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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
火のないところに煙は立たない
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夜明け待つ(3)

 ニックル家は特別に管理局ビルの上階へと招かれたようだった。避難者は無制限に受け入れている様子だったが、最上階近いそこまでは誰一人来ない。


「先輩、このフロアは入って良かったんですか?」

 サリーは若干不安になる。

「お兄さんのこと、気になるでしょう? ここからならよく見えるはずよ」

「ルオ、いるぅ」

「ほんとだ」


 クーファが指差す先に兄のモスグリーンのアームドスキンが飛んでいる。時折り光条が走って狙われているが、小さめの機体は悠々と回避している。


「上手い?」

 普通なのか難しいことなのかもわからない。

「ええ、お見事ね。クローズドスペックのアームドスキンだけど、株式会社ライジングサンの事業申請には必要だから登録あるわ。クアン・ザの性能はマロ・バロッタの国軍機なんかとは比較にならない。そのうえ、お兄さんが乗っているんではねえ」

「そうなんですか」

「見てると慣れてくるから」


 飛んでいるところをビームがかすめる。横に寝かせるように避けたかと思うと反転し、姿勢を変えて正対させる。放ったビームは胸の真ん中に直撃して穴を開けた。狙撃された機体は背中側から溶解した金属飛沫を飛ばすと真後ろに倒れる。

 背後を取った国軍機がブレードを振りかざして突進する。ルオーの機体が左手を放すと武器がクルンと旋回して後ろ向きに。発射されたビームが胸元から頭へと切込みを入れた。


「強い?」

 彼女に死を覚悟させた国軍アームドスキンに取り囲まれているのにものともしない。

「ルオはアームドスキンに乗ったら無敵だよぉ」

「そうなんだ」

「うん!」

 驚きのあまり単調な受け答えしかできなくなっている。


 飛び上がってきたアームドスキンを兄のクアン・ザが迎撃している。そこへ背後からの狙撃が走った。左の武器で迎撃しつつ、右手は武器から手が離れる。

 否、右手にはハンドガンサイズの武器が握られている。ルオーはノールックで後ろへ発射した。ビーム同士が激突すると紫色の光球が膨れ上がる。


「ほしぃ!」

 クーファが手を叩いて喜んだ。

「あれが前に言ってた星? ああやって作るの?」

「宇宙だともっと綺麗だよぉ」

「あれって……」

「ええ、人間業ではないわね」


(もしかして、兄さんってとんでもなく強いパイロットなの?)


 サリーの目の前でクーデターに参加しているアームドスキンは残り少なくなりつつあった。


   ◇      ◇      ◇


「たかが二機にいつまで手こずってる」

 奥まった部屋で外の様子を観察しながらクラークは忌々しげに床を蹴る。


 軍務大臣はとうに尻尾を巻いて逃げた。あの様子だと、雲隠れしようと考えているのだろう。計画なら、今頃は議会ビルの全権を掌握して国民向けに新たな展望を語っていなければならない。


(あんな薄っぺらい理念など伝わるわけがない。現在の星間銀河圏を管理局抜きで生き残るなど不可能だ)

 自身が自由銀河党との顔繋ぎをしながら愚かしいことだと思う。

(そんなことさえ読めんから、いい年になるまで冷や飯を食わされたとなんでわからない? 俺は違うぞ。右往左往してる兄二人だけじゃなく親父殿も蹴落とし、名実ともにゼーガンを引き継いでマロ・バロッタに名を馳せるのだ)


 あとは軍務大臣が内密に進めたクーデター計画を公然と詰り、国が真に平和と繁栄の道をたどるなら星間管理局とのさらなる融和を図るべきだと論じるだけ。祖父はそれで満足だろう。


「邪魔だな」

 敵の数が増えている。

「ルオーとやらに逃げられたのは誤算だったが、そろそろ家族を確保できた報告があってもいいはず。どう料理してやろうか」


 翻意させるための材料となる肝心の報告はなかなか来ない。管理局の戦力が動き出したとの報告もない。事は露見してないはずである。

 クーデター計画そのものは成功しようが失敗しようが大差ないので、落ち着いて待つのが正解だ。殊勝な姿を見せるのに、気持ちも作っておかねばならない。


「クラーク・ゼーガン様、こちらでしたか?」

 インターフォンに応じると警備隊員の顔。

「外はどんな様子ですか? 僕は怖くて動けなくて。軍務相ともあろう方がこんな暴挙を……」

「今のところ、当議会ビルに問題はありません。ビスト様がいらしています。案内いたしますのでお越しください」

「大叔父上が? 僕を?」

「はい、こちらへ」


 クラークは不承不承立ち上がった。


   ◇      ◇      ◇


 息を合わせるのが上手いとパトリックは思う。どこの誰かは知らないが、彼が国軍機を蹴り飛ばしただけで、タイミングよくカウンターの一撃を入れて撃破した。

 白いボディに青いショルダーユニットとヒップガードが爽やかな配色だ。機敏な動きがさらに爽快感を際立たせている。


「もう一つ」


 周囲を片づけ、両者の中間あたりで対処を躊躇している国軍機がいる。ひと蹴りで薙いで抜けようかと振り返ったところで、ビームが突き刺さり胸から頭へと溶解した溝を掘った。


「来たか、ルオー?」

「遅ればせながら」

 まだ遠いが、ベルトルデには二人が繋がる交信システムが搭載されていると聞いていた。

「片づけるぞ」

「はい。ライジングサンはゼーガンの明日を暗闇に閉ざしたりしない……、ほうがいいんです?」

「そこは断言しとけよ!」


 パトリックはツッコミという自分の役割を否応なく思い出させられた。

次回『夜明け待つ(4)』 (甘いのはオレか)

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更新有り難うございます。 パイロット時とのギャップが⋯⋯。
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