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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
空き樽は音が高い
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眩しきは(4)

 反響は上々だった。そこまではジェレーネにも予想できる。皆が今の生活をなんとかしたいと思っていても自分ではどうにもできない。政治に打って出るなどと大それたことも考えたこともない。


(考えた人はいたでしょう。たぶん、計画している段階で圧力に屈してきたはず)


 条件がいささか厳しい。一人の人間に二万人の知り合いなどいるわけもない。となれば、ネットコミュニティなどを利用して地道に集めるしかない。そうなると露見してしまう。

 今回のように電撃的に実行してしまわないと第一歩さえままならないのが現実と思われる。ところがそれを実現してしまう力がライジングサンにはあった。民間軍事会社(PMSC)という職業には情報戦でも戦う能力があるらしい。


「今回はローカルネットに特殊なブロックを掛けて軌道プラント群でだけ観られるようにしていました。ですが、早晩もれてしまうでしょう。少なくとも今夜には視聴者が地上の家に帰ります。話題になってしまう」

「そうなると誰かの耳に入ってしまうものね。最悪、密告紛いのことをして利益を得ようとする輩も出かねないと思う」

 ルオーにジェレーネも賛同する。

「そんな奴いる?」

「それだけの数の軌道作業者がいるってこと。コミュニティを絞ってもよかったけど、そうすると一度に二万人以上には手が届かなくなる。これは電撃戦なのよ」

「物騒なこと言わないでくれよ、ゼフィーリア」


 案外剣呑な雰囲気を放つ美女にザロは怯えている。今になって、この戦闘職の人たちが怖いとか言い出さないか心配になってきた。


(確かに、ちょっと触れた感じでは血なまぐさい仕事をしている人には見えない。特にルオーとクーファとか)


 最初に出会ったのがこの二人だと聞いた。その時点で印象は決まっている。まさか、かなりの危険を伴う挑戦だとは思っていないだろう。


「この時点で意を決してくれる人がどれくらい出てくるかで勝負が決まるかしら」

「手伝ってくれる人にお菓子サービスとかすればよくてぇ」

 クーファの意見は茶々でしかないが。

「悪くないわね」

「悪くないの!?」

「お菓子よりもっといいものが手に入るって思わせればいい。それだけのこと」

 猫耳娘は「もっといいお菓子ぃ?」とよだれを垂らしている。

「第二弾はもっと大胆にいったほうがよくなくて?」

「ゼフィさんの助言が正しいです。程よく噂になったところで全国範囲でもう一度演説してもらいます。そうですね、二日というところでしょうか」

「大々的にでなくともソーシャルネットで一気に拡散される。昨夜の演説も動画として広がりつつあるはずだわ」


 大それた狙いのためには大それた計画が必要。それは理解できるが、あまりにスピーディな展開に頭が追いつかなくなりそうだ。


「二万人の目処が付く前でもいいのか?」

 ザロは不思議がっている。

「付いてからでは遅いでしょう」

「逆にいえば、もう付いてるって発表してもいいくらい。乗り遅れたくないと思わせる感じになるから」

「嘘じゃないか」

 このあたりに人柄が表れてしまう。

「綺麗事では済まないんですよ。はったりくらいでいい。失敗しても謝るのはあなたです」

「俺かよ」

「冗談です。ここまでこぎ着けた時点で有権者推薦の二万人は確保できたと思ってください。でき得るなら、多方面に及ぶくらいの勢いをつけるのが肝要です」


 ザロはピンときていないかもしれない。兎にも角にも今は味方を増やすのが肝心要なのだ。一気に潰せないくらいの勢力に押し上げなくてはならない。


「有権者を味方につければいいんだな?」

 自身の話術によるものだとプレッシャーを感じていそうだ。

「もちろんです。ある程度のラインを超えたら有権者だけではなくなりますので」

「ええ、動かざるを得なくなるかしら」

「その流れに持っていきます。味方が多くても組織力がなくては話になりません」

 ザロは首をひねっている。


 ルオーとゼフィーリアは有権者の向こう側の話をしているのだ。つまり、議員である。有権者の意思が動いたとき、要するに民意に傾きが表れたとき、議員は動きはじめる。今の地位に危うさを感じるからだ。


「野党に入り込むつもりなの?」

 大事なポイントになる。

「いいえ、飛び込んだりしません。多数に飲まれるだけです。逆に取り込むんです」

「こっちに付かないと次はないって思わせるのよ。人気を利用されるんじゃなくて相手の組織力を利用するの」

「そこまで考えてたの?」

 先を読んで順繰り組み上げられた計画だった。

「民意を得るまではいいんです。問題は、数が多いからといってそれだけでまわるわけではないということ」

「組織立って動かないと議会は動かせない。そのためにちょっとだけなら人気を使わせてもいいかしら。そのくらいの感覚でお願い」

「お願いって、そんなに簡単な話じゃないでしょう、ゼフィーリア? あたしに経験豊かな議員を操れって言ってるの?」


 結論としてはそうなる。ゾッとしない話だ。


「できるかじゃなくやるの。実際に動き出したらわかるけど、そんなに難しいことではないわ。あなたはザロの後ろにいて、ああ言えこう言えって囁くの」

 笑いながら教えられる。

「俺はジェーンの操り人形なのか? それって俺の意思っていえるのか?」

「勘違いしない。あなたは権力が欲しいの、ザロ? 今を変えたいんじゃないの?」

「もちろん変えたい」

「だったら方法論は二の次になさい」


 ゼフィーリアに凹まされるザロを可哀想に思うジェレーネであった。

次回『眩しきは(5)』 「俺、慣れないことやって結構つらいんだけど」

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