暗雲が(3)
ティムニの言う『時代の子』が二人いるということになる。
「もし、ゼオルダイゼ同盟の強引な台頭が極めて危険だとしたら、そういうケースもあり得るんじゃないです?」
ルオーはキーマンだという自覚がないだけに思う。
『わかんないー。今まではなかったしー』
「だとすれば、僕が彼の援護をするのが最も効果的だと思えるんですけど」
「おいおい、お前を見出したのはオレもだろ?」
パトリックにしてみれば彼を買ってバディを組んだ感覚なのだろうが、ルオーにすれば呑気な一人旅のつもりのところに割り込まれた印象だ。今では意外といい関係に落ち着いているとも思う。
「そんな気ないですよ」
すぐさま否定する。
「なんだか、バロムという人は性に合わないです」
「あいつ、独りよがりそうだもんな。ついてこいって感じだし」
「君がそれ言います?」
指摘すると不本意だという表情をする。
「一緒に見えるか?」
「いいえ、質が違いますね。彼は勝つためなら味方を窮地に陥れても平気そうです。会戦中も一歩間違えれば危険でしたし」
「オレは優しいじゃん」
我が道を行くパトリックだが、きちんと目配りはできる。戦闘中に誰かを踏み台にして前に出るという選択はしない。
「彼にも誰か付いてます?」
ティムニに尋ねる。
『いないー。だから不思議ぃー』
「では、あの機体は? 見慣れない機種だったと思いますけど」
『データ共有してもらったー。アームドスキン「メトソール」、専用機だけどあたしたちは関係なしー。個人持ち込みみたいー』
ルオーが彼も同類ではないかと推測したのはそれも原因だった。バロム・ラクファカルが乗っているアームドスキンも戦闘ボードにないクローズドの機体だったのである。
「傭兵で専用機持ちだって? メーカーのテストマシンでもないかぎりあり得ないぜ」
「ですよね」
傭兵協会はサポートもしっかりしていて、パイロットが身一つならレンタルする機体も保有している。他に購入斡旋もあり、分割支払のシステムも充実している。パイロットスキルが極めて高く名の売れたパイロットであればメーカーからの提供などもあるが稀なケースである。
「それを言ったら二人だって」
ミアンドラが如何にも訊きたがっていた様子で割り込んできた。
「ルオーのクアン・ザはどう見たって専用に組み立てた特殊機体だし、パットのもかなりハードな改造してあるじゃない」
「それは僕が協定者という立場だからだそうです」
「協定者?」
意図的に口にしてみたがゼフィーリアは特に咎め立てする気はなさそうだ。情報部は当然把握していようが、表立って秘密にするつもりもないと見える。
「ここだけの話にしてくださいね」
前置きする。
「ティムニはゴート宙区に存在していた旧先進文明の創造物らしいのです。彼女はアームドスキンの原型を開発した人類によって生み出されました」
「それは、本当?」
「はい。様々な先進技術の塊のような存在です。そして、彼女たちに選ばれて、無闇な技術流出を禁じる協定を結んだ人間を『協定者』と呼ぶのだそうです」
ミアンドラはもちろん、ヘレニアやタリオンも瞠目している。
「それは口外していい話?」
「吹聴したくはありませんが、そうでないと説明がつかないので納得していただけないでしょう、ヘレンさん?」
「信用してくれたのね。じゃあ、そのつもりで聞くわ」
少女はおそらく無条件で信用してくれるだろう。しかし、彼女を取り巻く大人にも信用されたい。目立つほどに、みだりな憶測をされたくはないものだ。
「協定者イコール時代の子という認識でした。それが歪んだので戸惑ってます」
ルオーの困惑を説明する。
「それくらいにティムニたちは広い視野を持っています。なのに、バロムを見つけられなかったのはなぜなのか」
「ルオーは以前からその協定者として活動してたの?」
「いえ、僕自身、そうだと知ったのはそんな前の話ではありません。ファイヤーバードに聞くまでは知らなかったんです」
事実を告げる。
「ファイヤーバード? 司法巡察官のファイヤーバード? いつの間に?」
「ミアンドラ様もお会いになってますよ。ポーラ・ボードナーと名乗っていた方がそうです」
「ポーラさん? あのレジット人の移住に一役買ってくれたあの方が? 嘘……」
「見事に交易商会に偽装してましたからね。司法巡察官ならあれくらいの変装はお手のものでしょう」
記憶を掘り起こしているのだろう。「握手しちゃった」などと呟いている。
「つまりはジャスティウイングも協定者の一人なわけです。だから、ファイヤーバードも裏事情に通じてました」
秘密の話に瞳をキラキラさせている少女に教える。
「星間管理局も特にアームドスキン技術の管理には熱心で、何人かの協定者の協力を得ているんだそうです。その中に僕も加えたくて、なにかと便宜を図ってくれるんです」
「そうだったの。じゃあ、ゼオルダイゼ同盟の専横に管理局も注意を払ってる? この戦争にも関与するタイミングを計ってるとか?」
「だとすれば、かなり有利になるわ。いざというとき星間平和維持軍を頼れるなら」
へレニアはいかに有利な材料なのか勘案している。
「いえ、当てにしないほうが。不用意に手出しはしてこないはずです。あくまで僕の予想ですが、この案件の裏側にはなにかありそうです」
「どうしてそう思うの?」
「おかしな点が多いからです」
ルオーは順立てて説明せねばならないだろうと思った。
次回『暗雲が(4)』 「誰も得をしないのは変でしょう?」




