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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
空き樽は音が高い
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眩しきは(5)

 ザロは全国規模の演説配信を予定どおり二日後に行う。ジェレーネはその原稿作りに追われることになったが、当面はルオーとゼフィーリアの全面的な協力を得て滞りなく進められた。


「俺が議員になったら、まず抜本的な企業監視体制の改革を行う」

 強い口調で打ち出す。

「今は骨抜きになっている産業省に仕事をしてもらうつもりだ。具体的には財務状況、資金動向とか。国内の多くを占める外資企業の国外送金状況なんかも徹底的に監査してもらわないと駄目だ。まずは企業の資金の流れを透明化する」


 長年の企業保護政策によって労働環境無視の野放図な状態になった経営を改めさせる。実態把握から始めないといけない。


「それでどうなるかっていうと、実際はとんでもなく儲かってるのに労働者に還元しない企業には勧告をさせるんだ」

 経営健全化策である。

「ちゃんとしろって言う。人生において負担になりすぎない労働時間。労働に見合ったギャランティ。そんな当たり前のものが得られるよう改革する。できない企業なんか、いくら儲かってても国民には害でしかない。考えを改めてもらわなきゃならない」


 かなり暴論に近いが、まずはインパクトが大事だとザロには説明した。彼は乗り気だが現実には干渉しにくい部分になる。真の企業淘汰は別のところで行う。


「併せて税務監査も厳しくやらせてもらう」

 こちらが本命。

「今はあり得ないくらい優遇されてる企業関連の税金。法人税はもちろん、固定資産税とは別に内部資産税も考えてる。労働者から搾取して余分に貯め込むなら税金をもらうってやつだ。それと惑星軌道資産税なんかも必要だな」


 そういった施策のために前述の企業監査が必要なのだ。国際標準ともいえる制度を導入する。


「そんなんじゃホーコラにいられないよって企業も出てくると思う。当たり前だ。今まで楽々と経営をしてきたんだからな」

 実施すればクレームの嵐だろう。

「出ていくよっていうなら出ていってもらって構わないって思ってる。その代わり、国内企業としての再建するなら助成する制度も必要だろう。みんなの職場も守らないといけないしな。とにかく健全な企業だけが生き残れるように働き掛けたい」


 当然なのに当然じゃなかった施策を次々と打ち出すザロの演説に、視聴者数が爆増してくる。かなりの興味を惹けていると確信できた。


「ほんとは今すぐでもみんなの前でこの考えを伝えたい。どれだけ俺が本気なのか生に伝わるからな」

 ザロの本意なので苦しい表情が臨場感を増す。

「でも、無理なんだ。だって、俺もほんの少し前までみんなと同じただの労働者だった。だから全然お金がない。みんなが集まれる会場を借りる金も、そこで声を伝える設備を準備する金もまったくない。だから配信で失礼する。許してくれないか?」


 全国規模の配信だ。軌道重工業プラント関係であればザロの顔も多少は売れていたが、無関係だった農業プラントや他の地上産業従事者には彼の出自など知れないのだ。周知して損はない点である。


「他にも色々考えてるが、まずやらないといけないって思ってることを話させてもらった」

 終わりが近づき、少し安堵の色が窺える。

「なんだかんだやるって言ったが、実際にはまだなんにもできない。なぜなら、俺はまだ議員じゃないからだ。お願いする。みんなの応援で俺を議員にしてくれ。そうしたら、俺はみんなのために身を粉にして働ける。甲斐がなくて苦しくてどうしようもなかった毎日を二度と味わいたくないし、みんなにも味わわせたくないんだ」


 メッセージボードは反響で埋め尽くされる。ほとんどが歓迎と激励の言葉だ。


(一部、実現不可能な甘言だって意見もあるけど、そういう人たちにも意識改革を促すような配信を続けないといけないのね)


 議員になりたくて、耳触りの良い言葉を連ねているだけだと意見される。現実に議員になったら、甘い汁を吸うだけでなにもしてくれなくなる。批判はそういったもの。


(本当に苦しいからこそそんな批判も出てくる。そういう人の心にも響くような現実的な施策も主張していかないと駄目。人気をひっくり返そうと目論む陣営にとって、批判的な人たちの言葉って利用しやすいから)


 スピーディな作戦展開が重要だというルオーたちの意見が実感できる。今は一気に支持を集められるだけ集めるべきタイミングだと理解した。


「のんびりしてる時間はありません。次弾を装填しましょう」

 戦闘職らしき表現で促してくる。

「もうなのか? 俺、慣れないことやって結構つらいんだけど」

「ひと心地つけるのは選挙の当日くらいのものです。その日だけはなにもできませんから」

「うげ、一ヶ月全力疾走かよ」

 スケジュールとしては現実的だ。


(でも、今が一番ザロっぽい)

 学生時代に見ていた、彼女が憧れていた男に近くなった。眩しいくらいに輝いていると思う。彼はやはり、問題に立ち向かっているときが最も輝くのである。

(傍で支えていられるのは幸せなのかもしれない。あたしも結構打ちのめされてたのかも。希望の光がちょっとだけ見えてきた感じ)


 そんなふうに思いながら、ジェレーネはザロたちと作戦会議を再開した。

次回『照らす朝日の(1)』 「ええ、あまりに多岐に渡るので泣きそうになりました」

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