照らす朝日の(6)
ルオーはもう心配いらないと思う。ザロは自分の思いを織り込んでアレンジした演説をできるまでに成長した。あとは慣れるだけ。
「動きがあります?」
ライジングサンメンバーだけに聞こえるようティムニに訊く。
『軍はもちろん警察も動く気配なしー。そんなに馬鹿じゃないねー』
「動かしてくれるくらい愚かだったら管理局警備部を動員して一気に方を付けられて楽だったかしら」
『でも、なにもないわけじゃなくてー。民間軍事会社かなー。企業からの依頼で動くみたいー』
もちろん、相手方が座視してくれるとは思っていない。
「企業側から攻めますか。だったら、色々と理由が付けられますもんね」
「ああ、軌道会の勢力が増して惑星軌道プラントを占拠してしまってるから取り返すとかな」
「それなら民間人が相手でも、正当な企業活動の一環になるから管理局は関与できないわ」
人権保護条項ぎりぎりの案件ではあるものの、軌道会側も正当に場所を使っているわけではないので一概に判断できない。どっちもどっちという裁定になろう。
「先手を打つのは厳しいですね。向こうがどれくらいの規模の軍事行動をしてくるか読めません」
ルオーは額を指で押さえる。
「ほんと、民間軍事会社ってのはピンキリで、依頼を拡大解釈して無茶を平気でするような会社もありますので」
「撃ちたいばっかりって輩が混じってるからタチが悪い」
「だからって初手を譲ると軌道会の連中、腰が引けるかもよ?」
被害が出ると怯えに繋がる。
「逃げる準備させとくぅ?」
「クゥの意見が順当でしょう。とはいえ、勝手させるのは業腹です」
「一発もらったら殴り返しとくくらいじゃないとな。示しがつかん」
当面は警戒するように伝えておく。軍事的威圧行動の可能性があるので、いざとなれば脱出する準備がないといけない。
「脅してくるって?」
ザロが眉をひそめている。
「そういう手合いを使うみたいです」
「まさか、攻撃までしないだろ?」
「いえ、否定できません。抵抗するとなにをしてくるか」
微妙なラインだ。
「警察に相談してみる?」
「無理だな、ジェーン。例の件の感触だと警察も政府の犬だ」
「一般的に考えても合法か否かなんです。軌道会は業務外活動に場所を使っているわけなので違法占拠といえなくもありません。企業側も違法占拠に対する強制執行という建前を主張してくるでしょう」
どちらも違法スレスレなら警察は片方を取り締まったりしない。武器を収めた状態での和解を求めてくるだけの場合が多い。
「注意喚起をお願いします」
「わかった」
そんな会話があった翌日に事件の一報が入ってくる。強制執行を宣言した民間軍事会社に対し、軌道会メンバーが製品のアームドスキンを持ち出して抵抗。
結果、重工業軌道プラント一基の気密が敗れて損壊。軌道会側に死亡者二名が出る惨事となった。警察は、プラント損壊に関しては偶発的な事故と判断し、逮捕者を出さなかった。
青ざめたり興奮して真っ赤になったりするザロをルオーは宥めて留めた。
◇ ◇ ◇
低軌道に遷移したアームドスキンの一団は徐々に移動を始める。攻撃目標はまだ遠い。一気に接近、襲撃をする作戦なのでそれまでは隠密行動をする。
「ザロ・バロウズって馬鹿に事故死してもらえばいいんだろ?」
パイロット同士はレーザー通信で交信する。
「そうだ。偉い先生方に逆らうからこんな羽目になる。見せしめだとさ。怖い怖い」
「二日前のあれで前例作ったから今回も事故扱いで終わる。プラント内に建造中のアームドスキンがあるが、パイロットとしちゃ素人連中ばかりだ。ろくな抵抗もない」
「楽な仕事だよな」
その高さの衛星軌道にはなにも飛んでいない。観測衛星は下の軌道、農業を始め、各種プラントは上の軌道という高度。
「ターナ霧戦闘濃度。あっちからはこっちが見えてない」
襲撃は予想していても、どこから来るかは察知できない状況。
「地上の通信も衛星やプラント同士の通信も電離層の反射で補えてる。異常は検知できないはずだ。若干の障害が出てても、恒星活動での障害と区別できないってな」
「急に襲われて慌てて逃げ出そうとしたら、動かしたアームドスキンが外壁に衝突して損壊だってさ。急に空気が失われてザロの野郎は事故死なわけだ。実際はビームに焼かれたりしててもな」
「警察が証明してくれる」
民間軍事会社のパイロットたちは爆笑していた。そこへ一発のビームが飛来して直撃する。機体を舐めたビームが装甲を剥ぎ取り、内部機構も破壊して拡散。剥き身のようになったアームドスキンは最終的に爆散して消える。
「なんだ! どこから撃ってきた?」
パニックに陥る。
「どこにもいないって。電波レーダーは利かないが定期的にレーザースキャン打って確認してたんだ」
「船はどうした? 重力場レーダーを監視してたんじゃないのか? 手抜きしてんじゃないぜ!」
「重力場レーダーにも感がないって言ってる……」
敵が感知できない。それどころか、どこから撃ってきたのかさえわからない状態。パイロットたちが混乱するには十分な条件が揃っている。
「じょ、冗談はよしてくれよ。この軌道には怪物が巣食ってやがんのか?」
「そんな馬鹿な。でも、さっきのは……」
二発目が直撃するに至って、彼らは右往左往する羽目になった。
次回『清らかさ知る(1)』 「本人を前にそんな呼び方やめてもらえません?」