暗雲が(5)
性能差が大きすぎるのはわかっていた。経緯からして宣戦布告は避けられないだろうし、ルオーに止める権限もない。ならば、正面衝突は避けて徐々に現実を受け入れる形に持っていくつもりだった。機種更新ならば購入など様々な手段がある。
(真正面から開戦する方針となるとやめろとしか言えないなぁ)
そうしないと機材、兵員ともに著しい損害を被ることになる。
「新方式への移行は時間掛かりそうです?」
タリオンに尋ねる。
「開発はしている。しているが、一歩遅れているのは事実だ。我が国は優秀な兵士や指揮官は尊ばれるが、技術者はどうしても一段低く見られる傾向が強くてね。なり手に乏しいのが現実では」
軍事強国を標榜するなら兵器技術も両輪の片方である。しかし、育成に時間が掛かり尊敬も受けやすい兵士のほうに傾くのもありがちである。
「もちろん、大手メーカーに発注の打診はしている。ただ、このご時世では発注も殺到していて契約にも至っていない。メーカーと懇意にしていなかったツケがまわってる」
パイロット代表として苦渋を滲ませる。
「そうですね。基本的には国軍機として設計から建造まで独自に進めるのが良策です。備品の調達などでも困る心配がない。でも、メーカーに設計から納入まで委託するとなると現状では無理でしょうし」
「数を揃えるとなると、たぶん購入もままならないぞ」
「君みたいに一機で構わないのなら隙間を縫って取り寄せたりもできるんですけど」
パトリックのカシナトルドなどが例に挙がる。
「やはり、極力白兵戦を避ける戦略が不可欠のようです。それには戦場選びをしなくてはいけませんが、生憎と敵地での戦闘になるので難しいです」
「ガンゴスリにもゼオルダイゼ近辺の詳細な情報はないわね」
「調べてもらいますか。ティムニ?」
『いいけど、その前に通信来てるー』
注目を促すようにぴょんぴょんと飛び跳ねるジェスチャーをしている二頭身アバター。ピンク髪の頭に角が生えてるが如きポーズをしているのはアンテナのつもりだろうか。
「どなたです?」
通信パネルが開く。
「俺だ、俺! 水くさいぞ、ルオー」
「おや、ザロさんでしたか。元気そうでなによりです。水くさいとは?」
「お前、ガンゴスリの慰霊式典の映像に映り込んでたろ? 戦闘映像にもクアン・ザが映ってた。今はそこに肩入れしてんだな」
色々と報道されている。
「ゼオルダイゼの連中に一泡吹かせるんなら俺にも一枚噛ませてくれよ」
「そんなこと言ったって、まだ全然回復してないんじゃないです?」
「どちらの方?」
ミアンドラが不思議そうに覗き込んでくる。案件絡みの知人として紹介する。
「ホーコラの総理大臣をなさっているザロ・バロウズさんです」
聞いて、背筋を正す少女。
「これは失礼いたしました。わたし、ガンゴスリ遠征艦隊で司令官をさせていただいているミアンドラ・ロワウスと申します」
「知ってる知ってる。慰霊式典でめっちゃ立派な演説してたお嬢ちゃんだろ? あれには俺も泣かされたぜ」
「そ、そうです?」
とても一国の元首とは思えず戸惑っている。
「ザロさん、ホーコラには戦力出せる余裕なんてこれっぽっちもないでしょう?」
「おお、それどころか自衛の国軍の編成さえままならん。きな臭い情勢だってのにジェーンも頭抱えてる」
「あなたが元気そうなのが不思議なほどです」
苦しいお国事情のはずだ。なので、ルオーも頭の中から綺麗さっぱり外していた。
「パイロットも集まらないのに、なんでか機材はいくらでもあるんだよ。お前なら予想つくだろ? だってのに、なんで声掛けてくれないんだ? 水くさいったらありゃしない」
彼も「お?」と口ごもってしまう。
「忘れてやがったな?」
「すみません、失念していました。この戦争で負担を掛けていい相手ではないと頭から考えてしまっていて」
「提供させてくれ。どのくらいいる?」
渡りに船だった。
「どのくらい出せます? 五十もあればかなり楽になるんですけど」
「なに言ってる。二百はゆうに出せるぞ。ホーコラの生産力嘗めるな」
「はい? 二百です?」
元は衛星軌道プラント作業員の彼が言うのだ。間違いないだろう。問題は数ではないが。
「機種は?」
そこが重要だ。
「カラマイダに決まってる。最新型だ。古いの渡してどうするってんだよ」
「カラマイダを二百ですか? そこまでとは」
「出荷してないからな。ダブついてる」
当然のように言う。
「カラマイダって?」
「イオン駆動機搭載で重力波フィンタイプの最新型アームドスキンです。ゼオルダイゼのスルクトリの発展型のはずですよ、ミアンドラ様」
「そんな機体が二百機もあるんですか?」
「意外すぎますよ、ザロさん。引き合いなかったんです?」
今は資金だって幾らあっても足りない時期だろう。売り払っているものと思っていた。
「あったあった。モンテゾルネが売ってくれって言ったけど、ZACOF相手じゃなぁ」
渋い顔をしている。
「あっちに手を貸すと同盟に目を付けられちまうかもしんないし。でも、お前がいるガンゴスリに渡すんなら連中、それどころじゃなくなるだろ?」
「喉から手が出るほど欲しいというのが実情です」
「始めっからそう言えって。悪いが取りに来てくれよ。出せる分、全部出す」
ルオーはミアンドラと顔を見合わせた。
次回『暗雲が(6)』 「艦隊の搭載能力にも限界があるでしょう?」




