連なる山々(1)
ガンゴスリ遠征艦隊はゼオルダイゼの諜報の目をくらませるために一度なにもない宙域まで超光速航法を行う。当初はそこに駐留してから敵軍の出方を窺う予定だった。
しかし、ゼオルダイゼ同盟対抗機関連合軍『ZACOF』への協力が急遽決定したため、旗艦ゲムデクスと戦闘艇ライジングサンは連合軍艦隊と接触することになる。協議兼顔合わせのようなものだ。
「もし、ゼオルダイゼが本国に向けて戦力を動かすようだったら戻って軌道艦隊と挟撃作戦をするわ。あなたは安心して話を通していらっしゃい、ミアンドラ司令」
「協議の場を作ってもらったらオンライン参加をお願いします、ヘレン副司令」
単独で動くゲムデクスを警護する建前でライジングサンも行くが、実のところは彼らがいないとモンテゾルネのデヴォー・ナチカ司令がまともに協議に応じてくれなさそうなのでルオーも同道する。
(陣容も見させてもらっとかないとねぇ。共同戦線張れそうなら合流するもよし、無理そうなら予定どおりゼオルダイゼのみを対象にしての戦闘かな)
彼は見極めが必要だと感じていた。
相手を刺激しないのも全艦隊で動かない理由の一つである。それというのも現在、連合軍は同盟軍との交戦中なのだという。
アデ・トブラにウェンディロフ、さらにゼオルダイゼの同盟艦隊と対峙している状態でガンゴスリ艦隊が時空間復帰すれば突発的な戦闘状態になる怖れがある。話のまとまらないうちから、なし崩しにゼオルダイゼ以外の両国との戦端を開くのは避けたいところだ。
「先行して様子を見てきます。戦闘が終わって落ち着いたらお呼びしますので待っていてくださいね、ミアンドラ様」
「お願い、ルオー」
時空間復帰反応でこちらの時空間復帰は察知されていようが、接近しなければ襲ってくることはないだろう。ゲムデクスには離れて待っていてもらう。
「ティムニ、北天位置で離れて様子を見ます。クゥも落ち着くまで近寄ったら駄目ですからね? デヴォーさんのお菓子は逃げないので大丈夫です」
「わかったぁ。遠くから見てるだけぇ」
戦闘艇で北天方向へ向かい、クアン・ザとベルトルデ、ヘヴィーファング三機で有視界距離まで飛ぶ。上から俯瞰で会戦の全体像が見える場所に位置した。
「見えてます、ミアンドラ様?」
「はい、しっかりと」
リンクしているライジングサン経由でゲムデクスとも情報共有する。
「聞いていたとおり、アデ・トブラ、ウェンディロフともに八隻の艦隊。ゼオルダイゼの国章を掲げている戦闘艦も四隻。合わせて二十隻の陣容ですね」
「こんな大規模戦闘、初めて見ます」
「滅多にあるものじゃありませんよ。対して、モンテゾルネの六隻にメーザードの四隻、それ以外は傭兵協会のロゴが入ってます。四隻の計十四隻ですね。数的にはかなり厳しいです」
戦力的な数なだけで、両艦隊はずいぶんと離れた位置に停留している。実際に戦闘しているのは艦載のアームドスキン隊である。戦力比は単純に艦数の比とほぼ同じなので10対7となっていた。連合軍サイドは1.5倍近い敵との戦いになっている。
「どうも様子がおかしいぜ、ルオー」
「ですね」
パトリックが覚える違和感を彼も感じている。
「連合が強すぎる。むしろ押してないか?」
「僕にもそう見えてますよ」
「デヴォー司令のお力の影響? あなたが教えてくれたとおりの用兵家なら変でもないんじゃない?」
「それにしても、です」
同盟軍は正面から見て楕円状に押し広げられている感じだ。それは中央に位置するモンテゾルネ軍が押し引きで作り上げたものだろう。ただし、右翼戦隊が切り崩して穴を空けてまわっている。傭兵部隊のはずだ。
「厚みを失ったところを攻め立てています。ですが、数が数なのでお世辞にも薄いとは申せません。なのに平気で突っ込んでいますね」
一種異様な光景だった。
「メーザードが堅実に押し崩そうとしているのと比べて対象的に見えちゃう」
「まとまりがない、というよりは偏りがあると見えます」
「戦い慣れた傭兵だからの一言では語れないかしら」
ゼフィーリアも怪訝に感じている。
「真っ当にいけば連合側が布陣の隙を見せてるのに、同盟はそこを攻めれてない。好き勝手に動く戦隊を止められてもいないじゃん」
「有り体にいえば強い。ですが、これほど乱暴では消耗も激しいでしょうに」
「左翼のウェンディロフ軍、崩れそう」
戦局を傾けるに十分な働きをしているように思える。しかし、どうにも強引な作戦だ。デヴォーがこんな危うげな用兵をするとは思えないでいる。
(一枚岩ではないにしても、ね。制御が効いてない? もしくは、傭兵が意図的に乱そうとしてる?)
そう見える。
「右翼、アデ・トブラ軍が動くみたい」
ミアンドラが指摘する。
左翼の崩れを防ぐために対処を始めたようだ。ただし、全体ではない。一部が戦列の裏を使って移動し、暴れまわる傭兵戦隊の鼻面を叩こうとしている。
「おい、あれ」
パトリックも気づく。
「ええ、あれはムザ隊ですね」
「命冥加に生き延びたってのに、また性懲りもなく戦場に出てきてやがるのか」
「アデ・トブラとしても放ってはおけないでしょう」
スナイパーで構成されたムザ隊が動いている。彼らも対戦したことのある編隊だ。捕虜交換で帰国したはずだが戦線復帰したらしい。
ルオーはムザ隊の動きを戦局の転換点と読んだ。
次回『連なる山々(2)』 「当てないと言ったら当てません」




