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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
空き樽は音が高い
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眩しきは(3)

 突飛過ぎる申し出にジェレーネは唖然とした。ルオーと紹介された青年がなにを考えているのかまったくわからない。


「ゼオルダイゼ。そうですね?」

「……!」


 周囲に聞こえないくらいの声量で彼が告げてくる。彼女は身震いして言葉を紡げなくなった。理解していてルオーはなにかを起こそうとしている。


「ザロさん、あなたには決定的に欠けているものがあります」

 元の声量で続ける。

「足りないもんだらけなのはわかってるって」

「一番のネックになるものです。あなたには現状を把握し分析し解説して教え、あなたの判断を実行に移す計画を練ってくれるブレインがいません。やりたいことを実現してくれる人材です」

「あんたがやってくれるんじゃないのか、ルオー?」

 当然のように目を向けている。

「選挙活動に関しては契約しました。ですが、議員活動に関しては俎上にも上がっていません」

「頼めないのか?」

「あなた、僕をいつまでただ働きさせる気です?」


 言われてはたと気づくザロ。彼は昔からそういうところがある。それでも誰もが寄ってくるのは、人好きのする部分があるからだろう。


「いずれ、そういった人材を探さねばと思ってました。いるじゃないですか、最適の人物が」

 ジェレーネを示している。

「え、あたし?」

「気心も知れているみたいですし、付き合いも短くはないと見えます。ザロさんの性質をよく理解していて、どういう方向に話を持っていけばいいのかわかっていらっしゃるでしょう?」

「それは……そうかもだけど」

 意外と押しが強い。

「大変なのも理解している。ならば、その大変を軽減する気になりません? 今ならもれなく明るい将来が付いてきます」

「バーゲンセールみたいに言わないで」

「売り物は俺なのかよ」


 同時にツッコむ。息が合うと思われても仕方がない。実際、ゼフィーリアと名乗った美女が猫のような笑いを浮かべていた。


(やられた。あたし自身だってどこまで本気かわからないけど、ザロを放っとけないくらいには意識してる)

 見事に引っ掛かってしまった。


「ルオーさん、あなた、あたしが危惧している部分もわかってて、どうしてそんなに強気に出れるの?」

 青年を横に引っ張って内緒話をする。

「議員の裏には間違いなくゼオルダイゼの影があるの。仮に選挙活動が順調にいったとしても、ううん、順調なほど圧力が掛かってくるに違いないじゃない」

「情報戦、正確には電子戦としましょうか。それに関してはまったく引けを取らない戦力があると申しておきます。武力的には、そっちの領分は任せてくれとしか言えません。肝心なのはザロさんを支えるパーツです。それをあなたにお願いしてるんです」

「矢面にはザロと一緒に立つから裏方をやれって言うのね」


 ルオーの言わんとしていることは理解した。確かに彼の見立ては正しい。ジェレーネならザロの足りない部分をフォローすることも可能だ。国家権力という想像もできないほど大きな敵に立ち向かえるかどうかは未知数だが。


「背水の陣で挑めって?」

 ザロにも合わせて尋ねる。

「もう、決めた。逃げるのは嫌だから立ち向かう。やってみて玉砕したら、そのときはまた考える。ジェーンと二人、どこかに逃がすくらいは頼めるだろ、ルオー?」

「それくらいはお安い御用です。本気でお願いします。まあ、片手間でできるような活動じゃありませんし」

「わかりました。辞めればいいんでしょう? 見捨てらんないし」

 こうなれば一蓮托生である。

「教えて。これからどうするつもり?」

「では、まず演説草案に目を通すところから始めていただきましょう」


(このルオーって人、見た目によらず策士じゃない)

 観念する。

(どういう経緯か知らないけど、とっくに後戻りできないとこまで進んじゃってる)


 ジェレーネは目まぐるしく動く事態に冷静を保つのがやっとだった。


   ◇      ◇      ◇


「このままじゃ誰も幸せにはなれない。そんなのは俺じゃなくてもみんなが考えてるだろう」


 惑星軌道作業員のコミュニティに配信の予告を流したのが昨夜。皆の判断力が残っているであろう昼休みの時間帯に実行している。


「不幸なだけじゃ済まない。いつかは気力も体力も搾取されて潰れるだけだ。そう感じて、俺になにができるか考えた」


 口調を改める案もあったが、すぐにボロが出る。伝わる熱さも欠けてしまう。ゼフィーリアやジェレーネの助言を得て、包み隠さず感情を爆発させて訴えることにした。


「誰かが今を変えないといけない。全員で逃げるのでも放り出すのでもなく、正規な方法でだ」


 テロリズムに走るでなく、持続的な手段で未来を変えるのだと伝える。そうでなければ、変えられるのはわずかな時間だけで子々孫々ではない。


「俺には難しいことはわからないが助けてくれる人がいる。足りない頭を補ってくれる人がいる。だから思いきって議員になって、議会に俺の考えをぶつけてみたいと思う」


 誰もが驚いたことだろう。実際に、何ヶ所かのプラント内を映す投影パネルには食事の手を止める姿も散見される。


「みんなの代表として俺を議会に送り込んでくれ。そうしたら絶対にみんなの生活をまともに、いや、豊かになれるよう全力で挑みたい。まずは第一歩のために力を貸してくれ」


 ザロは全員の心を受け取るべく手を差し出した。

次回『眩しきは(4)』 「物騒なこと言わないでくれよ、ゼフィーリア」

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