表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
火のないところに煙は立たない
253/353

夜明け待つ(2)

(マズい。数が多すぎだ)

 パトリックは焦燥感に背中をちりちりと炙られる。


 正直、連携はなっていないと思う。その程度のパイロットスキルだから地上でくすぶっているのも仕方なかろう。

 ただし、ここは広い宇宙空間ではない。狭い首都(バロッタ)の官庁街近くの上空に、四十機くらいはいようか。邪魔をする彼のベルトルデに次々と斬り掛かってくるパンテニールが周りだけで十機以上。


(パワーはもちろん、思ってるとこにきっちりと動いてくれる。ベルトルデは最高の機体だ。ただし、オレがまだ乗りこなせてない)


 リフレクタに紫の斬線を刻ませながら軸足を中心に機体をまわして背後に振り抜く。背中を狙ってきていた敵機の胸元を浅く裂いた。真っ二つになった二重ハッチが木の葉のように舞っている。

 前の相手は踏み込んできたところを滑らせた足で引っ掛ける。転倒させてダメージを与え、戦闘不能にしたかったが後ろから更に別の機体が突きを飛ばしてきた。連携としては拙いが、いかんせん手数が多くて捌ききれない。


(一つも落とせずか)

 一瞬の攻防だが結果は苦い。

(ビームランチャー使ってこない分別くらいは残ってるが、いつまでもつ? 撃ってくるようになったらヤバいな)


 最初は議会ビルの制圧くらいわけないと思って出てきたと思われる。ライジングサンが阻止に動いたときは明らかに戸惑っていた。

 しかし、時間が経って気を取り直したクーデター加担者たちは動いたのがわずか二機だけなのだと察する。そこからはお粗末な力押しになってしまった。


(逃げたらそこまで。議会は制圧される。人質に取られた要人に、テロに屈さず犠牲になれとも言えんな。手が出せなくなる。せめて、家族を助けに行ってるルオーが帰ってくるまではもたせる)


 突きを力場刃(ブレード)で受けて逸らせると見せかける。途中で引いてつんのめらせた。横から脇腹に突き入れる。手元がくるって前側にズレた。制御部ではなくコクピットを貫いている。


(悪い。勘弁しろよ)

 引き抜きながら詫びる。


 転ばせたパンテニールがベルトルデの足を掴んでいたので目標がズレた。振り上げた右足で頭部を踏み潰す。ブレードを逆手にして首元から背中へと突き降ろした。


(わらわらとぉー!)

 迫ってくる相手はキリがない。


 大振りな一閃をかがんで躱す。ブレードの先が反対から来ていたもう一機の鳩尾近くを深く斬り裂く。怪しい位置だ。


「おいおい、やめろってんだ!」


 仰天して跳ね退く。こんなところで爆散などさせようものなら大被害が出る。背筋を冷や汗が流れるのを感じながら見つめた大破機は折れて上半身を後ろに倒しただけ。断面から対消滅炉(エンジン)の外殻が顔を覗かせている。


「心臓に悪い、ってぇー!」


 跳ね退いた方向から飛び込んでくる国軍機。カウンターの一撃が走る。相対速度が速すぎて回避できそうにない。どうにか右手のリフレクタ展開が間に合って受けたが姿勢を崩してしまっている。


「終わっ……!」


 そのままでは尻餅をついて絶好機を与える。なんとか機体をひねってうつ伏せに。落としたつま先を蹴ってしのごうとした。しかし、横には真上から斬り降ろそうとしているパンテニール。もう身の躱しようがない。


「っそぉー!」


 ところが、そのアームドスキンは肩口から脇にかけて光の線を走らせる。ずるりと斜めに傾いで腕も胴体も二つになった。


「間に合ったか、ルオー! ……じゃない!?」

 崩れ落ちた相手の向こうには白いアームドスキン。国軍のパンテニールではない。

「見たことない、いや、あるぞ。ヘヴィーファングだと?」


 パトリックが餞別にもらうアームドスキンの最終候補に挙がった二機種のうちの一つ。スリムなシルエットが軽そうで格好良く、最終的にはカシナトルドを選んだ。だが、打撃力という意味ではかなり高く性能的にも申し分ない、泣く泣くあきらめた機体が『ヘヴィーファング』だった。


「…………」


 白いヘヴィーファングは無言で早く立ち上がれと合図してくる。膝を突いていたベルトルデを立たせると、ブレードグリップを持つ手を上げ下げして攻撃するとジェスチャーで示した。


「誰だ? 手助けしてくれるのか?」

 静かに頷く。


 思わぬ援護に気を取り直す。包囲されたも同然の状態でも一機と二機ではまったく事情が変わってくる。お互いに死角をフォローできるのだ。


「礼はあとだ。切り抜けるぜ」

 親指を立ててきた。


 見れば、ヘヴィーファングが通ってきたであろう道筋には何機ものパンテニールが大破して転がっていた。彼のベルトルデに集中していたところを急襲されたとはいえ、素晴らしいパイロットスキルだと思う。


(これならいけるか)


 逆転の目が出てきた。意気揚々とブレードを展開する。白いヘヴィーファングもブレード一本でここまで斬り進んできた様子だった。


「たまには別の相方もいいもんだ。背中、任せるぜ」

 人差し指を振って行けと合図を返された。

「はいよ。通りすがりの凄腕助っ人さんよ」


 パトリックは今にもビームランチャーを抜きそうな国軍機の集団に斬り込んでいった。

次回『夜明け待つ(3)』 「ルオはアームドスキンに乗ったら無敵だよぉ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ