始まりの(3)
プラズマ推進ブロック二つのパージでかなりの敵機を置き去りにできた。ミアンドラは安堵するも、まだ集中は解けない。艦載機は減っているし、敵機も少しは残っている。
「後ろは引き剥がしに成功してます。右舷、厚く。孤立していると見せ掛けて」
配置を戦況パネルで入力しつつ通信士向けに口頭でも指示。
「編隊同士の融合進めて。五機六機になってもいい。サポートしつつ確実に」
「大破機、下げます」
「無理させない。下げてライジングサンとランデブー。ワイヤー出して引っ張ってくれてるから」
なんとかナビオペたちも誘導がしやすくなったようだ。大破を報告する声も少なくなってきている。
(パージ作戦は正解だった。燃房を空にするっていうから、なんのためかと思ったけど)
ルオーが見事に騙してしまう。
(よくわかる、戦力にならないものを抱えるほうが負荷になるって意味。逆に敵に背負わせて追い払えるのは一石二鳥)
大破したアームドスキンを積極的に後退させるのは全体を楽にするのだ。帰投が許されない状況ではパイロットは戦場離脱を躊躇うだろうが、命じてでも下げねば苦しくなるのは自軍でしかない。
「艦長、報告」
艦の状況も重要だ。
「加速、順調です。三万km超えたあたりで時空界面突入可能速度に達するでしょう」
「ありがとう。異常があったらすぐに教えて」
「了解です」
今や艦長も彼女の指揮を受け入れてくれている。敬意を示す余裕がないので言葉遣いもぞんざいになっているが、あとで詫びて許してもらおうと思う。
「ライジングサン、援護は必要?」
「完全に抑え込んでくれてます。大丈夫」
「敵の排除に務める。ナビ、続けて」
(さすがのライジングサンというとこ。安定感、半端ない)
ミアンドラは後方の戦況パネルを気にする必要もなかった。
◇ ◇ ◇
リフレクタに紫線を刻んで突き放す。重い行き足を引きずるような敵は怖さもない。もう一条刻んで隙間に高収束ビームを忍び込ませると足に被弾してロールした。もう一射が首元から尾部まで突き抜け爆散する。
(逃げればいいものを)
パージした推進ブロックを追い損ねた敵機は、急に少なくなった味方に浮足立っている。それでも逃げないのは敵前逃亡を疑われるのが嫌だからか。国軍兵士というのは因果なものである。
「ゼフィさん、離れすぎないでください」
「難しい距離じゃないでしょ?」
「ブレイクインポイントまでに余裕を持って戻れるくらいじゃないと困るんです」
バラーダブラザーズの兄のほうも性分的には似たようなものらしい。しつこく喰らいついてくる。
「じゃあ、あげる」
「当てつけがましいですよ」
ヘヴィーファングがスルーすれば当然クアン・ザのほうにやってくる。他にも敵機はいるので致し方ないといえばそれまでなのだが。
「小賢しいぞ、貴様」
今さらのように言ってくる。
「黙って見送ってくれないからです」
「本国まで攻め入ってきておいてなにを言う」
「だから、攻め入ったわけじゃないって言ってません?」
顔に泥を塗られたとでも思っているか。
「だいたい、小細工好きなのは変わらないでしょう。ホーコラで民間パイロットのフリしてたの誰です?」
「普通の工作活動だ」
「自分はいいなんて論調、聞きたくもありません。飼い主に似すぎですよ」
どこから入手したのか、ゾル・カーンだけ重力波フィン搭載のうえパワーもある。リフレクタの真ん中をノックしただけでは突き放せない。
(ゼオルダイゼの『スルクトリ』ってアームドスキンとは系統が違うみたいに見えるんだよねぇ。裏側の手掛かりっぽいんだけど)
見た目だけの話ではある。
(色んなとこで造らせてるからってのはあるかも。スルクトリは、ホーコラのカラマイダに似てるから同系統かな)
ホーコラを工場にしていた可能性が高い。主力機はあの国に建造させていたのかもしれない。だとすれば今後、供給が怪しくなってくるだろう。
「言っておけ」
リフレクタを斜めにして反動を逃がそうとしてくる。読んでいたルオーは砲口をずらして空いたほうへとビームを流した。ビーバは慌てて機体を横っ飛びさせて回避する。
「貴様は油断ならん。閣下の言うとおり、早めに排除せねば禍根になる」
言いたい放題である。
「雇いの宇宙屋に執着してどうするんですって伝言頼めます?」
「首と一緒に届けてやろう」
「古風な風習は遠慮したいんですけど」
牽制のビームにカウンターショットを当ててプラズマボールにする。迂回せず、突き抜けてきたゾル・カーンは蒸散したビームコートの湯気をまとって飛び出してきた。
自身の間合いだと思ったか、ブレードを抜いて悠然と斬撃を放つ。スナイプフランカーを固定してチャージガンを抜くと、至近距離にまで迫った一撃をビームで弾き飛ばす。
「ギミックばかりの多い機体だ」
「死にたくない一心の僕の意思を反映させてあるんです」
「戦士として散る覚悟もない者が」
「背負うのは散らした命でいっぱいいっぱいです」
足掻きと見たか、ビーボは畳み掛けてくる。しかし、彼はすでに次手を打っていた。シャッターレールを一周したスナイプフランカーが旋回しつつ手放しで一射を放つ。斬線と化したスクイーズショットが膝を抜け肩まで斬り裂いた。
「しくじったか」
「さっきの伝言、よろしくお願いしますね」
蹴り放す。
ルオーはチャージガンを戻して連射を放つが、それくらいで墜ちてくれる敵だとは思っていなかった。
次回『始まりの(4)』 「もしかしてゼフィちゃん、初めて?」




