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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
空き樽は音が高い
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照らす朝日の(5)

「なぜ、外資巨大企業の専横が常態化してしまったのか? これは現在の政治のシステムに起因するんだ」


 自身が議員になったらどうやって国民の窮状を変えるのかと訴えていたザロも、内容を方法論へとシフトしていく。実効性のある対策も考えているのだと示す狙いがある。


「これまでの議員がどうしてこれほどまでに外資企業を優先したか? それは議員活動をするうえで必要な資金を献金してくれたからだ」

 具体的な構造を説く。

「便宜を図るから対価を得られる。これは当然の動きだと思う。人間なんだから完璧に利他的でなんていられない。ほんとは国民の代表として、常に利他的に考えていないといけないんだけどな。実際、なかなかそうもいかないのは理解できる」


 根源的な心の働きだからやむを得ないと思う。誰だってそうだと認めてもらわねば話が進まない。


「じゃあ、献金を一切やめてしまえばいいのか。企業からも団体からも個人からも、どんな類の献金も禁止するのが正しいのか。それも難しいと思うんだ」

 ここで内情にも触れなくてはならないから。

「選挙活動してみてわかった。政治をやろうとしたらどうしてもお金が掛かるんだ。今だって、配信プラットフォームを使っているから使用料が掛かってる。それは小さなお金だとしても手伝ってくれてる人がいる。とりあえず無償で動いてくれる仲間を集めたけど、将来的には彼らが生活できる対価を払わないといけない。そのお金はどこから来るのか? ここに献金が関わってくる」


 申し訳ない気持ちでいっぱいになるときがある。ジェレーネは善意で大変な作業をしてもらっているし、軌道会の仲間も今は無償で動いてくれている。


「大きなことをやろうとすれば、それだけの人数に助けてもらわないとできない。俺なんて政治は素人だから余計に大人数が必要になってくる。彼らに対価を払わないでいいのか? そんなことは絶対にない」

 どうあれ必要なのだ。

「それに、ほんとだったら俺だって支持してくれるみんなの意見を聞くために政治集会とかしたい。配信してメッセージボードに意見をもらってるんだから十分じゃないかと思うだろう? でも、直接メッセージをくれる人って一部でしかないんだ。俺はもっと支持してくれる人の顔を見て政治がしたい。訴えを聞いて、頷いてくれてるのか、それとも落胆しているのか、直接目にしながら考えをまとめたい。今はそれができないでいるのが悔しい。なにをするにもお金がいるんだ」


 今現在実感している気持ちを伝える。日々、もどかしく感じている思いを訴える。


「じゃあ、献金なしにしてお金の出処をどうすればいいのかって話になる」

 降って湧いてはこない。

「公金に頼ればいいのか。それは違う。そのまま国民の税負担になってしまうからだ。国民をもっと苦しめてまでやることじゃない」


 矛盾が生じる。解消しないといけない、どうしようもない矛盾が。


「だから、献金の全面的な禁止を俺は公約にしない。むしろ、応援したいって言ってくれる人からなら、生活に関わらないくらいの応援を形にして受け取りたいと思う。それで仲間が生活できるのなら」

 人情に関わる部分だ。

「でも、見返りなしで献金してくれって難しいよな。誰だって生活はあるんだ。じゃあ、なにで返すか? 俺はみんなの暮らしが楽になる政策立案で返したいと思う。個別じゃなく、みんなが幸せになる形で返したい。その思いに応援を送りたいという人からなら喜んで受け取る。感謝もする」


 自身の在り方を説いた。そういう政治家でありたいという思いが伝わればいいと思う。


「議員みんながそういう思いで政治をやってくれればホーコラはもっとずっと良くなるはずなんだ。そう信じてる」

 理想論ではあるが。

「現実的じゃないのは俺だってわかる。だから、規制を掛けないと上手くはいかない。献金の規制法を更に厳しくしないといけない。具体的には、前段として完全な透明化だ」


 献金の出納全てを、それこそ1トレド(200円)から公表する。オープンな形で受け取るような規制法の改革を行うとした。


「そうすれば、献金した誰かに偏った便宜を図ったとしたらすぐにバレる。監視する第三者委員会みたいなのを作ってもいいが、それが政府主導であれば信用はしきれないだろう? だから、全面的に公表する。みんなが監視してくれ」

 それが本当の透明化だと思う。

「そして、もし便宜を図っていると感じたら告発してくれればいい。事実なら罰則を設ける。軽いものは議員資格の停止処分から、重くなれば解職プラス公民権の停止期間を設ける想定をしてる。データ化されてない献金が発覚したら重いほうの罰則になるのは言うまでもない。これで簡単には違反できなくなるはずなんだ」


 罰則がなければ形骸化する。将来的にも防ぐには確実な法令化が不可欠だ。


「以上をやれば、ほんとに国民が豊かで幸せに暮らせる社会作りを志す議員だけが残る政治システムになると思う」

 最も注力しなくてはならない仕組み作りになる。

「大変だけどやり遂げたい。今は苦しい皆から献金をもらいたいなんて言わない。ただ、俺を議会に送ってくれ。軌道会の候補者をより多く議会に送ってくれ。そしたら、俺は国民の利益のためだけに働くと誓おう」


 ザロは両手を差し伸べて演説を終えた。

次回『照らす朝日の(6)』 「まさか、攻撃までしないだろ?」

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