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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
無理が通れば道理が引っ込む
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思わぬ場所で(3)

 遠征行動訓練といっても模擬戦などの演習を伴う実戦的なものではなかったという。艦隊運用を中心とし、たまにスクランブル発進訓練などを行うていどの、いわば兵士に慣れさせるための行事であった。


「訓練も半ばを過ぎた頃、ある一報が入ったのだ」

 ボードル氏が説明してくれる。

「ゼオルダイゼに派遣している大使と警護官が帰還できなくなっていると」


 曰く、ゼオルダイゼとは以前より国交があったという。隣接宙区であるうえに、互いに代表する軍事大国同士。なんらかの手違いで偶発的問題が発生すれば大規模な戦争に発展しかねない。それを鑑みての大使の派遣である。


「わからない話ではありません。今どき、わざわざ大使を任命して配置するなど大時代的なと思ってしまいます」

 通信網の発達は互いのコミュニケーションを容易にしている。

「その大使が帰国できないとなると尋常ではありませんね?」

「以前よりゼオルダイゼからは話があったと聞いている。外務が管轄なので私も経緯はよく知らんのだが、要はレジット製薬のウイルス対策薬の割当を増やしてほしいとの要請だった」

「ああ、閉鎖空間となる戦闘艦でウイルス性の疾患が蔓延などすれば洒落になりませんから」

 軍事に通じるほど気遣う点だ。

「でも、昔から警戒している部分だもの。各国ともに、しっかりと対策しているはずかしら」

「常識ですよね、ゼフィさん? 今さらな気がするんですが」

「それが、キリク氏が提供してくれたとある対策薬がすさまじい効果を秘めていると発覚してね」


 一般的な抗生薬剤の比でないらしい。薬剤そのものは数種類にも及ぶ構成になっていて、その小さな粒を症状に応じて合わせて内服することで絶大な効果を発揮するという。患者の症状を自動診断するシステムと組み合わせるとウイルス対策にほぼ無敵状態のようだ。


お父さん(オンマ)、やり過ぎぃ?」

「そんなことないの。素晴らしい貢献をしてくださったわ」

 ミアンドラがフォローする。

「でもぉ、それってレジットだと珍しくもなくてぇ」

「うう、それなのよね。隠し立てすることなく提供してくださったから情報ダダもれ状態で、すぐに周辺に拡散してしまって。それをゼオルダイゼが察知して要求してきたって話」

「でも、システムとの組み合わせ含め、生産には手間が掛かりそうですね?」

 父娘して苦い顔をしている。

「キリク氏も大量生産できるほど設備がまだ整ってないっておっしゃってる」

「オンマ、間抜けぇ?」

「ノーコメントで!」

 ミアンドラが慌てて被せた。


 将来性含め、半ば投資として受け入れたレジット移民が、いきなり最大級の貢献を示してくれたのが原因である。それも致し方ない。彼らはまだ星間銀河圏の常識に通じていない部分も多く、なにを求められているのか理解に乏しい向きがある。


「お喜びいただけているのは理解しました。ですが、ガンゴスリとすれば遠方の国家の要求など突っぱねてしまえばいいんではないです?」

 真っ当な疑問をぶつける。

「もちろんそうした。きちんと理由も説明してな。ところが、ゼオルダイゼの大使は納得せず、国交を重視するなら要求に応えるべきと主張したようだ」

「ああ、あの国らしい……」

「身勝手かしら」

 せっかく言葉を濁したのにゼフィーリアは言ってしまう。

「オンマ、困ったぁ?」

「いや、キリク氏には感謝しかない。彼を擁護できなかった外務の責任である。本来なら国家機密レベルの情報管理が必要なところ。漏洩した外務官に懲戒処分を下してある」

「嘘でもいいから当面は誤魔化すべきでしたね」


 どうやらゼオルダイゼ大使館はほぼ諜報機関と化していた。それも外務は把握していたものの、さほど危険視していなかったという。結果、出処を確定されてしまう。


「次の主張は、レジット製薬の支店をゼオルダイゼにも設け、ウイルス薬に詳しい当該移民を派遣しろと言ってきた」

 このあたりになるとボードル氏も不機嫌を隠そうともしない。

「移民なのだから半分寄越せといっているようなものだ。事ここに至り政府も黙ってはいられない。レジット人(レジトリアン)保護のために強硬に拒否の言葉を突き付けた」

「少し腰が重かったでしょうか」

「すまん。すると、先方は暴挙に出た。なんと、一時的に我が国の大使が軟禁されたというのだ」

 外交としては愚策もいいところである。

「人質まで取るとは」

「さすがに星間管理局の目が怖かったか一日とせず軟禁は解かれたのだが、今度は本国から帰還命令を出しても出国許可が降りないという。大使は当該国に足留めされている」

「そんなことが」


 彼が様子を窺うとゼフィーリアは首を振ってみせた。おそらく情報部は把握しているのだろうが、彼女までは伝わっていないらしい。今回の邂逅も偶然でしかない。


「事態が悪化したのが訓練の真っ最中だったわけですね?」

 だんだん読めてきた。

「うむ。私に当該国に出向いて大使含む邦人の保護が命じられた。本来であれば外務の者が出向くのが順当であるが事情が事情。二次被害防止のために武装の必要がある。ちょうど本国を離れていた私が当たるのが安全だと政府が決定した」

「もちろん、氏の意見も入ってるんですよね?」

「だから、他の艦は帰している」

「どうしてそのときミアンドラ様もお帰しにならなかったんです?」


 気まずい面持ちのボードル氏にルオーはため息をついた。

次回『思わぬ場所で(4)』 「かなりの恨みを買っている自信があるのです」

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