連なる山々(3)
戦場処理を命じられた連合部隊が飛び交っているのを横目にライジングサンと合流したルオーたちはモンテゾルネの旗艦クーデベルネに連絡を入れる。アームドスキンでの乗艦にするか直結通路を繋げるか問うと後者を選択された。ミアンドラには別口で合流するよう伝えると兄のタリオンに連れてきてもらうという。
「お疲れさまです」
0.1Gの機体格納庫で飛び降りてきた少女を受け止める。
「ありがとう。デヴォー司令とはこれから?」
「ええ、直接会います。僕が案内しますよ、勝手を知ってるので」
「お願い。お兄様、まいりましょう?」
ハンガーは戦闘後のアームドスキンの処理で騒然としていて彼らを気にする者もいない。以前もパスウェイを繋げて行き来したことのある彼が先導して司令室に向かう。走り出しそうなクーファを捕まえて、作戦室などがある最上階フロアへと上がった。
「お邪魔します。って、どうなんです?」
「変?」
髪を乾かしただけでバスローブ姿のデヴォーがソファーに掛けていた。
「それが客を迎える姿です?」
「汗臭い状態でいるよりいいんじゃない? さっきまで司令ブースに張り付きだったのよ」
「オレは大歓迎だけどさ」
パトリックにサービスよすぎである。
「汗臭いままの女で悪かったかしら?」
「いやいや、ゼフィちゃんの汗なら一日中でも嗅いでいられるさ。香水にして発売しないかい?」
「それはそれで気持ち悪い」
顔を近づける色男は押しのけられている。デヴォーに新加入のゼフィーリアを紹介したあと、ミアンドラたちもそれぞれ自己紹介してもらう。
「始めまして、ガンゴスリ艦隊司令ミアンドラ・ロワウスです」
直接会うときの礼儀として挨拶していた。
「同じく戦闘隊長タリオン・ロワウスです。お見知りおきを、デヴォー・ナチカ司令。お噂はかねがね」
「こちらこそ、ロワウスの若獅子殿」
「そんな呼ばれ方もしていますね」
タリオンが苦笑している。
「貴国でもトップエースクラスの操機士くらい存じてますわ」
「演習成績くらいしか誇ることのできない若輩ですよ。貴女ほど実績に彩られた名前ではございません」
「類を見ないほど激しい演習を行うガンゴスリでなら十分な勇名でしょう?」
彼女に掛かれば隣の宙区の事柄さえ丸裸のようだ。ガンゴスリが有数の軍事国家ゆえのこともあろうが。
「来たぁ」
「どうぞ」
わくわくしていた猫耳娘の前にお菓子とお茶が並べられる。女性副官は慣れているらしく、デヴォーの格好を気にもしていない。
「早く契約書をお出しなさい」
「だから駄目ですって」
ルオーにだけ当たりが強い。
「本件はロワウス家との契約という形なのでミアンドラ様の指示が全てです」
「国家案件ではない?」
「ゼオルダイゼとの揉め事に端を発しているので従軍で呼ばれたのではないんです」
契約を切り替えただけ。
「わたくしなら倍出すと言っても?」
「だからダブルブッキングは星間法の民間軍事会社細則違反なんです。マーカー付きの管理局案件も全て後払いにしてもらって受け取らないからクリアできてるんですから」
「欲がないったら」
旺盛な食欲を発揮しているクーファのウサ耳の先を弄びながら言う。あきらめの悪い人である。
「まったく、どこまで本気なんだか」
掴みどころのない女性だ。
「あら、全部本気よ。もし、このあとのZACOFのミーティングで異論が出るようなら脱退してガンゴスリと組むわ。だったら勝たせてくれるんでしょ?」
「この数でです?」
「ひどいわ」
非難される。
「バランス取ってるだけじゃないですか、他の国に警戒させないよう」
「言い当てないでくださる?」
「わかりますよ。モンテゾルネの本気じゃないって」
本気でゼオルダイゼ同盟と戦争するならもっと戦力を出すはずだ。かの国の技術力と生産力はこんなものではない。しかし、ZACOFの連合艦隊内の半数以上をモンテゾルネが占めるようになると、連合国が主導権を持っていかれると感じてしまうので小出しにしているはずだ。
「倍に増員します。それならいけるわよね?」
顎を逸らして薄目で見てくる。
「立ちまわり次第で。もし、デヴォーさんがさっきみたいな杜撰な用兵を良しとするなら絶対に無理ですけど」
「あれ? 勘弁してくださらない? ちょっと難しいところがあるのよ」
「今、教えてくださらないんです?」
カマをかける。
「会ってみればわかるわ。妙な流れ、わたくしでも止められないのよ」
「あの感じですか。ずっとです?」
「ええ、ウクエリとデトロ・ゴースがお飾りの軍監だけ派遣して、ほとんどお任せにしてるかぎりは」
やはり、傭兵の部隊に彼女でも御しきれない問題があるようだ。その点にも危険を察してモンテゾルネは大軍の投入を躊躇っているのかもしれない。それで厳しい戦いを強いられているなら本末転倒な気もするが。
(単独で同盟と対峙するほどの戦力はない。デヴォーさん的には他の連合国軍は陽動程度にしか考えていないかもしれないねぇ。計算高い人だから)
むしろ、ガンゴスリの参入は歓迎か。ゴリ押しで勧誘してきた理由が察せられる。してやられた気分になった。さすがにミアンドラでは彼女の内心まで読めまい。
「もう少しでミーティングの時間だわ。着替えるから先にブリーフィングルームにいらしてて。あ、ルオーだけお待ちなさい」
「なんです?」
引き止められたルオーは不審げに振り向いた。
次回『連なる山々(4)』 「そんな大胆なことするの、あなたくらいだわ」