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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
油断するとつけ込まれる
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レジットの民と(1)

「ふぁー、きれーい」

「ちょっと目立ち気味ですね」


 宙港に到着して戦闘艇『ライジングサン』に案内するとその黄緑色の船体にクーファは感嘆する。ルオーとしてはもっと控えめな彩色を求めているのだがティムニは頑として認めない。事業をするなら印象に残りやすくすべきだと主張する。


「じゃあ、ちょっと仕事に関する打ち合わせをしましょう」

 外でしていい話ではない。

「はーい」

「お店はどうなんでしょう。こちらから断りを入れましょうか?」

「問題なしぃ。クゥがお店を任されることって少ないのぉ。なぜぇ?」

「わかります!」

 強く主張する。


 薬局としては二の足を踏むだろう。客が店に入る前から立ちすくんでしまいかねない店員がいるのは。ルオーはまだ不運の尻尾を掴んだままのようだ。


「なんで、みんなと同じこと言うのぉ?」

 頬を膨らませているととても年上には見えない。

「うーん、気づかないほうが幸せな場合もありますし、僕からはなんとも」

「ぶー」

「船の中でなら好きにしてくださって結構ですよ。意外と快適です」


 σ(シグマ)・ルーンで帰着信号を出す。ところが、いつまで待っても搭乗ラダーが降りてこない。今までにないことに困惑した。


『立ち入り禁止ー』

 すぐにティムニの二頭身アバターが出てきて、いつにない固い口調で言う。

「クゥですか? 大丈夫だと思いますけど」

『それはラギータ種。人類にとって極めて危険な存在。遺伝子で確認した。とても容認できないから駄目ー』

「風土病とかの話ですか? それだったら管理局が渡航を許可している段階でセーフだと思いますけど」

 病原体保持者なら絶対に渡航許可が降りない。

『そんなんじゃなくて、人類を全滅させかねない技術を持ってるの。これまで確認できてなかったなんてめっちゃ不本意。ともかく無理』

「そう言わずに。彼女に悪意がないのは僕が保証します。今度の依頼に協力してもらいたいんですよ」

『うー……』


 珍しく言い淀む。常に歯切れのいいティムニがこんな反応を示すなど今までになかったことだ。


『虎穴に入らずんば虎子を得ず、って? 仕方ないわ。本当を教えてあげる』

 搭乗口が開きラダーが降りてきた。

「変に強情なときがありますね。ともあれ君とクゥの事情を聞かなければ話になりません。入っていただきますよ」

『はぁーあ、こんなことって……』

「こだわりますね。さあ、クゥ」


 戸惑いの面持ちの猫耳娘に手で示して先に登る。船内に頭を覗かせたところで手を差し出して引き上げた。彼女の身体は驚くほど軽い。とても、ティムニが言うような危険な存在だとは思えない。


「カフェテリアでお話しましょう」


 物珍しげにシーリングキャッチされているアームドスキンを見上げている。居住フロアに繋がる階段へと誘導し、中央通路(センターパス)を歩いてカフェテリアへ。すると、そこにはくつろいでいるパトリックもいた。


「戻ったな。例の(ブツ)は手に入ったか?」

 面倒なことになったと苦笑い。

「君こそ戻ってたんですね。いつもみたいに夜まで帰らないか、朝帰りかと思ってましたが」

「依頼の受領アイコン付いてたじゃん。帰るって」

「通信まで入れないのは急ぎじゃないってサインでしょう?」

 男の声に背中に隠れたクーファを招き入れる。

「なんだと!? ルオーの分際でお持ち帰りとはいい度胸だ。って、おい! そいつはアウトじゃないのか?」

「冗談はよしてください。彼女は立派な成人ですよ」

「ん? おやおや、これはまた可愛らしい」


 すぐさま立ち上がって凝視し、猫耳に気づいて言う。獣人種(ゾアントピテクス)ゆえに身長や見た目の違いがあるのがわからないわけがない。この二年、仕事で数多くの獣人種とも接している。


「失礼した、レイディ。お名前は?」

 女性には露骨に態度が変わる。

「クーファ、なのぉ」

「ほう。依頼主さんですかね?」

「違うのぉ」

 距離感の近いパトリックに腰が引けている。

「控えてください。僕が協力をお願いしたんです。その前に事情があるみたいなので話し合わないといけなさそうですけど」

『そうよん。鼻、噛み千切られたくなかったら近づかないほうが身のためー』

「そんなに凶暴なのかい? この可愛い唇はキスするために付いているはずなんだけどさ」


 ティムニの忠言も聞く耳持たない。相方の悪癖には辟易する。押し避けてクーファに腰掛けるよう促した。


「そんなにジロジロ見ない。本当に失礼ですよ」

 自制を促す。

「でもさ、気になるじゃん。今まで見たことないタイプだし、これで見事な尻尾を生やしてたら見応えがある」

「性懲りもなく。以前、猫系獣人(パシモニア)女性に引っ掻かれて顔に傷が付いたの忘れたんですか? お尻ばかり追い掛けるからです」

「そう言われてもさあ、綺麗なヒップライン以上に観賞価値があるものがこの世界にどれだけあるってんだ?」

 堂々と言い張る。

「この前はバストラインだって主張してませんでした?」

「宇宙にそびえる双璧に決まっているだろう」

「概して知りませんでしたよ。勉強になりました。さて、誰の主張から聞くべきなんでしょう」

 雑に流す。


 飲み物を用意してレジット人女性の前に置く。二頭身アバターのティムニをテーブルに立たせて自身も対面に腰掛けた。


「この人、ラギータのこと知ってるのぉ?」

「ああ、そんなワードが出てましたね」


 ルオーはどうやらティムニの意見から聞くべきだと判断した。

次回『レジットの民と(2)』 「それほど険悪だったんですね」

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― 新着の感想 ―
その環境で進化したにしては風土病が致命的過ぎて違和感あったんですけど、なるほどラギータ種なら土着の種族じゃないですもんね。
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