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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
無理が通れば道理が引っ込む
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連なる山々(2)

「よろしくありません」

 ルオーは決意する。

傭兵(ソルジャーズ)は消耗してるはずです。カウンターアタックが決まって退けられると、今度は連合軍が抜けた右翼を攻められます」

「下手すると一気に崩壊するじゃん」

「協議前から大崩れされたくはないかしら」

 皆の意見も同様だ。

「手出しする段階ではありませんが傍観するのもあれです。ムザ隊は止めます」

「あいよ」

「いいわよ。一人?」

「とりあえず、切り込むのは無しにしましょうか。向かってくるようなら迎撃お願いできます?」


 スナイプフランカーをフリーにして構える。移動速度を加味し、偏差射撃で行き足を狙った。まだ、攻撃を受けないかぎりは撃墜まですべきではないという計算が働く。


「ぎりぎり。ほんと、ルオーったら」

 際どい照準にミアンドラが苦笑している。

「六百近い数の敵に喧嘩売る度胸が僕にあると思います?」

「例のスクイーズブレイザー使ったら百くらい一撃で墜とせない?」

「そんなことするくらいなら戦闘艦を二、三隻沈めたほうが効果的です」


 物騒な会話をしている傍らではムザ隊が方向転換をする。たった一撃でも、狙点を見極められない彼らではない。スナイパー同士、同じ嗅覚を持っている。


「ルオー・ニックル! ライジングサン、またしても貴様らかぁ!」

 ターナ(ミスト)を貫いて指向性レーザー通信が飛んでくる。

「よそ見してる暇ないですよ。自軍のほうが突き崩されてもいいんです?」

「くっ、よくも」

「撤退がお勧めだって伝言お願いできます?」


 ムザ隊の足留めで攻めきれていなかった左翼メーザード軍が押し崩しに出ている。変化の読めないデヴォーではないので好機と見て動かしたのだろう。


「ありがと、ルオー。お礼はとっておきのお菓子とお茶でね」

 ライジングサン経由でデヴォーの声。

「喜んでぇ。もっとサービスするぅ」

「しませんからね、クゥ。今日は絶対に当てませんよ、デヴォーさん」

「あら、残念だわ」


 巻き込みたくて仕方がない司令官は彼の急所である猫耳娘を攻めてくる。しかし、容易に乗るルオーではない。


「この状況だと当てないほうが難しくないかしら?」

 ゼフィーリアまでからかってくる。

「当てないと言ったら当てません」

「そう? じゃ、お手並み拝見」

「ゼフィちゃんとオレは観戦してるさ」


 ムザ隊からの置き土産みたいな狙撃をプラズマボールに変えた彼は狙いを別にする。モンテゾルネのアームドスキン『スフォルカント』が対しているアデ・トブラの『ゾフリータ』の鼻先をかすらせた。注意の逸れたところをスフォルカントが撃破する。


「アシストに徹するわけね」

依頼(オーダー)外の戦闘行為ですが、これならたまたまで許してもらいます」

「どこの偶然があれほどの至近距離で、しかも同盟軍のアームドスキンに限って降ってくるのかしら」

 皮肉られる。


 ルオーとしては取り戻せないところまで左翼の崩れた同盟軍に撤退してほしいのだが、なかなか後退する気配を見せない。地味な援護だけで数を減らしていく。すると、デヴォーが大胆な用兵に切り替えて中央を崩しに掛かった。


「怖い怖い。使ってくるじゃん」

 美人司令の遣り口をパトリックが笑う。

「見事な用兵。あれだけの数をまるで手足みたいに」

「入ってるときのミアンドラ様も似たようなものでしたよ。その気になればできるものです」

「わたしにそれだけの才能があればいいんだけど」


 援護をしつつ、ムザ隊を脅かして手数を削っているだけで戦局は傾いていく。突き崩すには中央は厚くてどうしても時間が掛かってしまうが、膠着状態は抜けたように見えた。


(なんだろう、この妙な空気。中心にいるのはモンテゾルネ軍のはずなのに、そうじゃないみたいに思えてしまう)


 その奇妙な感覚は到着したときから変わっていない。なにか別の意思が戦場を動かしているような空気感。見渡して原因を探す。


(あれだねぇ、傭兵(ソルジャーズ)部隊。大概はもっと手堅い立ちまわりをするパイロットが多いと思うのに、ずいぶんと無理を通しているみたいだ。敵中にもぐり込んで突き崩すことしか考えてないように見えるんだけど)


 あまり従軍依頼を請けないライジングサンでも大規模な演習は経験がある。その時に感じた傭兵協会(ソルジャーズユニオン)の部隊の挙動と今の動きがあまりにも違うと思える。


(疲れも見せずに戦いつづける部隊とか違和感すごいねぇ。なにがそうさせてる?)


 強引すぎると崩れたときに取り返しがつかない。それが傭兵(ソルジャーズ)部隊だけの問題なら構わないが、全体に波及しそうな危うさまで覚える。今も、崩れて退いたウェンディロフ軍に見向きもせずに、今度はゼオルダイゼ軍にまで襲い掛かっていた。


(逆に弾幕張りにくくない? デヴォーさんはやりにくいだろうなぁ。僕でも味方相手に行き足を止める一射を入れたくなる)

 一応は友軍相手にそれはできない。


 防衛艦隊以上の戦力を持たないウクエリとデトロ・ゴースが撃墜ボーナスを弾んでいるのかと思う。少々刹那的なところのある傭兵たちなら、ギャランティが良ければ張り切っても仕方ない。それにしても後先考えない猛攻は全体のバランスを悪くさせそうで怖い。


(デヴォーさんが一枚岩じゃないって言いきっちゃう原因がそのあたりにあるのかもなぁ)


 同盟軍がようやく撤退する気配を見せはじめたのを認めつつルオーは考えていた。

次回『連なる山々(3)』 「早く契約書をお出しなさい」

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