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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
火のないところに煙は立たない
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夜明け待つ(4)

 ルオーが合流してきた時点で残っていたクーデター国軍機は十機に届かずというところまで減っている。パトリックたちのすさまじい攻撃力に不利を覚って議会ビルに向かう。


「決断が遅いんだよ」


 新たにアーム型になったベルトルデの重力波(グラビティ)フィンを幅広く展開して出力を上げる。クアン・ザと同じ形式の推進機は極大の重力場を生み、機体を前に押し出した。フィンが鳴く声と風切り音を感じながら追いすがった。


「させんよ! ってな」


 一番近かった一機の足を掴み引き寄せる。膝でかち上げて姿勢を崩させると鳩尾から斜め上にブレードで貫く。

 先行する二機が収束ビーム(スクイーズショット)でスラスターを破壊されて漂い落ちる様子を横目に次のパンテニールに迫った。必死に向けてくるビームランチャーを半ばから裂いて誘爆させると頭部を突き、そこから下に斬り下ろしていく。


「いいぃ、やめろぉおー!」

「死ぬ覚悟もないんなら都市で騒ぎなんぞ起こすんじゃない」

 制御部まで届いたところでブレードを引き抜いた。


 ビルすれすれを背面飛行で飛んでいくクアン・ザが容赦なく次々とコクピットに穴を開けていく。らしくないと思っていると、白いヘヴィーファングも背中から思いきり胸までブレードを突き立てていた。


(甘いのはオレか)


 故郷の惑星(ほし)を意識して、取り繕おうとしている自分に嫌気が差す。今さら誰にどう思われようが構わないというのに。ゼーガンの名が死ぬまでつきまとってくる亡霊のようで気持ち悪い。


「こんなもんか」

「十分でしょう。あまり威圧的に飛びまわるのも不安にさせるだけです」

「だな。ありがとさん。なんだったら一緒に来てくれ。ちょっとした礼くらいはできると思うぜ」


 ヘヴィーファングに問い掛けると首を振る。胸の前にかかげた手の指だけが踊り、別れのジェスチャーを送ってきた。呼び止める間もなく郊外の方向へと飛び去っていく。


(なんだったんだ?)

 最後の仕草が女性っぽくてパトリックは引っ掛かる。


 発進口を潰されて遅れた警察機が大挙してやってきて撃破機の処理を始めていた。数の多さと時間的に切迫していたので、半分くらいはパイロットも無事ではないだろう。無謀な企みに加担した時点で終わっているので気にしても仕方あるまい。


「管理局ビルに行きます。家族が待っているので」

「おう、行く」

「ええ、君も呼んでるそうですよ?」

「ああ、オレもか?」


 隣り合わせに向かっていると、宙港から飛び立ったライジングサンが管理局ビルの最上階に直結(ダイレクト)通路(パスウェイ)を接続しようとしている。ちょうどいいので船に戻ることにした。


「兄さん!」


 聞いていたフロアにたどり着くとルオーに見事な金髪の美少女が飛びついていく。彼女が件の妹らしい。猫耳娘にまで組み付かれて相方は尻餅をついていた。


「遅くなりましたね」

「いい。でも、コシュカが……」


 美少女に絡もうと動き出していたパトリックは彼女が生首を抱えていたのでギョッとして足が止まった。


   ◇      ◇      ◇


 兄の無事と活躍は喜ばしいが、どうしようもなくサリーの気は晴れない。最期まで頑張ってくれたコシュカに報いるにはどうすればいいのかわからなかった。


「君が無事ならいいんですよ」

「でも」

「彼女の顔を見てください。こんなに安らかです。満足だったのでしょう」


 確かに兄の言うとおりだろう。しかし、視線を落とすと視界が滲んでくる。ライフサポーターの献身が走馬灯のように脳裏を埋めた。


「満足でした」

 頭を取り上げられる。

「え?」

「このわたくしは満足だったのでしょう。でも、わたくしはここ数時間の記憶がありません。すみませんが憶測でしかありません」

「コシュカが二人?」

 コシュカの頭を持ち上げているのはコシュカである。

『バックアップから再現してみたー。メモリーも移植してあるからー』

「え? え?」

「よろしければ、またお世話をさせてくださいませ」


 新しいほうのコシュカが深々と頭を下げる。手を取られて立ち上がってようやく事態が飲み込めてきた。今度湧いてきたのは嬉し涙。大切な家族に抱きついた。


「コシュカ、よかった」

「コシュカぁ」

 オマケのようにクーファも腰にすがりついている。

「お菓子がなくなったからおかわりを要求するのぉ」

「すみません。今はお出しできません」

「そこなの?」


 サリーは泣き笑いになってしまう。兄も立ち上がるとティムニのアバターを労っていた。


『ルオーの要求どおりアームドスキン並みの出力に改造してみましたー』

 その顔が凍りつく。

「マジですか?」

『全身マッスルスリング仕様で人間の三倍以上の駆動力ぅー』

「ですが、あれは金属パッケージ駆動機だったはずです」

 技術的な会話になる。

『フィルムパックで小型化ぁー。ただし、耐圧性は皆無だから他のライフサポーターみたいにそのまま宇宙に放り出せないからー。連れてくときはフィットスキンを着せてねー』

「いや、そういう問題じゃないです」

「はい、出力はアップしているので今度は確実にお守りできます。このとおり」


 腰のベルトを片手で掴むとヒョイと持ち上げてしまう。宙に浮いたルオーはジタバタともがいていた。


「勘弁してください。恥ずかしい」

「出力確認が必要なのかと思いまして」

「ティムニ、なにか余計な機能まで付け加えてません?」


 眉を下げる兄がおかしくてサリーは腹を抱えて笑った。

次回『夜明け待つ(5)』 「でも、一つだけ忘れないでください」

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