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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
空き樽は音が高い
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手を伸ばし(6)

「わたし、ゼフィーリア・マクレガー。君は?」

 そう言って美人はルオーの様子をじっと窺っている。


 彼女の格好はフィットスキンにパイロットブルゾン、頭にσ(シグマ)・ルーンというアームドスキン乗りのもの。前を開いたブルゾンの隙間から抜群のプロポーションが垣間見えている。


(こんなのに腕組まれて平気な顔してるとかルオーっておかしな趣味あんのか?)

 ザロにそうまで思わせてしまう美形の登場だった。


「ルオー・ニックルです。君こそ僕なんかになんの用です?」

 軽くあしらっている。


(おいおい、いよいよ趣味を疑うぞ。クーファみたいな子供っぽい娘連れてると思ったらそっち系なのか? そうなのか?)

 怪しい風向きだった。


「冷たいじゃない。議員を捕まえて、あんなに平然と煽ってたのに」

 口元を歪ませて吹き出しそうになっているのに美は誤魔化せない。

「…………」

「わたし? わたしはね、あの議員先生に売り込みに来てたの」

「売り込み?」

 青年の瞳はより温度を下げる。

「まっさか、色っぽい話じゃないの。国内情勢がこうでしょう? いつなんどき、厄介事が起きないともかぎらないほど内圧が高まってるじゃない。そういうときに役に立つって」

「パイロットとしてですか」

「もちろん。それ以外の役に立てそうに見える?」


 明らかにルオーをからかっている。想像を掻き立てさせながら、肝心のところで裏切って遊んでいた。


「君の冗談に付き合っていられません」

 さり気なく手を振りほどいて去ろうとする。

「冗談じゃないんだってば。さっきの話、続きをしてみない?」

「君がです?」

「ええ、わたしとしない?」


 わざと艶っぽい言いまわしをする。彼女こそルオーを煽っているとしか思えない。


「はぁー……」

 青年は長い長いため息を吐いてから、ちらりとゼフィーリアを見た。

「行きましょう。オフィス(ここ)でつっかえてると面倒になります」

「うんうん、そうね。聞き分けてくれて嬉しい」

「ワンサイズ大きいオートキャブ拾わないといけないじゃないですか」

 一行は四人になってしまった。

「ゼフィはルオが好きぃ?」

「ん? とっても興味深いわ」

「そうなんだぁ。クゥも好きぃ」


 会話の流れが理解できない。ただし、二人の会話でルオーの表情が緩んだのは確かだった。


「ほらほら、続き」

 オートキャブに乗り込んだゼフィーリアが促す。

「続きってさっきの献金の話でいいのか?」

「そうよ。もっと艶っぽい話をご所望?」

「いやいや、そんなんじゃないって! 変な気起こしてないから」

 ルオーが落ち着いている分だけ、ザロが興奮するのは恥ずかしいと感じる。

「袋小路に陥ってた話です? あれは続けてもどうにもなりません」

「よね。議員先生方が思ってるみたいにお金はどこかから湧いて出るものじゃないし」

「それがわかってるなら結論は自ずと導き出されるじゃないです?」


 当然のことのように言う。しかし、ザロにはさっぱりわからない。


「ええ、湧いて出ない。だったら募るしかない」

 ゼフィーリアは微笑を浮かべている。

「それじゃ、今を変えることはできないのか」

「その先で間違っているんです。どうやら先生方は献金に意図が書かれているみたいに感じてる。でも、そんなことはないんです」

「そう、無視すればいい。便宜を図るのが当然と思うから歪むわ。逆にいうと、便宜を図ってくれないと出せないお金は受け取らなければいい。純粋に議員として政策を支持できるから応援したいという人からの献金だけにすればいいわ」

 目からウロコだった。

「ほんとだ。すごいな、ゼフィーリア」

「そこまでは難しくないんです。問題は実際に便宜供与が行われない仕組み作りが不可欠なんですよ」

「そう。監視する目が必要」

 彼女はウインクしている。


 ザロを置いてけぼりにして議論は進む。中身をどうにか理解しながらついていくのが精一杯だった。


「政治資金開示法みたいな立法へと向かいますね」

 具体的な方法論に及ぶ。

「監視する機関なんて不要よ。国民っていう監視する目はいくらでもあるんだもの。使途さえ明確に開示されていて、それが献金に対する便宜供与でないと証明できればいいの」

「はい、便宜供与となればアウト。ましてや開示されない資金供与があれば全て違法としてしまえばいい。できるだけシンプルな形に収めるとそうなります」

「政治資金開示法のベースになる考えは以上ね」


 いとも簡単に結論に導いていく。二人の遣り取りはわりと理解しやすいものだった。


(これは俺に聞かせてくれてるのか)

 ようやく気づく。


「なんでエルゲン議員に教えてやらなかったんだ?」

「無駄だからです」

 ルオーは平然と言う。

「無駄って」

「あれだけ議論して結論に至らないのは、彼が野党議員のぬるま湯に浸かっているからです。思考停止しているのですよ」

「思考停止か……」

 思い当たるフシがある。

「まずは批判という切り口だったでしょう? そうじゃなく、今、僕が口にした方法でも資金の流れは水面下に潜る可能性がある。その対策くらいまですぐたどり着いてくれるくらいでなければ頼りになりません」

「だから帰るって?」

「ええ。あれ以上突っ込むと、あのタイプはキレてしまいますし」

 苦笑いしている。


(そこまで計算して話してたのか、ルオーは)


 ザロは今後の身の振りようを彼に任せてみる気になった。

次回『進んで気づく(1)』 「あら、嫌われたものね」

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