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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
空き樽は音が高い
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清らかさ知る(4)

「パット、ちょっと」

「おいでおいで。すぐにわかるさ」


 パトリックはベルトルデを襲撃部隊の下側に持っていく。戸惑いながらもゼフィーリアはヘヴィーファングでついてきた。


 衛星軌道くらいでもやはり高度があるほうが有利だ。相手側から接近するときは重力のサポートが入って加速がいい。背景が惑星になるので視認もいい。狙いやすいターゲットになる。

 しかし、あえて彼は低い側に定位する。惑星を背にしていれば、そこから上がってきたパイロットは撃ちにくいというのもある。地上に向けてのビームを無意識に避けたくなるものなのだ。


「こっちが正解なのさ」


 角度が浅いうちにと、弾幕をやめた敵機がしっかりと狙った本命を差し込んでくる。意識は完全にこっち向きな状態で、だ。


「どうなると思う?」


 来るとわかっているパトリックの回避は容易い。その位置でなら反撃の必要もない。間髪入れず空間を貫いた高収束ビーム(スクイーズショット)がその敵を一撃のもとに屠る。

 脇腹に喰らった一機は間もなく爆散。肩からコクピットを撃ち抜かれた機体はしばらく浮遊していたかと思うと落下していく。制御の切れた反重力端子(グラビノッツ)は降下速度を抑えてくれるが、結局は大地に叩きつけられて終わりだ。


「ほとんど反射的に狙点に一射入れてるわね」

「あいつの癖みたいなもんさ。撃った順に撃ち落としてく」


 ゆえに射線を邪魔しない低い位置に遷移するのが正解なのだ。撃たせれば撃たせるほど敵は減っていく。特に、遮蔽物のない対多数戦ではよく使う手段であった。


「フォローの域、超えてるかしら」

「まあな。あいつに撃墜数献上するようなもんだ。気づくまではさ」


 クアン・ザの方向を把握した部隊は当然力場盾(リフレクタ)を掲げる。民間軍事会社(PMSC)の混成部隊のような、統率のない相手ほど通り一辺倒の反応をする。彼の位置から粗い照準のビームをばら撒いただけで一部は直撃を奪えるのだ。


「乱暴だけど効率的ね」

「度胸と腕があればな。あいつとオレのコンビネーションだからできる戦法」


 しかし、パトリックが思ったほど崩せていない。撃墜は稼げているのに乱れる気配というのが感じられなかった。この時点で気を抜かなかったのは勘が働いたからである。


洒落臭(しゃらくせ)えぞ、ぎゃはは!」

 ゾル・カーンという名のアームドスキンが飛び出してくる。

「品のないパイロット!」

「女か、ぎゃはは」

「だったら、なに?」

「こうするってーの、ぎゃはは」

 体当たりをしてくる。

「一発喰らうとビビるんだぜ、ぎゃはは」

「品もなければ知恵もないって」


 ひと当てされるも、ヘヴィーファングは持ち前のパワーと耐久力で受け止めた。フォローに入りたくとも、もう一機のゾル・カーンが迫ってくる。


「多少は使える」

「放言を叩くな」


 十分なパワーを感じさせるブレードの一閃を回避しつつ、リフレクタの隙間に砲口を忍び込ませる。ところが相手は防ぎもせず、逆にビームランチャーを向けてきた。

 避けてくれれば次の流れも作れたのだが、攻撃は最大の防御とばかりにカウンターを仕掛けられれば難しい。無理をする場面ではない。


「この空気はあんたの所為か」


 正確無比のスナイパーの存在を匂わせておいたので、今回も崩しは簡単なはずであった。しかし、実際にはまだ部隊行動ができているレベル。明らかにゾル・カーンの二機が作用している。


「だったら、あんたら二人が墜ちれば終わりってね」

「やってみせろ」


 パトリックは切り札になる武器を抜く。そのために右手を空けていたといっていい。腰裏から取り出したグリップが伸長してスティック状になる。さらに両端に大振りなブレードを形成した。


「ツイングレイブ、試させてもらっちゃうよーん」

「小賢しい」


 左手のビームランチャーをラッチに戻し両手で構える。長物と見て、突きに変化した敵のブレードを弾き飛ばし、そのままスピンして逆側の刃で脇腹を薙ぐ。残念ながらリフレクタの端を削って紫の火花を散らしたのみ。


「今のを読むかい。やるじゃん」

「嫌な気配をさせる。しかし、使い慣れてないと見た」


 図星を突かれる。ただし不慣れでも、その汎用性はブレードの比ではない。彼がわざわざティムニに頼み込んで作ってもらった武器だ。ベルトルデのパワーを最大限に利用できる。


「こりゃ堪らん、ぎゃはは」

「いやらしいこと」


 ゼフィーリアにも同じ武器を渡してある。彼女は器用に回転させてゾル・カーンを近寄せなかった。一閃ずつの破壊力が半端ではない。


「それはいい。だが、スパイパーを裸にして如何にする?」

「ご案じめさるな。あいつは平気でござる」

「道化が」


 茶化すと語気が荒くなる。しかし、そんな余裕はすぐに失われる。指示されていたか、集団は相方目指して加速する気配。ところが、リフレクタの端を叩かれて揺らぐとスナイピングビームが直撃して爆散した。狙点を固めたルオーに守りなど不要だ。


「なにを飼っている?」

「本物中の本物さ」


 遠慮することなくツイングレイブを軸に回転して次々と斬り込む。退き気味になるとみるや左手にビームランチャーを握らせて一射交える。即座に戻して、再び攻撃へ。


 パトリックは自らの器用さを存分に発揮できる武器を手に入れた。

次回『清らかさ知る(5)』 「来ないでください。厄介な敵です」

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