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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
無理が通れば道理が引っ込む
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鐘を鳴らすは(4)

 ミアンドラ・ロワウスは緊張で手足の先が冷たくなるのを感じていた。常識的には撃ってこない局面で、ゼオルダイゼ軍が撃ってきたからである。

 攻撃の意思がないと見せるために防御フィールドさえ用いてなかった。なのでビームは直撃しプラズマノズルを破壊。位置的に、もし数mでもずれていたら機関部にまで損害が生じ、最悪爆沈の憂き目にあっていた可能性もある。


(この軍はまともじゃない。なにをしてくるかわからない)


 彼女が頼ったルオーの判断が間違っていたのではない。一般論で考えても最良の選択を示してきた。眠そうな青年は自身が最も危険な位置にいる作戦を平気で実行までしてくれたのである。ただ、ゼオルダイゼは彼らの常識を一足で飛び越していった。


「お父様……」

「安心なさい、ミア。まだだ。全ての選択肢が失われたわけではない」


 発砲が一兵士の独断専行であっても、両者の話し合いで「事故」にするのは可能である。人類は、戦争という物的人的リソースを割く愚行をそうして避けてきた歴史を持つ。


「ルビアーノ・デルウォーク大統領、先ほどの攻撃は貴殿の指示によるものか?」

「違う」


 父ボードルの交渉相手は一言のもとに否定する。彼女は安堵の吐息をついた。これで両者の認識のすり合わせに話を持っていくことができる。


「だが、我が兵士の勇気によるものである」

 しかし、甘かったと知る。

「彼は愛する者のいる首都ランワサが他国の戦闘艦に脅かされている事実を許せず勇気のトリガーを引いたのだ。これはゲムデクスの暴挙が引き起こした事態である」

「その発言は(しょう)……、いや本気だろうか?」

「全ては貴国の責任。我が国が今後懸念される軍事的不均衡を回避するためにした提案をガンゴスリは一顧だにせず拒んだ。これは憂慮すべき事象である」

 自らの責任を認めずガンゴスリになすりつけようとする。

「あまりに一方的だ。そんな主張は認められない」

「貴殿が認めずとも真実はそうなのだ。技術独占が乱を招く事実は星間管理局の政策が証明している。技術均衡化が最悪の事態を抑止する。そうして秩序は守られてきた。それを破ったのはガンゴスリである」

「詭弁でしかない。考えを改めるべきは貴国である」


 詭弁を弄するとはまさにこういうことか。ミアンドラにもそう思える論調をくり出してくる。再び緊張が走る。


「貴国が乱を望むのであれば我が国も応ずる準備がある」

 聞く耳持たずに続けてくる。

「こうは考えられんか? もし、ガンゴスリが宣戦するつもりであれば、我がほうは軍の要たる貴殿をここで帰すのは悪手である。ここでの好手はゲムデクス撃沈となる。ならば貴殿が投降を宣言するのが最も犠牲者の少ない選択になるがどうする?」

「なんという傲慢か。貴殿のそれは敵しか生まんぞ?」

「結構。最終的に勝利するのは力である。力ある者の存在こそが秩序を生み出すのである。平和とはそうして編むものだ」


 ルビアーノの詭弁は止まらない。彼は強弁することでのし上がってきた男なのだろう。そう思わせるくらいに流暢に自説を並べてきた。


「なんと稚拙な。これが一国の代表する者の言葉か」

 ボードルはマイクをミュートにしてこぼす。

「お父様、これでは乗員が戦うまでもなく戦闘艦の中で死んでしまう未来しかないと思います。彼らの命を無為に費やすくらいであれば大人しく拿捕を受け入れるべきかも。……ごめんなさい、わたし、怖いの」


 認めるしかない。今の思考も自身が生き長らえたい一心から出た言葉だ。ミアンドラは自分までもが詭弁を駆使していると猛省した。


「待ちなさい。今、妙手がないか考える」

「ごめんなさい」

「閣下?」

 呼び掛けてくる声に希望の光を見る。

「僕に考えがあるので任せていただけます?」

「本当かね、ルオー君」

「少々強引な方法になるので驚かないでくださいね?」

「君が編み出す策はいつも奇抜で私を驚かせるが」

「今回はとびっきりかもしれません。すみません」


(ああ、わたしの最高のナイト。どうか、この事態を……)


 クアン・ザが背中のビームランチャーを取り出して両手で構える。砲身が伸長して、全高の三分の二以上になろうかという長距離砲(ロングバレル)に変わった。


『スクイーズブレイザー、チャージアップ』

「出力30……、いや20%にセット」

『出力を20%に設定しました』

 機内でシステムとの会話が聞こえてくる。


 ルオーが無造作に放った一射にミアンドラは祈りを捧げた。


   ◇      ◇      ◇


 ルビアーノ大統領は驚愕する。戦闘艦側は降伏するか、玉砕を選んで攻撃に打って出るかどちらかしかないと思っていた。

 ところが、狙われたのは首都ランワサのほうである。無謀とも思える試みに彼は表情を一変させて哄笑した。


「脅しにもならんわ、愚か者が。なんの意味が……」


 首都は当然強力な防御フィールドを張っている。しかし、落ちてきた極端に細く絞られたビームはフィールド面で紫色の光輪を形作ると突き抜けてきた。郊外の施設を直撃する。


「なに!?」


 防御フィールドが明滅したかと思うと薄れて消えていく。彼のいる場所も丸裸にされている。フィールド発生機の施設の一基が破壊されたのだ。


「どうなさいます?」


 ルビアーノに向けて次に降ってきたのは言葉だった。

次回『鐘を鳴らすは(5)』 「身から出た錆と思ってあきらめてもらえます?」

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