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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
空き樽は音が高い
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手を伸ばし(4)

「失礼かと存じますが、まずは質問です」

「なんだね?」


 ルオーが臆することなく話を進めるのでザロの心臓の鼓動は早まる。怒らせるようなことを言ったら放り出されるのではないかと危惧した。まだマシで、警察を呼んで連れていかれるような羽目になれば目も当てられない。


「あなたの属する民尊党は野党に甘じていますが、その原因はなんだと思っていらっしゃいます?」

 いきなり大胆な質問だ。

「力不足としか言いようがないね。有権者の皆さんに私たちの主張がきちんと伝わっていないのだろう」

「それも一つでしょう。ですが、同党の他の議員のみなさんも、党のポリシーページにも堂々と『民意に寄り添う政治を』と謳っておられます。そう標榜するなら、有権者にもっと響いていなければ変だと思いますけど」

「そうだね。広報が足りないと思うしかない。与党の方はもっとマスメディアやソーシャルメディアの使い方が上手なのだろう」


 当たり障りのない答えが返ってくる。彼にも実際そうなのだろうと納得できるものだった。


「そうですか。では、現実に目を向けてみましょう」

 ルオーはザロの方を見る。

「前回の投票先はどこでした?」

「共生党の……ある議員だ。名前まではちょっと」

「結構です。それはなぜです? 本当のことを教えてください」

 単刀直入に訊いてくる。

「社からの指示なんだ。投票しないとクビ……、解雇される」

「こんな話があるんですけど、エルゲン先生はどう思われます?」

「非常にけしからん話だ。民主主義を冒涜している」


 やっと手が届いたと感じた。この議員なら議会で与党の遣り口を追求してくれるのではないかと。


「それは周囲だけでの話ですか、ザロさん?」

 更に深く突っ込んでくる。

「いや、ほとんど常識みたいなもんだ。実際に解雇された人は知らない。みんな、蓄えもなくてクビになったらすぐ食えなくなる。それが怖くて抗えない」

「なるほど。大多数の方がそう感じている。それほど一般化しているなら先生の耳に届いていてもおかしくないと思うのですが」

「いや、初耳だ。事実なら由々しき問題。非常に遺憾に思うね」

 本当に驚いている反応だ。

「では、なぜそんな専横が許されているのでしょう。不思議だとはお思いになられません?」

「与党の力が強いのは紛うことなき事実なのだよ。我が国の主要産業各社にも様々な便宜を図ってホーコラの存在感を大きくしようと活動している。そのあたり、各社が与党支持に傾く原因なのだろう」

「事実です?」


 ルオーが再び彼を見ている。意見を求められているのはわかるが、せっかく味方になりそうな議員が前にいるのに否定するようなことは言いたくない。しかし、青年は「包み隠さず教えてくれません?」と言い添えてきた。


「うちの社も、でっかい企業はどこも一緒だ」

 観念して口を開く。

「与党に多額の献金をしてるんだよ。だから、与党議員が選挙で受かるよう社員に指示するんだ。半強制的に」

「典型的な組織票ですね。手段はかなり悪質ですが」

「与党が推してる企業ってのは全部外資なんだよ。だから、俺たちが必死に働いて稼いでも儲けはみんな同盟に流れてる」

 怖くてエルゲンのほうを見られない。

「教えてもらったとおりですね。すると、問題の本質はどこにあると思います、エルゲン先生?」

「うむ、企業献金だな。持ちつ持たれつの関係があるかぎり、現状は変えられないかもしれない」

「そうですね。僕もそう思います」


 ルオーが問題解決の方向に導いてくれているのだと思った。それをザロに見せようとしているのだと。


(だったら、俺はエルゲン議員のために働いてもいい。頭のほうは自信ないけど、大声で訴えることくらいはできる)

 政治活動の手伝いをしてみたいと思う。


「では、悪い流れを断ち切るにはなにが必要です?」

 方法論にまで及ぶ。

「立法が必要だね。企業献金を抑制または禁止するような。検討しよう」

「それだと、個人献金は可能となります。あるいは企業の立ち上げた政治団体などに名を変えて献金は続くのではありません?」

「確かにな。穴がある」

 エルゲンは考え込んでいる。

「一切を禁止するしかないか。それなら政治家と企業の癒着は断ち切れる」

「そうでしょう。ですけど、それは可能なのですか?」

「厳しいね」


 エルゲン曰く、政治には金が掛かるという。私腹を肥やす方便とも思えるが実例を持ち出してきた。


「私もこうしてオフィスを構えている。当然、賃貸料は必要だ。それ以外にも、ここのスタッフ陣の給料も払わねばならない。一部は国庫からの援助もあるが、かなりの部分持ち出しでやっている」

 周囲では多くの人が立ち働いていて、彼らにギャランティを払うのは当然のこと。

「ここ以外にも、政策集団を抱えていたりする。その維持費も馬鹿にならない。だから、常に企業や個人からの献金を募っているのが現実だ」

「すると、僕の友人のように困っている人を救済するのは事実上困難ということになりますね?」

「いや、なにか方法があるはずだ。私は国民皆が豊かに暮らせるように議員をしているのだから」


(もしかしたら、この議員なら俺たちを救ってくれるかもしれない。なにか妙案をひねり出してくれるはずだ)


 ザロはエルゲンに期待の眼差しを向けた。

次回『手を伸ばし(5)』 「あきらめます?」

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