコミュニティを使って計画を実行に移した。デヴォー司令の悪い噂の余勢も借りて各艦のパイロットのうち七割近い賛同を得る。あとは古株の頭の固い戦闘隊長を飛び越して副長へと働き掛ける。

 通信士(ナビオペ)も仲間に引き入れ、そのままでは戦闘中に反乱が起こりかねない状態だと脅し宥めして説得する。システムエンジニアを仲間にできたのも大きい。艦長のスリープタイムを利用して私室に閉じ込めることに成功した。


(エルドッホリの艦長が乗っかってくれたのも大きかったな。情報も手に入りやすくなったし、哨戒艇を騙くらかすのも簡単だった)


 追撃作戦は英雄バロムを中心に、モンテゾルネ側はエルドッホリ艦長を指揮官にして進められる。本来ならクーデベルネも巻き込んでデヴォー司令本人も軟禁状態にできればベストだったがバロムに止められた。

 勘のいい彼女に事前に察知されるのは絶対に避けねばいけない。旗艦だけ切り離して作戦を決行する。その成果が目の前にぶら下がっていた。


「さすが英雄バロムだぜ。もう敵の戦列(ライン)に穴を開けてる」

「このまま突っ込むぞ。敵が動揺してる間に立ち直れないほど掻きまわしてやる」


 バロムはさすがに心得ている。前回の戦闘でもダメージの大きかったウェンディロフ部隊に勇猛果敢に攻め入った。突き崩された戦列はもろくも崩れ見る影もない。

 大きく開いた穴に機体を滑り込ませると周囲に向かってビームをばら撒く。牽制の用に足るだけでいい。横合いから攻められるのを防げればいいのだ。


「ほらみろ。奴ら、手も足も出ないぜ。一気に押し潰してやる」

「きっちり撃墜数稼いどこうぜ。同盟艦隊を壊滅させた俺たちは表彰ものなんだからな。箔は付けとくにかぎる」


 散発的に突撃をしてくるものの組織的な抵抗はない。肌で感じられるのは総崩れの状態。指揮系統がはっきりした状態ではないので通信士(ナビオペ)からの報告もない。全体像は把握できていないが問題なく勝利へと向かっていると思われた。


「はん、同盟軍とかいっても名ばかりの烏合の衆じゃないか。こんなに簡単に切り崩されていたら話しになんないじゃん」

「勘弁してやれよ。こいつらが弱いんじゃなくて俺たちが強すぎるんだよ」


 気分が高揚している。本国の開発したアームドスキン『スフォルカント』は同盟の機体に当たり負けしない。技術立国を標榜するだけはある。そこに彼ら勇猛なパイロットが加われば敵なしだと思えてきた。


「つけあがるな!」

「もう遅いってんだ! さっさと負けを認めろよ!」


 振り下ろされるブレードをリフレクタで受け止めると紫電が舞い散った。フィットバーに力を込めればスフォルカントは押し返してくれる。開いた隙間からブレードをえぐり込んで黙らせた。


「足止めるなよ。まだ抜けてないんだぞ」

「おう、わかってる。裏に抜けたらやりたい放題だ。もうひと踏ん張りすれば勝ったも同然だろ?」

「後続と挟撃したらウェンディロフは完璧に総崩れになる。次は中央のゼオルダイゼ部隊を平らげる番だ」


 そうは言いつつも、パイロットは今日は妙に敵が厚いなと感じていた。

次回『宇宙曇らせ(5)』 「いや、それは……」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 越権越えて造反じゃないの!?(若さと権力(?)欲での暴走か)
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