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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
無理が通れば道理が引っ込む

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連なる山々(4)

「あなた、わかっていて?」

 デヴォーが遮光モードのパーテーションの向こうでフィットスキンに袖を通している。

「ゼフィさんのことです?」

「通名『ゼフィーリア』。ファミリーネームは都度違う。パルミットだけじゃなくオイナッセン宙区でも活動を確認できるわ。彼女、管理局情報部のエージェントよ」

「でしょうね。そんな手広くやってるとは思いませんでしたけど」

 彼女は驚かない。

「知ってて中に入れる?」

「どうやら僕は『フルスキルトリガー』って呼ばれて注目されてるみたいです。こそこそ嗅ぎまわられるくらいなら味方に引き入れといたほうがいいかなと思いまして。人手も足りなくなってきたことですし」

「そんな大胆なことするの、あなたくらいだわ。まあ、星間管理局のやることなら危険性はないものね」


 デヴォーの言うとおりである。危険があればさすがにルオーも敬遠する。しかし敵意がなく、こちらにも腹に一物ないのであれば下手に遠ざけないほうが動きやすい。


「でも、コントロールされるのは面白くないんじゃない?」

 彼女にとっても、だろう。

「いえ、ゼフィさんは案件選択に口出ししてきません。特に禁じてもいないのに、です。つまり、星間管理局は僕の影響力を計りたいだけなんだと思ってます」

「影響力ね。管理局の統制を乱すほどの影響力があれば対処しないといけないってわけ。本当の君は行き当たりばったりで気に入った相手に利益をもたらすだけのお人好しだってのに?」

「そうなんです? 僕はお人好しだって思われたくはないんですけど」

 行動が裏切っていると笑われる。

「ブレないお人好しよ。だって、途中で折れてしまうような依頼者だったら速攻で見捨ててしまうわよね?」

「まあ、契約料金(フィー)相当の仕事しかしません」

「でも、なにかに一生懸命な依頼者なら採算度外視で成功に導く。立派なお人よ……、わかったわよ。そんな不服そうな顔しないの」


 身なりを整えて指揮官の顔に戻ったデヴォーにルオーはついていった。


   ◇      ◇      ◇


 ブリーフィングルームに入ると、すでにミーティング相手が接続している。3Dプロジェクタから上半身が映し出されている壮年の男は胸にメーザード国章の付いた軍服だ。


「お待たせ、メラ・オード司令。彼がルオー・ニックルよ」

 勝手に紹介される。

「やはりでしたか。では、お繋ぎします」

「あら、もう?」


 メーザード司令官はすぐに操作を行い、隣に通信パネルを呼び出した。そこにはルオーも見知った顔がある。


「お久しぶりね、ルオー」

 キトレイア・イブストル大統領である。

「ご無沙汰しております」

「やあ、元気そうでなによりだ」

「ワイアットさんもですか。メーザードの首脳部が一同に集ってなにごとです?」


 キトレイア大統領の後ろにはワイアット・クスタフィンが立っている。今も大統領補佐官なのかと思ったらプロフデータが総務大臣に変わっていた。


「もちろん、契約を交わすためだ。助けてくれ。よければ、我が国軍艦隊の指揮権は君に託したい」

 呆れた提案をしてくる。

「なにをおっしゃっているんです? 曲がりなりにもいち国家の指導者ともあろう方々が」

「少なくて不満なのは理解している。しかし、未だメーザードの国力は回復していない。四隻出すのが精一杯なのだ。どうにか頼めないか?」

「数の話をしているんじゃありません。立派な司令官がおいでではありませんか。それを外部の人間なんかに」

 論外である。

「ゼオルダイゼの所為で軍部は人材不足なの。彼も形式上据えただけ」

「レイア様までそんな言い草されては面子がないではありませんか」

「いえ、自分は遠征が決まるまではただの艦長でして、遠征先での臨機応変な艦隊運用などできておりません」

 本人までもが否定する。


 予想はしていたが、やはりメーザード艦隊の運用もデヴォーが賄っているという。動きからそうではないかと思っていた。


「では、引き続きデヴォーさんにお願いするのが順当です。ご覧のように、現在はミアンドラ様との契約による業務遂行中です。他の方とは契約できません」

 だんだんと言い飽きてきた台詞を言う。

「では、状況に応じて君の指揮に応じるようにしよう。好きなときに使えばいい」

「そんな無茶な運用がありますか。艦隊を出した意味がないんじゃないです?」

「メーザードとしては、ゼオルダイゼ同盟の影響力を削れるならなんでも構わないの。国の体裁なんて今は二の次だわ」

 それを理由にZACOF(ゼイコフ)に参加したのだという。

「同じことじゃない。デヴォーもあなたを頼りにしているんでしょう?」

「同じじゃありません。場合によってはガンゴスリ艦隊は独自に動きます。連合への加入は形だけです」

「だったら、ガンゴスリ軍に随伴させるか」

「真剣に悩まないでください」


 メーザードの二人は政治はできても軍事はできない。戦場の兵の気持ちが察せられないのだろう。


「当面はこちらの連合艦隊も相応の数が必要なんです。勝つつもりなら体制は維持してください」

 なにか言わねば収まらない。

「そのうえで新加入のガンゴスリ軍が撹乱することで効果が得られます」

「そういうものか」

「いいです? 忙しいでしょうが、ワイアットさんはあのときみたいにまめに兵士を鼓舞するんですよ? それだけで戦えるというものです」

「そ、そうだな」


 ルオーは世話の焼ける友人を説得している気分になった。

次回『連なる山々(5)』 『σ(シグマ)・ルーンの感度上げてもいいー?』

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更新有り難うございます。 そのための専門家(傭兵業)。
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