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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
無理が通れば道理が引っ込む
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思わぬ場所で(2)

 惑星ニコルララでのバカンスを終えたライジングサンが艇を時空間復帰(タッチダウン)させたのは、とある中継点だった。近場で食材の補給をしてから、反対側のタイタフラ宙区にでも仕事を探しに行くつもりだったのである。


(端っこのほうとはいえ、ゼオルダイゼのあるオイナッセン宙区には長居したくない感じだもんねぇ)

 ニコルララで遊ぶためだけに立ち寄った場所。


 ゼオルダイゼ同盟に遺恨を刻むような仕事ばかりをしているのは、ルオーにしてみれば偶然と主張したい。同盟内の国家を苦しめるようなことしかしていないゼオルダイゼが悪い。

 しかし相手にしてみれば、ことごとく邪魔ばかりしてくると映るだろう。ライジングサンがちっぽけな存在でも、メーザード、ホーコラと続いて同盟国を失ったのは痛手なはずだ。


(だいたいさ、なんであんなに強引に経済強化を焦るんだろう。戦争でもするつもりなのかなぁ?)


 同盟と銘打って他国を縛るような政策を執っているのには理由がありそうである。だが、深入りすると面倒にしかならない気もした。頭からすぐに追い払う。


『時空界面安定度74%、識別信号(シグナル)発信したー』

 ティムニアバターが手を振りまわして伝える。

時空界面突入(ブレイクイン)可能まで安定したらすぐに跳びましょう」

『りょーかーい。でも、着信しちゃったー』

「は、着信? 救難信号とかです?」


 このあたりに知り合いはいないはずだ。同業者が情報交換でも申し入れに来たのだろうかと思う。


「船影、いえ、これは艦影でしょうか。大きいです」

 サイズと重力場レーダーの山の大きさから判断する。

『戦闘艦サイズぅー。発信者確認、戦闘艦『ゲムデクス』だってー』

「抗議です? 時空界面突入(ブレイクイン)寸前で僕たちが近傍に時空間復帰(タッチダウン)しちゃったとか? そんなの不可抗力ですよ」

「まさか、こんな過疎ってる中継点でエンカウントなんて予想してないものね」

 ゼフィーリアの意見にパトリックも頷いている。

『相手はボードル・ロワウス氏ぃー』

「どうしてこんなとこでその名前が出てくるんです? ガンゴスリはパルミット宙区ですよ」

『知らないー』


 確かに表示は『ガンゴスリ所属戦闘艦ゲムデクス』となっている。いないはずの知人からの連絡であった。


「受けます」

 嫌な予感はするが逃げるわけにもいかない。

「奇遇だね、ライジングサンの諸君」

「ご無沙汰しております、ボードル閣下」

「できれば合流……」

 そこまで言ったところで画角に割り込む影。

「ちょうどよかった。すぐに来て、ルオー」

「ミアンドラ様まで。なにをなさってるんです、こんな辺境で」

「あなたの助けが必要なの。依頼(オーダー)よ、緊急オーダー」


 嫌な予感というのは覿面に当たるものである。後ろを振り返るとパトリックとゼフィーリアがぴったり同じタイミングで肩をすくめている。クーファはミアンドラの映るパネルに向かって飛び跳ねていた。


「伺います。少々お時間をください」

「うむ、待っている」


 とてもじゃないが断れない。なにせ、ガンゴスリにはレジット人(レジトリアン)の件で借りがある。しばらくは他の依頼(オーダー)遂行中でもないかぎり呼ばれれば応えるしかない。


「ミア、いるぅ?」

 接近する大型戦闘艦を見ながらクーファが言う。

「います。でも、遊びに誘うような雰囲気ではありませんでした」

「いい。あの大っきな船の探検するぅ」

「許可もらってくださいね」


 ゲムデクスからの指示に従い、艦尾上方のハッチに直結(ダイレクト)通路(パスウェイ)を接続した。許可を得て艦内に立ち入ると、士官らしき人物が堅苦しい敬礼をしながら案内を申し出る。


(まるで重要人物(VIP)を案内するような対応はやめてほしいなぁ)


 艦に配属されているのはロワウス家の派閥の軍人で固められていてもおかしくはない。なにせ、今やガンゴスリ軍閥では筆頭の存在になっている。ボードル氏が国軍長官というコントロールハブの役職にも就いている。


「ミアぁ」

「クゥ!」

 艦橋(ブリッジ)で再会した二人は飛び上がってハグしている。

「お世話になっております。閣下らしくないんじゃありません?」

「そう言うな。本当に緊急事態なのだ」

「娘さんを戦闘艦に乗り込ませることがです?」


 指摘せざるを得ない。どこをどうひねっても危険な場所であることに変わりはない。そこに、まだ軍学校を卒業もしていない十四歳の娘を同乗させるのはいただけないと思った。


「出港時の予定にない行動なのだ。許してくれんか?」

 作戦行動中だという。

「隣とはいえ、別の宙区で行動中とは如何にも剣呑に過ぎません?」

「私もそう思う。なので、あまり目立たない中継点を利用していたのにな、そこで君と出会うとは。こんな僥倖はまたとあるまい」

「で、僕はなにをすれば?」


 訊きたくもなる。大型戦闘艦のゲムデクスならば四十機はアームドスキンを搭載しているだろう。しかも、軍事強国ガンゴスリの精鋭が乗っているに違いない。たった三機しか所有していない零細民間軍事会社(PMSC)の出る幕などあるわけがないと普通は考える。


「折しも、艦隊遠征行動訓練の日程だった。将来を鑑み、軍学校の指揮官候補成績優秀者を各艦に同乗させ、現場見学をさせていた」

「なるほど。それで閣下の乗艦には娘さんのミアンドラ様が配置されていたと」

「そのくらいの忖度は見逃してやってくれ」


 部下を庇うボードル氏。彼が差配したのではないのは明白である。


 ルオーの前にいるのは内心の喜びを表すわけにはいかない父親の像だった。

次回『思わぬ場所で(3)』 「ああ、あの国らしい……」

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更新有り難うございます。 同乗者はエリートボンボンとか?
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