照らす朝日の(4)
「では、軌道会の運用はジェーンさんとザロさんでお願いします」
ルオーは告げる。
「え、手貸してくれないのか?」
「ライジングサンとの契約はあなたの選挙活動の支援ですよ。個人ではない団体の部分にはタッチしません」
「そういう話だけど」
心細そうである。
「一つ助言をするならば、目ぼしいメンバーをピックアップして新たに候補者に立てるのがお勧めです。今の勢いなら有権者推薦の確保は難しくないはず。同志を作って徐々に大きな声にしていくと効果は大ですから」
「そっか、ほんとだ」
「でも、誰を選べば?」
ジェレーネも困惑しているが、ご自由にと言うジェスチャーをして席を立つ。そこは二人が選んで決めるべきである。将来的に、ともに進んでいく仲間なのだから。
「加速してしまったかしら」
「思ったより早かったです。当選してからの流れになるかと予想していたんですが、僕が考えるより行動力があった。ザロさんが呼び水になったのでしょう」
彼が席を外した理由を察したゼフィーリアたちが隣に並んで歩く。ライジングサンメンバー四人で船へと移動する。
「僕は幸運ですね。パットも政治がわかるので手間がいりません」
言わなくても先回りしてくれる。
「そうだろ? オレちゃん、優秀なんだぞ」
「だったら、この先、どうなるかもわかりますよね?」
「小細工効かない勢力になってきたからな。本格的に立ちまわりを求められるようになる。体制側は圧力を強めてくるだろ」
正しい分析である。
「そろそろ動いてくれないと困るわね。勢力図が定まってこないと動きにくいかしら」
「そろそろ本業のお仕事しないといけなくなる。忙しくなる前にオレの部屋で休憩しない、ゼフィちゃん?」
「遠慮しとくわ。ヘヴィーファングのご機嫌伺っとかないと」
肩にまわした手をつねられている。その様子を笑いながらクーファが手を繋いできた。知らない人間が訪ねてくるケースが増えてきたので若干の不安を抱えているだろうか。
「耳を変えときますか。元気がなくなってきました」
「そろそろ新たなデザインが必要ぉ」
「付き合いますよ」
自動工作機械に向かうクーファにルオーは連れられていった。
◇ ◇ ◇
「『軌道会』だって?」
新規立ち上げとなった政治団体に驚かされる。
「党としての方針を定めないといけないときが来たようだな」
「党上層部も今頃は協議の場を持とうとしているでしょう」
「敵対は無しだな。有権者に総スカンを食らう。共闘を申し出るか、迎合するか、あるいは取り込むか」
軌道会代表には知った顔がいる。先日に彼、民尊党議員のエルゲン・クルーガーに面会を求めてきた相手の一人である。若い経営者が支援を匂わせてきたが音沙汰なし。結局、自前で支援者を仕立てあげたらしい。しかも、強力だ。
「この勢い、取り込むのが正解だろうが相手は素人だ。下手に出ればなんでも通ると増長してくるな」
政策秘書も頷いている。
「素人集団だけに地力の差というものを理解しないかもしれません」
「不用意に持ち掛けるのは危険か。しかし、無視もできん。今のところ打ち出す政策は国民本位のもの。それだけにウケもいい。欲を言えば、人気ごと政策だけいただくのが好手か」
「ですが、国民も馬鹿ではありません。タダ乗りしたとの悪評にも繋がりかねないかと愚考します」
問題点を挙げてくる。
「加減が難しいか。やはり、政策ごとの連合が順当か?」
「そのあたりが妥当な線かと」
「よし、では、上層部に意見を持っていくぞ」
エルゲンは自らの優位性を疑ってもいなかった。
◇ ◇ ◇
「生意気な! 思い知らせてやらねばならんか!」
イーダ・オルコーザはデスクを拳で叩く。
与党共生党議員も、まさか軌道会の代表ザロ・バロウズが彼を暗殺しようと目論んでいたとは知る由もない。ただ、確立した体制に楔を打とうとしてきた連中に憤慨しているだけである。
「ですが、有権者の人気は絶大です。このままでは今回の選挙結果に大きな影響を及ぼすかと」
秘書は不安そうだ。
「変に知恵を付けおって。有権者など馬鹿の集まりでしかないではないか。そう仕向けてきたはずだ」
「そういうことはあまり大きなお声では……。選挙監視に星間管理局が口出ししてきましたので無茶はできません。なので、事前工作で処理しなくては芳しくない結果を生んでしまいます」
「どうする?」
地上に降りてくれば様々な手段がある。ある夜から行方不明になってもらうこともできなくもない。彼らなら処理も得意なものだ。
しかし、相手は惑星軌道のプラント付近に立てこもって活動している。手出しの非常に難しい場所であった。
「どこのステーションだ? 所有企業はなにをしている」
便宜を図ってやっているのに怠慢であると感じている。
「先生方のご意見をお待ちしているのかと?」
「クビにして干せばいいだけだろうが」
「しかし、彼ら無しでは重工業軌道プラントが機能しないのも事実です。機能停止すれば利益が出なくなるので手をこまねいているのでしょう」
企業家どもの欲惚けがひどい。とにかく自分が儲かればいいとしか考えていない。そう仕向けたのも彼ら政権与党ではあるが。
「事実上、占拠されているようなものなのだから取り返させろ」
「警察や、ましてや軍は動かせません。すでに管理局が事態を察知して注視しているので」
「厄介な。いや、こういうときこそ動く輩がいるではないか」
思いついたイーダはニヤリと笑った。
次回『照らす朝日の(5)』 「じゃあ、献金を一切やめてしまえばいいのか」