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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
無理が通れば道理が引っ込む

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旭帯びしは(3)

 編成された遠征艦隊十二隻は、大型戦闘艦二隻を含んでいる。旗艦ゲムデクスを艦隊司令官ミアンドラが率い、もう一隻のグリデリアを副司令のへレニア・ピルデリーが率いる。分散しているのは万が一の場合にも指揮系統を維持する目的でだ。


(お母様と同世代のヘレニア様が副司令とかちょっとプレッシャー)

 父親ボードルを恨めしく思う。


 ヘレニアは名門ピルデリーでも屈指の司令官で、演習でも数多くの実績を挙げている女性だ。ミアンドラがもし通用しないようなら交代するという希望には沿っている。しかし、補佐をさせるのは心苦しいものだ。


(お会いしたことは何度か。普段は温和な方なのは知ってるけど)


 このあと当のへレニア含め、各艦の艦長および戦闘隊長でオンラインブリーフィングを行う。彼女と同席するのはゲムデクス艦長のソギド・フレイカスと戦闘隊長で上の兄のタリオン・ロワウス。

 四十七歳で叩き上げのソギド艦長は先の撤退戦からミアンドラの有能さを買ってくれているので気が楽だ。兄のタリオン戦闘隊長も十一も離れた二十五歳で仲も悪くない。あとはライジングサンメンバーも来てくれる。


(直接接する顔ぶれはプレッシャーにならないよう気遣いしてくださってる)


 ルオーと博識のゼフィーリアの二人を招いたのだが、パトリックがついてくると言い出し仲間外れを嫌ったクーファも結局やってくる。どうせ戦闘艇は直結(ダイレクト)通路(パスウェイ)を繋げるので手間が変わるわけではない。


(ルオーと、電子戦性能の高いティムニをどれだけ頼りにしてるか見ておいてもらわないと、あとで問題視されるかもしれないし)

 作戦に入ってから外部の者を重用しすぎと反発されるのは面倒だ。


「お疲れさま、ソギド艦長。艤装確認であまり休む暇がありませんでしたね。申し訳ないです」

「堅苦しいのは無しだよ、ミアンドラ司令官。あのときみたいで結構」


 ソギドが彼女を見る目はまるで孫と接するそれに近い。面映ゆさもあるが、立ててくれるのはありがたい。


「タリオンお兄様も。操機隊はほとんど再編状態だったから大変だったのではありませんか?」

「優秀なパイロットを失ったのは本当だが、ガンゴスリ軍はそんなに層が薄くない。訓練でよく顔を合わせるメンバーも多いから気にしなくていいぞ」


 前任者が戦死しているのでタリオンが再編後の配置に心砕いてくれた。急遽のことで難しい差配だったと思う。留任のパイロットはエスメリア含め十名程度でしかない。


「お邪魔します」

「ごくろうさま、ルオー」


 眠そうな面立ちの彼女のナイトがやってきた。続くゼフィーリアの隣でなんやかやと話し掛けているパトリック。ちょこちょことついてきていたクーファが一目散にミアンドラの隣に来て腰掛ける。


「おやつ持ってきたぁ」

 彼女の前にもドライフルーツ入りクッキーの器が置かれる。

「ありがとう、クゥ」

「頭の栄養ぉ」

「うん、そうね」

 苦笑いする。

「お兄様、彼がルオーです」

「顔を合わせるのは初めてだね。ミアの兄でタリオンだ。よろしく頼む」

「こちらこそ。外様が口出しするのは面白くはないでしょうが、どうかお許しください」

 握手を交わしている。

「気にするな。君の作戦能力はあの観兵試合のときに見せてもらった。妹が頼りにするに足るのは知っている」

「助かります」


 他のメンバーも紹介しておく。兄とゼフィーリアが握手するのをパトリックが警戒した面持ちで眺めているので、タリオンには婚約者がいるのも付け加えておく。


「上流の男ってのは平気で愛人に狙ったりするからさ。わからないじゃん」

「それは君も同じではないか? ゼーガンのパトリック君」

「食えないか。まあ、近場じゃ仕方ないな」


 家督争いを嫌って出奔した形のパトリックも元はタリオンと似た上流階級の出。兄も思うところがあるのかもしれない。


「またよろしく頼むよ、ルオー君」

「ソギド艦長も大変ではありませんでしたか? 僕が余計に損失を出させてしまったので」

「それはない。逆に、よく連れ帰ってくれたと褒められた。頭打ちになっている昇進を打診されたくらいだ。この遠征がすんだら家族にいい顔ができるかもしれん」


 朗らかに笑う壮年にルオーも嬉しそうにしている。艦内だけでも軍閥の確執とは無縁でいられればいくらかマシだと思える。ただし、艦隊内では難しいかもしれない。 

 特にこのあとブリーフィングで一緒するへレニアはピルデリー家軍閥でも屈指の指揮官。なにかと彼女と対抗してくるのではないかと不安にもなる。


(状況が複雑なだけ、内部でゴタゴタしているようだと遠征に意味がなくなりそう。そんなに遠くないはずのゴールが遠ざかるのは嫌なのに)


 軍学校は休学扱いになっている。復学して、もっと勉強したい気持ちも強い。戦争が長引くようでは同級の生徒たちに追い越されてしまいそうだ。不安を口にすると、ルオーは現場のほうが勉強になるはずと慰めてくれたが。


「時間ね」

 凛とした声が告げる。


 配置されている3Dプロジェクタからバストショットの参加者がぽつりぽつりと灯りはじめる。それぞれの艦で同じ配置になっているので目配りなども連動していた。


「遅いわよ、ガスケイン?」

 へレニアが視線を飛ばしている。

「申し訳ございません、ヘレニア様。思ったより面倒な状況を頭に入れるのに手間取りまして」

「ひととおり説明するから不要よ」


 手練れの指揮官の厳しさにミアンドラは萎縮しそうになった。

次回『旭帯びしは(4)』 「お前の青さは微笑ましいな」

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