始まりの(5)
確認作業の結果、戦死者は操機士のみで十四名。当初は未帰還者が五名含まれていたが、全員が他の機のガンカメラ映像から撃破されたと認められた。
戦闘艦ゲムデクスは実に四十名中三分の一以上の戦死者を出したことになる。戦闘可能な機体に至っては、軽微な損傷を含めても十八機しか残っていなかった。
(敵地であることを踏まえたら、完璧に降伏レベルの損害だなぁ。よくもまあ)
ルオーの記憶のかぎりでも最大規模の激戦である。
実際、計測できた敵機の数が二百を超えていたことを考えれば奇跡に近いかもしれない。ゲムデクスもメイン推進ブロックの半分を失っている。
「ご無事でなによりでした」
艦内でエスメリア・カーデルと偶然出会っての会話。
「ああ、無事なだけで戦闘中盤には大破させられて離脱という体たらくだけど」
「実戦が初めての新兵でなら立派ですよ」
「一緒に配属された同期四名のうち、二名が戦死だ」
凹んでいる。
「いきなりの実戦とはいえ、軍学校でもトップレベルの同期たちがだぞ? 私以外は男子卒業生だから操機コースのエリートたちだ。演習経験だって豊富だった。それなのに……!」
「状況が最悪でした。ゼオルダイゼがここまでの暴挙に出るとは誰も予測していませんでしたよ」
「すまない。憤りが治まらなくて」
悔しさと怒りに支配されてしまったのだろう。声を荒げたのを恥じている。
「ミアは?」
本当はこちらが訊きたかったのだと思う。
「ミアンドラ様も落ち込んでいらっしゃいます。まだ、現実を受け入れがたい状態なのでしょう。案じるなとおっしゃいましたけど、とても心配ないとはいえないです」
「ショックだろうな。だが、私よりよほどよい働きをしたと思うが」
「多くの言葉を掛けるのは躊躇われます。ご自分の中で整理なされるのが近道でしょう」
(もしかしたら、トラウマになって除隊してもおかしくない経験だったし)
十四歳の少女にはつらすぎる。
「ボードル閣下はお決めになられたか?」
「ええ、このあと分離して超光速航法です。帰国までお休みください」
「そうする。貴殿はタフだな」
「慣れです」
ルオーは肩を落としたエスメリアを見送った。
◇ ◇ ◇
帰還後もあまりに騒然としていて、ライジングサンまで手がまわらない様子。ルオーたちも契約料金を急かすのもなにかと思い待っていたのだが、ようやく来た連絡は慰霊式典への参列要請だった。
「これってどうなん?」
パトリックは渋々という体。
「帰還成功の殊勲者として名前呼ばれるくらいじゃないかしら。体裁を整えたら契約終了って流れ?」
「ゼフィさんの予想が正しいでしょうね。ガンゴスリはこのままじゃ収められないでしょうが」
「戦争だな。宙区跨いでとか結構珍しい」
遠慮したい流れではあるが辞退するのもはばかられる。両親のところに帰っていたクーファも途中で合流して式典に向かう。
「美味しいものあるぅ?」
小首を傾げている。
「いえ、パーティじゃないので食べるものはちょっと。ちゃんと大人しい格好で来たんですね」
「うん、父がこれ着ていけってぇ」
「着いたら耳は外しましょうね」
猫耳娘も今日は黒系のワンピースをまとっている。ゼフィーリアもシックな装いだ。ルオーとパトリックも礼服とまでは行かないが、地味な色合いのフィットスキンに黒のパイロットブルゾンを引っ張りだしてきた。
「それでは、ゼオルダイゼ大使救出作戦の慰霊式典を開始いたします」
政府主催の式典が始まる。
冒頭は国のトップとして総理大臣の慰霊の言葉から。一人ひとりの名前が読み上げられ哀悼の意が捧げられるとともに糾弾の言葉が続く。最後にゼオルダイゼに対する宣戦が布告されて終了した。
続くボードル・ロワウス国軍長官の番。最初に自らの不明を詫びる言葉を遺族に送り、戦死者に感謝と哀悼の意を捧げる。怒りともとれる発言も交えられたが、世論に配慮したか控えめな表現に終始した。
「次は、救出作戦終盤の撤退行動において実際に指揮を執られたミアンドラ・ロワウス嬢からのお言葉をいただきます」
残酷なアナウンスだと思う。
慰霊用の軍令服に身を包んだ身体は小さい。糾弾の言葉はないが、その肩にのし掛かる重圧は如何なるほどだろうか。
(たぶん、自分で発言したいとお願いされたんだろうなぁ)
贖罪の意思が面持ちに表れている。
「お集まりの皆様、未だ若輩の身でありますが、どうかその身を捧げられた勇敢なる兵士の魂に哀悼を捧げることをお許しください」
しっかりとした口調で言葉を紡ぎはじめる。
「わたくし、ミアンドラ・ロワウスは突発的戦闘で急遽指揮を執らせていただきました。その戦闘において我が国の兵士十四名もの命を失うことになり、我が身の不明を恥じるばかりであります」
非常に苦しそうな様子に非難できる遺族などいまい。実際の戦闘の状況は先行して報道されていて奇跡の帰還と銘打たれている。誰もがこの少女の所為になどできないだろう。
「大切な命が散る様子を目にし、わたくしは知ることになりました。自分がどれだけ現実を知らないのかを」
目を伏せたまま続ける。
「自らの愚かさを感じ、軍に身を置く過程にありながらも覚悟の足りなさを問われたように思いました。今のままでは国民をお守りできるなどと口が裂けても申せません」
ミアンドラの語る苦衷をルオーも痛ましく見守っていた。
次回『始まりの(6)』 「大きな勘違いに気づかされました」
※夏休み二回分更新を終了します。明日よりは一回分の更新に戻ります。




