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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
空き樽は音が高い
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清らかさ知る(5)

 不利と見るや、敵機の動きが変化した。ゾル・カーン二機を残してクアン・ザを狙いに動いていた集団が二手に分かれる。戻ってきた三分の二のおよそ十五機がゼフィーリアのヘヴィーファングのほうへ。


「あんま汚いことするとオレちゃん、怒っちゃうよ」

「貴様らの肝を確実に仕留めるまで」


 ヘヴィーファングと対していたゾル・カーンが残り三分の一とルオーのほうに向かう。それはパトリックが避けたかった展開であった。


(しまったか。ステーションを背負ってるルオーは抜かせられないから動けない)

 そのために必要以上に距離を取っている。

(そのままじゃ集団を壊滅させられると感じての苦肉の策なんだろうが、悪いほうに流れちまったな。かといってゼフィちゃんを置いてくわけにもいかないし)


「それでいいのかい? ツイングレイブは一対多数のほうが効果的なんだぜ?」

「スナイパーを叩くのが優先である」


 パトリックのカマ掛けは思った効果を得られなかった。


   ◇      ◇      ◇


(来るのかぁ。まあ、崩しきれなかった僕が悪い)

 敵方の動きを見てルオーは省みる。


 強力な敵であるゾル・カーンと撃ちもらしの十機が接近中。こちらは一人でステーション防衛に当たっていた。普通に考えれば厳しすぎる局面である。


「待ってろ、ルオー。今援護に行く」

 ザロが気づいて焦っている。

「来ないでください。厄介な敵です」

「だからってお前一人で!」

「ライジングサンはザロさんの明日を暗闇に閉ざしたりしない」


 フリー状態のスナイプフランカーを連射する。リニアキャッチが反動を吸収してくれるので正確な狙撃を続けていられる。否が応にも敵集団の目は彼一人に向いていた。


(それが一番の過ちだね。僕が一人だなんて誰が言ったのかなぁ)


 ルオーはくすりと笑った。


   ◇      ◇      ◇


「意気がるな。スナイパーを墜とされれば、わずか三機での抵抗などものの数ではない」

「く、逃げろ!」


 パトリックはツイングレイブを駆使して連撃を叩き込むも回避される。動きからして時間稼ぎをしている。クアン・ザの撃墜の衝撃で弱体化する、あるいは撤収すると読んでいるのだろう。


「なんつってー」

「む?」


 畳み掛けていた手を止めて間合いを外すと、ゾル・カーンのパイロットが見上げる方向へとベルトルデを持っていく。嫌でも視界に入る位置だ。


「もーいーかぃ?」

「いいですよ」


 ベルトルデへのカスタマイズでクアン・ザとのリンク強度は異常に上がっている。ターナ(ミスト)が戦闘密度に散布されていても不都合なく繋がる。今のもクーファと相方の声だ。


「発射ぁ」

「なんと!」


 敵からすれば、まったく想定していなかった位置からの狙撃。しかも、四門のスナイプキャノンの同時攻撃である。予想だにしていなかったルオーへの分隊は真横からビームで殴りつけられる。


「あり得ぬ……」


 もちろん、戦闘艇ライジングサンからの砲撃。それも、ディープリンクで照準はルオーが行い、攻撃命令だけ猫耳娘が担当するという合体技。

 スナイピングショットを警戒してリフレクタをクアン・ザのほうに向けていた集団は防御が間に合わず直撃をもらう。慌ててリフレクタを振り向けるとルオーからの狙撃を喰らい爆散するという始末だ。一瞬にして十機が失われた。


(助っ人だけ生き残ったか。侮れない)


 意図して見せつけたというのに動揺は軽微だった。ベルトルデの突進をいなして見せ、反撃まで加えてくる。


(ゼフィちゃんは? OKか。これなら負けはない)


 パトリックは目前の厄介な敵に集中した。


   ◇      ◇      ◇


「見えてるか、この無法が」

 ザロは予め言われていたとおりにライブ配信を始めている。

「共生党の議員たちは自分の利権を守るために俺を消そうと攻撃までしてきた。マスメディアは報道してないだろうが、占拠された衛星軌道プラント奪還の強制執行なんて方便を使ってな」


 彼のカラマイダからのガンカメラ映像がそのままローカルネットに流されていた。妨害されない回線はライジングサンが構築してくれている。


「戦ってるのは、俺に協力してくれている民間軍事会社(PMSC)のパイロットたちだ。たった三機だけなのに十倍どころじゃない数の敵相手に頑張ってくれてる」

 自身も飛び出したい切迫感が声に表れてしまっている。

「アームドスキンに乗ってるのに、あそこに行って仲間を助けられない自分が歯痒くてどうしようもない。戦えない自分が情けない。それ以上に、我欲で他者の命を踏みにじる与党議員どもが許せない。こんな横暴を許していいのか? みんなはどう思う? 俺に……、現状を変える力をくれ……」


 最後のほうは声が震えてしまう。情けなさと怒りと危機感が()()ぜになって彼の心を蝕む。握った拳で自らを打ち付けたい。ライジングサンメンバーと痛みを共有したい。


「こんなホーコラでいいのか? ホーコラ国民だって胸を張って言える? 絶対に否だ! 俺はみんなが自信を持って誇れる国を作ってみせる! みんなはどうなんだ? 自分の持つ本来の権利をどう使う? その勇気を俺に見せてくれ!」


 怖ろしいだろう。誰もが政府のバックには盟主星ゼオルダイゼの影がチラついているのは気づいている。反抗すれば、自国の安全保障が崩壊するであろうことも理解している。あの軍事大国が許してくれないことも。


 それでも選挙結果で国民に勇気を示してほしいザロであった。

次回『清らかさ知る(6)』 「あきらめたか。墜ちやがれ、ぎゃはは!」

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